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糖尿病患者の栄養療法&運動療法指導のポイント第1回

【今さら訊けない!】糖尿病患者の栄養療法&運動療法指導のポイント_その1

投稿日:2017.09.06

編集日:2023.03.03
糖尿病の治療法そのものは理解しているけれど、実際の患者指導にあたるときに悩んでいる方はいませんか?

食事制限が必要になると、なおのこと指導の難しさを感じることでしょう。
「今さら訊けない…」そんなあなたに代わって、ナースマガジン編集部が糖尿病治療・指導のプロ、オリーヴァ内科クリニック院長の横山淳一先生、日本糖尿病療養指導士でもある金子多喜子管理栄養士のお二人に、お話を伺ってきました!(文中敬称略)

増えつづける糖尿病

—平成26年の糖尿病の総患者数は、過去最高の316万6000人。何故こんなに増え続けるのでしょうか?—
横山: インスリン分泌量の減少や作用不足で、血液中のブドウ糖(血糖)がエネルギーとして利用されにくくなり、高血糖が慢性的に持続している状態が糖尿病。
それは皆さんご存知の通りです。
インスリンの注射が生涯にわたって必要な1型と、低下しているインスリンの働きに負荷をかけないようにすれば、インスリン療法をしなくても血糖コントロールできる2型があります。
糖尿病患者の約90%は中年以降に発症する2型で、肥満を伴うことも少なくありません。
その原因は、遺伝的な素因に加え、不適切な生活習慣、過食、運動不足にあります。
現代日本の食事の多くは、甘じょつぱい味に仕立てられ、ご飯がすすみます。半面、糖の吸収を抑える食物繊維の摂取量は減っています。
さらに、電化が進み日常生活が便利になった分、体を動かす機会が減ってエネルギー源である糖の消費は少なくなりがち。
意識的にこのような生活習慣・環境を変えていかないと、血糖が上昇しインスリンの分泌に負荷がかかり分泌量が低下し、エネルギーとして利用されなかったブドウ糖がたまって高血糖状態が続き…という悪循環を断ち切れません。
高血糖にさらされて血管が障害されると、様々な合併症をひき起こします。
それらの合併症から要介護状態になることもあります。特に2型では合併症の症状が出て初めて生活を見直す方が多いのです。
生活習慣の改善こそが糖尿病治療の基本であることを押さえておきたいですね。

血糖コントロールの注意点

—高齢者の血糖コントロールで気をつけることは何ですか?
金子:メタボ予防は浸透しており、「太らないようにしなくては」と食事の全体量や、肉・油・卵などの食品の摂取を控えている方が多いです。
しかし、高齢者の低栄養は健康長寿を脅かす要因となります。
日本人の食事摂取基準2015では、摂取エネルギーの指標が力ロリーからBMー(体格指数)に変更され、年齢が上がる程、「やせ」に対して厳しく評価するはこびとなっています。
昨年は、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」が発表されました。
横山:高血糖では合併症の発症リスクが上がります。
利尿剤の影響で脱水傾向になり高血糖の原因となる場合もあるので、服用している薬も把握しておきましょう。
高齢者の場合は、むしろ低血糖に注意が必要です。極端な糖質制限で低血糖になると、脳のエネルギーが不足して認知症の引き金になるという報告もあります。
ふらついて転倒骨折し、入院がきっかけで寝たきり、というのもよくきく話です。
生体にとって基本のエネルギー源であるブドウ糖が少なくなると、蓄えられているタンパク質や脂肪が使われるため、筋タンパクの崩壊や低栄養、ケトアシドーシスにも注意が必要です。
原疾患や体調の変化に伴い、糖分補給が必要な人、糖質管理が必要な人、力ロリー管理が必要な人など、糖尿病患者といっても多種多様です。
また、食後血糖値の高低差が大きすぎると生体への影響も大きくなるため、血糖値の急激な上昇を抑える低GI食品も注目されています。
患者指導に当たるナースの皆さんには、血糖の変動の原因とその意味を理解し、そこで何を優先するべきかを見極める力が求められます。

双方向のコミュ二ケーション

-栄養療法の実践において、患者指導ではどういうことをを大切にしたらよいでしょうか?
金子:一方的な「栄養指導」ではなく、双方向のコミュニケーションに基づいて何でも困っていることを話してもらい、その解決のために相談に乗りますよ、という「栄養相談」のスタンスがいいですね。
実践できそうなことを一緒に探していくのです。そのためには、本人の現状を「見える化」で自覚してもらうことが有効です。
当クリニックでは、診察室の大きな鏡に全身を映し、体組成計で測定した体重や体脂肪率、採血の結果などを受診時に共有しています。
生活習慣の振り返りとデータの推移を患者さん自身が理解・納得することが大切です。
横山:外来受診の中で、本人が気づいていない糖尿病や合併症の兆候にいち早く気づくことも大切です。
血液データだけでなく、歯周病や足の爪水虫など、糖尿病に関連する症状が現れていないかもチエックしてください。

長続きする栄養療法&運動療法を

—栄養療法は制限が多く,また運動療法が必要な人ほと運動嫌いなことか多いと感しています.どうしたら患者のやる気を引き出せますか?
横山:生来、人間は怠け者で楽をしたがりますので、環境づくりや動機づけが大切です。
指導する側が快適、楽しい、と思うことを一緒にやってみたり提案してみる。それができたら評価、つまり褒める。
するとそれが自信になって、モチベーションの維持や継続につながると思います。
食事に関していえば、「満足感と満腹感を満たすおいしい糖尿病食」を食べることです。
食材や調味料選び、食べる順番、外食や市販品を買うときのポイントなどをアドバイスすると、作る人も食べる人も負担にならない栄養療法を継続することができます。
当クリニックの食事指導には、日本型食事に地中海型の原則を取り入れています。
自然食品の素材を丸ごと使う全体食で調理法も簡潔なので、「これが糖尿病食19」と驚かれています。雰囲気も大切ですから、テーブルのセッティングやお気に入りの器に盛りつけるなど、楽しみながら演出することもすすめてみてはいかがでしょうか。
運動も「療法」なんて言わず、家では家族に頼まず自分が体を動かしましょう、積極的に散歩を楽しみましょう、階段を使いましょう、それでいいのだと思います。
ただ、歩くにしても、正しい姿勢で歩けているか、ナースの眼でチエックをしてほしいですね。

●食後の高血糖抑制のために

生活習慣の改善

①時間をかけて食事をする
②食後の運動を心掛ける
③食物繊維を多く含む食品を摂る
④ショ糖(砂糖)を調理に使わない
⑤低Gl食品を摂る
⑥油脂は量より質に注意する(例:オリーブオイル)
※③~⑥は地中海型食事の原則。食材・調味料などに特色のある地中海沿岸地方の伝統食。糖尿病、心血管疾患、認知症予防等、様々なエピデンスが報告されている。

食品選択のポイント

①主食は特に低糖質や低Gl値の食品を選ぷ
玄米・雑穀・パスタ・全粒粉パンなど
②間食は季節の果物にする
リンゴ、かんきつ類、サクランボ、洋梨など
※できるだけ皮こと食べる
③動脈硬化などの血管病変を防ぐ油脂や食品、飲料を選ぶ
オリーブオイル、青身魚、赤ワインなど抗酸化物質を多く含むもの
④エネルギーに対して満腹感を得られる食品を選ぶ
玄米、豆類、根菜、キノコ、海藻など肉類は若鶏、仔羊、仔牛など飽和脂肪酸の少ないもの
⑤味付けは酸味やうま味成分を活かしたものを選ぶ
酢、にんにく、ハーブ類、カツオ削り節、昆布など
【参  考】日本糖尿病学会HP
      有元葉子、横山淳一「こんなにおいしくていいの?
      医師と料理家がすすめる糖尿病レシピ」2011(筑摩書一房)

【資料提供】オリーヴァ内科クリニック

この記事の監修者

横山 淳一 先生
横山 淳一 先生
  • オリーヴァ内科クリニック院長
金子多喜子 管理栄養士
金子多喜子 管理栄養士
  • 日本糖尿病療養指導士

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