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ナースマガジン vol.35

看護・医療しゃべり場 これからの在宅医療の在り方-新型コロナウイルス対応を通して-

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと略)は私たちの生活、医療現場を大きく変えていきました。繰り返し押し寄せる感染拡大の波に、読者の皆さんも、患者・家族を感染させないように、自分自身も感染しないように対応してこられたことと思います。

昨年の第一波から、法人全体で在宅患者の感染防御対策を行いながら在宅や施設への訪問診療を継続してきた医療法人社団悠翔会理事長・診療部長の佐々木淳先生にお話を伺いました。

生命・生活・尊厳を守る在宅コロナ対策

◆感染拡大当初は、訪問を躊躇する空気が医療者側にも在宅患者側にもあったように思います。佐々木先生率いる悠翔会では、どのようなコンセンサスを掲げて取り組んでこられたのですか?
 昨年4月から、コロナ患者さんを受け入れる態勢も整えた上で訪問を続けています。感染防御の方法を知っている僕ら医療者が訪問を控えてしまうと、在宅での感染対策の指導が徹底されずに、感染を外から家へ持ち込むリスクが大きいのではないか、と考えたのです。

 コロナも想定し、僕らが在宅医療で重視しているのは、 「生命を守る」 「生活を守る」 「尊厳を守る」の3点です。

①生命を守る

 僕らの最大の使命は、命の危機をもたらす感染を防ぐこと。家族や施設職員、介護職員が感染を持ち込まないよう、日常生活の視点からのアドバイス、指導を行いました。

 コロナの症状の一つに発熱がありますが、 発熱は肺炎、 尿路感染、 薬の影響、脱水など様々な理由が考えられます。その様子が普段の体調変化の範囲内か、家族をはじめ訪れた人の中に体調不良の人がいないか、そして地域の感染者数がどの程度なのか。これらを総合して対応すべきところを、 情報の少なかった第一波の頃とはいえ、熱が出たら発熱外来に行く、行けないなら家で待機なんて、かかりつけ医としては受け入れがたいことでしたね。

②生活を守る

 要介護高齢者は重症化リスクが高く、コロナで入院しても自力で回復できる人は少ないでしょう。恐らく死ぬまで人工呼吸器をつけ、ICUに入室して家族にも会えない。そんな生活から”切り離された入院”は、感染による死の恐怖よりも病院で1人で死ぬのは嫌だ、という思いをもたらします。本人も家族も「感染しても入院せずに自宅で生活を続けたい」と意思表示されている場合は、コロナであってもケアが継続できるよう、地域の思いを共にする訪問看護ステーションと準備を進めました。

③尊厳を守る

 生活を守ることにもつながりますが、患者さんは人生の最終段階をどこで誰と過ごしたいのか、何をしてほしくて何をしてほしくないか、ということを尊重します。

 在宅医療に携わる我々が「コロナ患者は診ません」ということになると、患者本人の「家で過ごす」という選択肢がなくなってしまいます。
 本来、保健所から入院の指示があったら従わないといけないのですが、それを望まず自宅で過ごしたいという場合は、 保健所に交渉し(病床も不足していましたし、保健所から委託を受ける形で在宅管理をさせていただいた感じです。この体験は、地域における在宅訪問医の役割も見直すきっかけになりました。
◆実際にコロナ感染患者宅を訪問したときの様子を、もう少し詳しくお聞かせ頂けますか?
 ヘルパーさんたちに感染者のケアを任せるのは少しハードルが高いと思ったので、感染防御のトレーニングを受けている看護師と医師だけで必要最小限のケアを行いました。普段ヘルパーさんがしている仕事を看護師がやり、看護師が普段やっていることを僕ら(医師)がやる、“逆タスクシフト”を組み、特別なケアプランをケアマネさんに組んでもらいました。

 在宅でもビニールテープでコロナウイルスに感染するリスクのあるゾーンと通常の生活を安心して送れるゾーンを明確にし、我々自身も含め、家の中での行動ルールを決めて徹底しました。ご家族が感染してしまったら患者さんが自宅で生活できなくなってしまいますからね。

 コロナウイルスは1週間~10日で感染力はほぼほぼゼロになると言われているので、その間、患者の命を守り、体力の低下を最小限にしつつ、外に感染を持ち出さないことが求められます。普段行っている手厚いケアや自立支援、リハビリやデイサービスにかかる部分は短縮させてもらい、関わるメンバーも決めて生活を守ってきました。食事介助や歯みがきなど、普段はご家族がやっていたお宅でも、基本医療者が行いました。

 重症化すると長期間になり僕らも体力勝負になりますが、 「やれなくもないよね」と賛同してくれる訪問看護ステーションも実は結構ありました。

最高の医療より最適な医療を

◆先ほど言われていた地域医療の役割分担の見直しとは、 どういうことですか?
高齢者は入院するとそれ自体がストレスとなり、身体・認知機能が低下してしまうため、急性期病院での治療は最高の医療であっても最適な医療とは限りません(図1) 。海外では急性期も在宅で診ることで高齢者の入院を防いでいます。ヨーロッパの各国は、自宅を入院病床のようにして治療する在宅入院のしくみを取り入れているのです。

 そこで日本でも見直したいことはまず、脆弱な高齢者が機能低下を起こさないような最適な入院医療が提供できる病院を増やしていくこと。もう一つは、在宅医療でできる範囲を広げていくことだと考えます。なんでもかんでも病院に送るのではなく、コロナとの戦いの最後の砦である病院を医療崩壊から守ることも、僕たち地域医療機関としてもう一つの使命ではないかと感じています。
◆これからの地域における在宅医療について、一言お願いします。
 コロナの流行によって、急性期医療は病院、慢性期医療は在宅、そのような基準で判断していた人達が、第三波の頃にはコロナ対策の情報も増えてきたこともあり、視点をシフトし始めました。

 色々チャレンジしてみて自分たちもできるという経験を積み上げてきた訪問看護師も増えてきたと思います。がん疼痛管理などの認定看護師も含め、在宅現場に安らぎを与える訪問看護が増えていくことで患者・家族が幸せに自宅で暮らせることを期待したいですね。
 病気になっても高齢になっても最期まで安心して暮らし続けられる地域モデルを、自らの在宅医療の実践を通して提唱している悠翔会。取材中、医療関係者の頑張りだけでなく、メガクラスターに拡大させなかった介護施設のヘルパー達の頑張りもねぎらう佐々木先生でした。(2021年3月2日取材)

※写真提供:医療法人社団悠翔会

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