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在宅医療連携拠点最前線~神奈川県横浜市の巻~

投稿日:2018.02.02

連携拠点は

“個人タクシーの配車センター”だ

平成30年度から全国の区市町村で実施される「在宅医療連携拠点事業」は、暮らしの中に適切な医療が提供される仕組みをコーディネートする事業といえるでしょう。
今回紹介する神奈川県横浜市では、18区すべての医師会が訪問看護ステーションを運営し、横浜市在宅医療連携拠点となっています。
同市で13番目に拠点事業を開始した神奈川区医師会副会長、西神奈川ヘルスケアクリニック院長の赤羽重樹先生に、神奈川区の取り組みを通して本事業のあり方についてお話をうかがいました。(編集部)

在宅医療連携拠点の役割

地域包括支援センターは、高齢者とその家族の暮らしをサポートする拠点としての地域の窓口です。それに対して、在宅医療連携拠点は医療をサポートする窓口です。

暮らしの中での医療は、生活優先で後回しにされがちとはいうものの、適切な医療処置が行われることによって暮らしが安定することも事実。医療職は異常の早期発見と対処、介護職は生活の継続に必要なケアというそれぞれの視点から「暮らし」にアプローチします。

「全国には4300余の地域包括支援センターがありますが、その7割は福祉系の事業基盤です。平成30年度からの在宅医療連携拠点事業の全国展開に際して、24時間対応を含めた暮らしのトータルコーディネートには、医療的な視点も必要です。
そこで国は、地域の医師会をシステムに組みこみ、医療を必要とする人へのコーディネート拠点を新たに設け、地域包括支援センターとの連携を定めました。その連携を行政(市町村)がバックアップする、という仕組みです(注)。
拠点事業のメインの役割は、個人タクシーの配車センターのようなものです。
迎車の依頼(かかりつけ医を探してほしいという依頼)が来ると、登録されている車の中から空車(対応可能な医師や訪問看護ステーション)を探し、どこまで行けるか(対応可能なこと)を確認して、依頼主にお知らせするということなので」。
なるほど。イメージしやすい赤羽先生のたとえ話です。
注:平成26(2014)年6月に改正された介護保険法及び厚労省例により、在宅医療連携拠点の標準的な取り組みとして、市町村が「在宅医療・介護連携推進事業」(8つの取組)を平成30(2018)年度までに実施することが示された。

医師会主導の連携呼びかけ

横浜市が連携拠点の取組として掲げていること(表)の一つに、「多職種連携会議の開催(2回/年)」があります。
この開催をめぐっては、医療と介護の歩み寄りがスムーズと思われている神奈川区でも、実際には細かな問題が起きているようです。

「医療と介護の歩み寄りが必要だと感じていることは、次の二つのことです。
①言葉:用語、略語が違いすぎて、お互いに理解できていないことが多い。

②時間:医療スタッフは診療終了後の夜を希望、介護スタッフ(福祉・行政スタッフも)は日中の時間を希望するので、会合の時間の調整が必要。

さらに、暮らしをサポートするには、医療と介護だけでは不十分で、福祉・行政との情報共有も重要です。これまで福祉関係者と同席する会議が少なかったので、この連携会議の開催に当たっては、地域包括支援センター宛に医師会長から、年間計画を添えた案内状を送っています。

患者に何が起きていて、何に困っているかを共有するための会議なので、ここで共通認識を持たないと連携はうまくいきません。訪問時に患者の状態が悪くなっていると、医療スタッフはその経過や状況を把握するために、日頃ケアにあたっている介護スタッフに様子を尋ねます。しかし、それが介護スタッフには『責められているようで怖い』、と受け止められがちなのです。
そうなると、『様子を報告しても質問に答えるのは苦手だな』、という気持ちが働いてしまい、連絡が入らなかったこともありました。まさに、『ここで連絡がもらえていたら』という時に、介護スタッフが躊躇してしまったようです。

患者の身体に関わることなので、できるだけ早くこの溝を埋めたいのですが、〝怖い〞〝話しにくい〞と思われないような医療スタッフ側の工夫も必要なのでしょうね。
連携の第一歩はお互いの仕事や困りごとを理解し、ねぎらい合える関係を築くことだと思っています。〝お互いに〞ではありますが、ここは医療の側から歩み寄ろうということで、医師会から参加協力をお願いしています」。

20年以上前から一貫して、職種間の連携は〝お互いの困りごとの理解から〞、と言い続けてこられた赤羽先生のアプローチは、ここでも必要のようです。

地域ごとの事情を考慮し持続可能なシステムを

連携拠点の相談担当者の条件については、刻々と状況が変わっています。
平成24年度時点で国から示された基準は、〝ケアマネジャーの資格を持つ看護師等及びM S W を必ず配置すること〞でした。
一方、横浜市では〝ケアマネ資格を有する看護師2名〞(図)と定め、全国基準よりも厳しい条件でスタートしました。それは、連携拠点事業の導入前からこの趣旨と同様の取組を行っている区があり、すでにこの条件をクリアしていたためです。その当時、神奈川区医師会の訪問看護ステーション(※参照)は、立ち上げ後でスタッフが少ない時期であったため、この厳しい条件を受け入れられたのは、看護師たちの強い使命感のおかげでした。

しかし現在の横浜市は、〝ケアマネ資格を有する看護師に加えて、ケアマネ資格を有するMSWや薬剤師、歯科衛生士等の配置も可〞と、薬局や歯科との連携強化を推奨する内容に修正して裾野を広げてきています。このように試すことができたのは、人口が多く、医療・介護資源やそこに携わる専門家も多い横浜市ならではかもしれません。

しかし、その横浜市も18の区ごとに見れば、人口密度、高齢化率、医療・福祉資源の配置などの条件は異なり、神奈川区にいたっては、救急病院がないため救急患者は近隣の区に搬送されるそうです。
また、神奈川区の開業医の中には、在宅医療連携拠点からの在宅医の新規の依頼には対応できないけれど、昔から診ていた患者さんが高齢で通院できなくなった時、往診の希望に応じている医師も多いのだとか。制度に縛られず、それを必要とする住民のために行われてきたことです。

「国の方向性に先駆け、医師会が事業を推進している横浜市は最先端、と表向きには見えるかもしれませんが、財政状況やマンパワーなどは、区ごとに差があります。全国展開となればさらに地域の事情は異なると思われます。
神奈川区では、最近、行政の職員の中に在宅訪問に同行したいという人が現れ、とても心強く思っています。何年か後に、異動で顔触れが変わってしまっても、システムは引き継がれて残ってほしいですね」と、将来に思いを巡らす赤羽先生でした。

全国展開を掲げるからこそ、その地域の事情に合わせ、間口は広く、自由度の高い取り組みを検討し、持続可能なシステムとなってほしいものです。

病院で内科的救急医療に携わり、初対面で積極的に救命することがすべてのケースで良いことなのか否か、というジレンマに陥っていました。救急搬送される前のいきさつ、退院した後の経過を知ることで、少しでも不幸な救急搬送が減らせないだろうか、と感じるようになり、2007年から開業医として在宅医療に関わることにしました。
(西神奈川ヘルスケアクリニック院長)
考:平成24年度在宅医療連携拠点事業総括報告書
(厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室,2013年10月)
/神奈川県横浜市医師会・神奈川区医師会 ホームページ

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