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認定看護師さんインタビュー企画

認定看護師さんインタビュー企画~豊田美和さん(皮膚・排泄ケア認定看護師)~

投稿日:2012.08.30

認定看護師インタビュー今回は、
東京警察病院でご活躍されている豊田美和さんにお話を伺いました。

■豊田さんは認定看護師1期生といういわばパイオニアですが、資格取得を目指そうと思ったきっかけを教えてください。

認定看護師になろうと思ったのは看護師になって2年目のときです。大腸がんの80代の男性の患者さんが人工肛門を作ることになって、ストーマケアを私が担当しました。
ところがケアがうまくいかなくて、皮膚がかぶれてしまい、便も漏れて臭いが大部屋に充満するような毎日で。その患者さんは社会的にも立派な方だったのですが、「こんなになるのだったら、手術を受けずに死んだほうがましだった」と言われ、その言葉に愕然としたんです。
自分はナースとして何をやっているんだと、不甲斐ない気持ちでいっぱいになりました。

そこで仕事の帰りにストーマケアの本を買い込んで、手当たり次第に読みあさりました。そして本に載っていたケアの方法を提案して患者さんに施すと、3日くらいできれいに改善されたんです。
自分が最初に行ったケアの内容はすでに古かったと悟り、新しい処置によって、その患者さんが「ありがとう」と手を握ってくれたときに、もっと勉強が必要と強く感じました。
また普通であればドクターの指示や診断を仰ぐのがナースですが、看護師がしっかり勉強すれば自分の判断や介入によって患者さんの状態を改善できることがわかって、そこから勉強にも熱心に取り組むことができるようになりました。
看護師としての知識やスキルをもっと高めたいと思っていたとき、平成8年に認定看護制度がスタート。1期生でしたが、迷うことなく申し込んだんです。

■ストーマケアに対する想いがご自身を駆り立てたのですね

そうですね。必然的に、分野は皮膚・排泄ケア認定看護師、当時はWOC看護認定看護師でしたが、それを目指そうと思いました。
入職当初は病棟で必要な看護スキルを身に付けたいと思っていたのが、次第に意識が変わっていったことも影響していました。
つまり、退院後に患者さんが1人で向き合わなくてはいけない排泄障害を、私たちがどのようにケアできるのか。入院中とは勝手も違うものになり、自宅で食生活も変わる中での排泄のフォローアップ体制がないことへの懸念があったんです。
退院した患者さんが困ると、病棟に来る。そこで対処していたんですが、それが何人も来られるんです。これは「ストーマを診る専門外来が絶対に必要」と思いました。
でも一方で、そのための十分な知識や技術が自分にないことにも気づかされたんです。ストーマ外来を作るためには自分自身がもっと勉強をする必要があると思って、学校に行こうと決めました。認定看護師の資格取得を実際に考えるようになったのは、ストーマ外来を作りたいと思うようになったからですね。

■受験対策ではどのような苦労がありましたか?

なにしろ17年前の1期生でのことですから(笑)。
参考書も全くないし、何しろ過去問もありません。どんな問題が出るかも分からない。正直、問題の傾向を知るためにチャレンジして、受かるのは来年、という気持ちでした。
ストーマケアの知識にはある程度自信もありましたが、その他の褥瘡や失禁のことは自分でも不十分でしたから。それが、受かってしまって自分が一番びっくり。
当時は救急とWOCの2分野しかなく、ともに50人の受験中、20人程度の合格者だったように記憶しています。たぶん2倍程度の倍率だったのかなと思いますね。

■学校に入ってからの思い出はいかがですか。文字通り初めての経験ですね。

人生でいちばん勉強した時期かも知れません(笑)。
実家が遠かったので、学校の近くにアパートを借りて、まさに勉強漬けの毎日でしたね。座学から実習まで毎日がWOCまみれ(笑)。
中間試験や修了試験などの試験も大変でした。選択問題ではなく、すべてが記述式の解答で、腱鞘炎になるくらい書かされる。修了試験の頃はアパートを引き払って実家に戻っていたので、試験中の1週間は学校近くのホテルに泊まり込んで勉強していましたね。

■当時一緒に学んだ仲間の皆さんとは今も交流があるそうですね。

地域がそれぞれ違うので頻繁には会えないのですが、LINEでしっかりとつながっています(笑)。
ちょっと分からないことがあると、LINEで質問する。すると、その道のエキスパートのみんなから答えが返ってくる。それはもう最強のネットワークですよ。とても心強いし、今でも勉強になることがいっぱいです。
ただ、みんな多くが管理職になっているので、現場のことよりもマネジメントの話に流れていくことも多いですが(笑)。学校で一緒に学んだ看護師とはいまだに繋がりが強く、お互いに大事な仲間ですね。人間的にも尊敬できる、かけがえのない仲間たちです。

実は、卒業の時に先生に言われたんです。「これから認定看護師のパイオニアとして皆さんには活躍してほしいけど、今後皆さんの横の繋がりがきっと必要になるから、ぜひ大事にしてほしい」と。
私は学校での勉強がいちばん苦しいと思っていたので、資格を取ってからが大変といわれてもピンとこなかったし、意味がわからなかったんですね。こんなに勉強したんだから、卒業してから活躍の場がたくさん待っていると夢と希望に燃えていましたから。……
そのとき言われた「大変なことがあったら、仲間に相談しなさい」という言葉の意味を、卒業してから現場で痛感することになりました。

■それはどういうことですか?

当時は認定看護師制度自体が初めてのことですから、病棟でも周りから「あなたは何をする人なの?」という目で見られました。
誰も何も聞きに来ないし、依頼になんかまったく来ません。雰囲気はもう完全アウェイです。

今でこそ、ストーマや褥瘡に関しては特に、認定看護師に頼るという風土や仕組みも出来ていますが、当時はコンサルテーションの考え方自体ありませんから、認定看護師といっても誰もピンとこないんです。
また、褥瘡ケアでドクターに「こういう処置をしたらどうですか?」と意見でもしようものなら、「君は何の権限があって私に言うんだ?」とはっきり言われる。そういうところからのスタートだったんです。
私は当時9年目で、ベテラン看護師の方から見るとまだまだ青二才ですよね。大先輩に混じって「ちょっと勉強してきたくらいで偉そうに」といった目でどうしても見られる雰囲気で。そんなときに、学会などで学校当時の仲間が集まると、同じような話を聞きました。みんなで悲しみや苦しみを分かち合いながら、頑張っていこうと励まし合っていましたね。

■パイオニアならではの苦しみですね。そこから、認定看護師に対する周囲の認識をどのように変えていったのですか?

少しずつ自分のことを知ってもらうように努めていったり、看護臨床の現場を通して信頼関係をコツコツと築いていきました。
そして、まずは管理職の意識が変わるようにするしかないと思って、師長さんに積極的にアプローチしていきましたね。「病棟で困っている患者さんがいたら一緒に診ますから」と話をして、次第にぽつぽつと相談がくるようになっていきました。
ドクターには病棟のナースを通して、役割について理解してもらえるように話したり、一つずつ段階を上がっていくような感覚で苦しかったですね。

そんなときに、現場で守ってもらえた出来事があったんです。患者さんの人工膀胱のケアで、私がカテーテルを洗浄できる装具を選ばずに、間違った選択をしてしまったのです。
先生が回診でそれに気づき、「誰だ!こんな処置をしたのは!」と怒って、「少しばかり勉強してきたのかどうか知らないが、これじゃ話にならん!」と切って捨てるような状況でした。
私は申し訳ないと思って、師長にお詫びしたんです。すると師長は「もういいから。私が全部引き受けるわ」って言ってくれたんです。思わず涙が出ました。私は責められてもいいのに、それを非難するようなことは言われずに「もう謝らなくてもいい」と。
おそらく、少しずつ信頼してもらえるようになっていて、認定看護師をつぶしちゃいけないって、師長は思ってくれたのだと思います。

■苦労が報われたのですね。では、今の主な仕事について教えてください。

8年前に看護師長になって、今は認定看護師としての仕事というよりも、師長としての役割が大きいですね。その意味では、WOCだけでなく、いろんな領域の認定看護師の後輩を作りたいと思っています。
いま当院には認定看護師が7名になり、リソースナースチームを編成するなど分野も多彩になっています。やはりこれが自分の仕事の成果かなと思いますね。
自分が認定看護師になって最初に大変だったことは今の若い子たちに味あわせたくないと思って、認定看護師専用の部屋や出張・研修の規定など、環境の整備にも努めてきました。
みんなが憧れるような存在にしたいし、積極的に目指せる仕組みもつくりたい。その分野のエキスパートナースになれるよう、少しでも目指したいと思った人の背中を押してあげられる組織にしたいと思いました。
そうした人を育てる仕組みづくりが今の私の役割だと思っています。

■認定看護師を目指したいと思っている皆さんへのメッセージをお願いします。

認定看護師になるというのは、確かに責任も増えますし、周囲の見る目も違ってくるなど、それなりに大変だと思います。
でも、資格を取得した多くの後輩たちを見ていて思うのは、看護師としてのスキルアップはもちろんですが、それぞれ人間性がとても豊かになっているんですね。その意味で、すごく成長していると感じます。
苦労した分だけの喜びが得られ、資格を手にすることでそれまで見えなかったものが見えるようになるのが認定看護師です。

組織横断的に活動することは簡単ではありませんが、それを実践することは自分の人間としての幅を間違いなく広げるんですね。スタッフの目線に立って仕事をする大切さがわかるようにもなる。そうした、人としての成長が得られることが大きいですね。
それは、認定の資格を取って現場に放たれてこそ初めてわかる。そこからの勉強が自分を大きくし、自分自身の成長につながるんです。見える景色は、それまでとは大きく違ったものになっていると私は思います。

<豊田さんがご活躍されている病院>

東京警察病院
〒164-8541
東京都中野区中野4丁目22-1
TEL:03-5343-5611(代)

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