1. ホーム
  2. コラム
  3. 患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになるシリーズ第7回
患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになる第7回

患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになるシリーズ第7回

投稿日:2018.01.12

これからのナースに求められるケアの質とは ~効率的で効果的な質の高い医療的ケアを知る~         第7回 中規模病院における業務改善のポイント    ~TPN用キット製剤を活用し、スタッフの業務負担と感染リスクを低減~

TPN用キット製剤の導入による処方および実施手順のシンプル化は、関係各部署の効率向上とスムーズな部署連携を促進するとともに、院内全体の業務改善・コスト削減へとつながります。今回は、地域の療養病院として一貫した医療サービスを提供する医療法人 一誠会 大原病院をお訪ねし、薬剤師 塚本晴之先生に、TPN実施時における業務フロー改善のポイントを伺いました。

-キット製剤導入前は、どのような課題がありましたか?

●薬剤部における課題

 当院では各病棟につき約5人、計10人程度の患者様に対しTPNを実施しています。キット製剤の導入以前に使用していたのは、基本液4種類、アミノ酸液4種類、マルチビタミン、微量元素というラインナップでした。

 1)在庫によるスペースコスト
 処方変更に対応するためにも、特に基本液とアミノ酸液の各種類については、すべて2ケースずつの在庫を常時確保しておく必要がありました。そのため、スペース的にゆとりがあるとは言えない薬局内の棚4~5段が、TPN用輸液によって常に埋まっている状況でした。

 2)タイムコスト・作業コスト
 1処方につき基本液・アミノ酸液・ビタミン・微量元素の4薬剤があるため、ピッキングおよび監査には毎朝20分強の時間がかかっていました。また、基本液・アミノ酸液については1日1ケースずつのペースで使用し、ほぼ毎日、発注作業を行っていました。

 3)過誤のリスク
 処方箋上の投与カロリー変更や、アミノ酸の種類変更を見逃したまま各病棟へ払い出すといった、決して低くはない過誤リスクがありました。

●看護部における課題

 キット製剤の導入以前は、毎晩深夜にTPNの更新を行っていました。夜勤者は各病棟に1名の配置で、その夜勤者が、更新作業を単独で担当していました。

 1)煩雑な混注作業による過誤のリスク
 基本液・アミノ酸液・ビタミン・微量元素の4薬剤に加え、患者様によってはさらにインスリンやNaCl補正液・利尿剤等を追加していました。なるべく1人分ずつの混注を心がけてはいたものの、スペースの限られた点滴準備台の上は、注射器・針・アンプルなどの物品でいっぱいになりがちでした。また、指示量と異なる量を混注してしまい廃棄となった例もあるなど、安全面・コスト面で少なからぬリスクが存在していました。また混注作業は患者様1人分のTPNの確認・準備・混注作業を行うのに10分程度の時間を要しており、10名分では実労働時間として100分程度が費やされていました。

 2)夜勤帯の業務圧迫
  前述のように、当院では各病棟につき夜勤者1名の体制をとっており、毎晩深夜のTPN更新における業務が大きな負担となっていました。混注作業は看護業務の進捗や看護師の休憩を考慮しつつ空いた時間に行っており、その終了時間は日によって大きく前後していました。TPNの交換作業は、日勤業務に組み込むには時間がかかるため、暗所での作業が強いられる深夜に行わざるをえませんでした。
 看護師の増員採用が容易ではない中、誤嚥など経口摂取困難のためTPNの適応対象となる患者数は増加傾向にあり、混注に要する時間と手間の軽減は喫緊の課題でした。

-キット製剤導入までには、どのような手順を踏まれましたか?

2015年にグループ全体でキット製剤を導入する方針が決まったため、当院でも本格的に導入を検討しました。TPN実施における諸問題の解決に向け、院内全体が前向きに検討し、比較的スムーズに導入へと至りました。導入前には、メーカーによる院内研修を行い、看護師全員が開通作業の実践指導を受けました。

-キット製剤導入後、どのような業務改善が見られましたか?

●導入直後からの業務効率化

 薬剤部・看護部の両部門において、導入直後から顕著な業務改善が見られました。
 まず薬剤部では、従来の4薬剤がワンバッグ化したことで、ピッキング・監査にかかる時間の短縮と、誤薬投与リスクの低減が実現しました(図3)。また、処方の単純化により在庫をコントロールしやすくなり、過剰在庫の抑制が可能となりました。以前はTPN用輸液が棚4~5段を占有していましたが、現在は約半分の1~2段のスペースで効率的に運用できています(図1)。
 看護部では、これまでは約10名のTPN対象患者様に合計100分程度の時間をかけ、看護業務の合間に混注作業を行ってきましたが、TPN用キット製剤を導入することで、準備作業は手指消毒を含めても20分未満となりました。TPNの準備が午前中に確実に終わるので、午前の看護業務終了後にTPNの付け替え作業に入ることが可能になり、この業務を夜勤から日勤帯へ移行することが可能になりました。これにより夜間TPN交換のリスク軽減や夜間業務負担軽減に対して、大きな効果が得られました(図2)。またTPNキット製剤導入により浮いた時間が生まれたため、より手厚いベッドサイドケアや、ナースコールへの迅速な対応が実現しています。
 さらに、病棟業務に余裕ができたため、新人ナースの教育とフォローを今まで以上に手厚く行えるようになり、人材の育成・定着にも良い影響が出ています。

-TPN用輸液の切り替えにおいて、どのような成果が出ましたか?

従来は病棟詰所にてTPN用製剤の混注作業を行っていましたが、キット製剤導入年の翌年からは、薬局で混注し病棟へ払い出すようになりました。微量元素も含めワンバッグ化されたキット製剤は、薬局でのピッキング・監査時に開通作業も併せて行うことが可能です。バッグ下室を手のひらで押せば容易に開通するので、作業負担も軽微です。
 従来は深夜にTPNを交換しておりましたが、TPNキット製剤導入により短時間で作業が完了するため、交換時間を日勤帯の13時へと一本化しました。これにより、夜勤者の作業負担はほぼゼロとなりました。また、4薬剤を処方箋と照合する必要があった従来のTPNに比べ、キット製剤における確認項目はシンプルであり、チェックの面でも優れています。その上で、当院では日勤帯の複数人によるダブルチェックを徹底し、過誤リスクのさらなる抑制を実現しました。
 もちろん、キット製剤を適用できない肝不全や腎不全などの患者様には、現在も4薬剤をベースとした処方を行っています。当院でその対象となる患者様は年間に1名いるかいないかという割合ですから、ほぼキット製剤での運用となっています。

-コスト削減等の経営的視点では、どのような成果が出ましたか?

●CRBSIの発生減少

 キット製剤の導入後、抗生剤の払い出し量に明らかな減少傾向が見られました。そこで導入半年後から約6カ月間にわたり調査を行ったところ、抗生剤の払い出し量は、キット製剤導入前の半分以下となっていました。キット製剤による混注手順の簡略化が、混注時の細菌混入リスクを軽減し、ひいては感染症発生頻度の抑制につながったと考えられます(図4)。

●感染抑制によるトータルコストの削減

CRBSIが疑われる場合、追加で必要となる業務・薬剤・物品は、抗生剤の他にも多岐にわたります。血液検査・尿検査・胸部レントゲン等を経て、CVカテーテルの抜去と再挿入を行う場合には、さらに多くのコストが必要となってきます。CRBSIの発生を抑えることで、それらのトータルコストを大幅に削減することができます。
 なにより患者様ご自身にとって、CRBSIによる負担とリスクが減少したことは、計り知れない成果であると考えます。
業務改善の第一ステップは、日々の業務に「これでいいのか?」「もっと○○できないのか?」と課題意識を持つことです。
 次に、その課題をどう考えるかですが、現場発信型の改善提案にするには、現状分析と結果の試算が大切になります。
 第6回、7回の事例はTPN製剤でしたが、それぞれの病院で現状は異なります。他院の事例と比較して自部署の課題を考えてみましょう。他院と比較する手法を「ベンチマーキング」手法といいます。第6回、7回の事例をもとに、自部署はどうか、どの程度の効果があるのかを考えてみることも改善活動につながるのではないでしょうか。

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。



他の方が見ているコラム