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訪問看護ステーション訪問レポート第2回

第2回 訪問看護ステーション訪問レポート セントケア・ホールディング株式会社

投稿日:2015.10.09

セントケア・ホールディング株式会社は、1999年10月、全国に先駆け神奈川県横浜市で訪問看護事業を始めた民間会社第一号。
5月1日現在、全国のセントケア・グループで44か所のステーションと2か所のサテライトを運営している。
今回お話を伺った吉井朋代さんは、同社で長年にわたりステーションの立ち上げや訪問看護の現場に関わってこられ、現在は本社の医療支援部課長として、スタッフの指導・育成に力を注いでいる。

新人指導で大切なことは

医療支援部でスタッフ教育を担当する吉井さん。
新人には、まず、訪問看護と病院看護の違いとその心構え、そして社会人としての基本的なルールについてを指導する。
「倫理や尊厳を学んでも、尊敬や信頼に基づいた言動が伴わなければ意味がないですし、その基本となる社会人としてのマナーは欠かせません。
玄関では脱いだ靴をそろえ、外で着ていた上着はたたんで置いておく、遅れそうなときは早めに連絡する、というようなことも含みます。
看護のスキル以前に家庭で教えられることでもあるのですが、社会人になると誰も指摘してくれませんから、指導はそこからです」。

まるで花嫁修業のようでは?
「ええ。まずはお母様に気にいられなくてはね!」と笑う吉井さん。

さて、訪問の心得を身に付けたとはいえ、新人ナースは不安がいっぱい。
判断に迷ったらどうすればいい? 私のアセスメントは正しいの?

そこで同社ではアセスメントとプロトコルの標準化およびベテラン看護師のアセスメントの思考過程を可視化することを狙って、フローチャートで問題領域を導き出す「訪問看護アセスメント・プロトコル」というアセスメントシステムを独自に開発した。
それを現場でうまく運用できるよう、このシステムを搭載した訪問看護記録業務支援ソフトが、「訪問看護アセスメント・業務支援システム看護のアイちゃん(セントワークス株式会社)」である。
これは書籍として販売もされている(※1)。

このアセスメントシステムは、訪問のたびにモバイルパソコンでの記録システムとしても使用しているので、ナースは日々アセスメントの訓練をしているようなもの。繰り返し使ってゆくことで、アセスメント能力を身につけていく。
どのような過程を追ってゆけば問題を掘り下げられるか、という道筋を示してあげることが大事なのだという。

※1「生命・生活の両面から捉える訪問看護アセスメント・プロトコル」 監修・山内豊明 編集・岡本 茂雄(中央法規出版、2009年)

翻訳をしながら地域をつなぐ

患者・家族の希望する在宅療養を可能にするためには、患者家族・医療職・介護職それぞれに共通の認識が必要だ。それを言い換え、理解につなげる翻訳機能こそが大切で、その役割こそ、医療と介護の両方に足場を置いている訪問ナースが適しているのでは、と吉井さんは言う。

「共通の理解があってこそ、それぞれの専門的なアイデアを組みあわせることが可能になります。ナースは、常に予測を立て、予防の視点で看護をせよという教育を受けてきています。
今後、地域で過ごされる患者さんの病状経過や、その経過に対して必要になるであろうサービスを予測し、介護職の方とも共有していこうということです。
地域包括ケアシステムの中では、機能強化型の訪問看護ステーションにみられるように、地域に貢献するナースの力が求められています。
患者さんとの関わりだけではなく、地域での専門職同士をつなぐ、社会をつなぐ、という役割も期待されています。
そういう役割、機能があることに気づいていくと、訪問看護の面白さはもっと拡がっていくでしょう。」
訪問ナース自らが訪問エリア内に住んでいて周辺情報に通じているケースなどは、まさに地域に貢献するナースとして、各地区の実情に合った独自のサービス提供に本領発揮できるのではないだろうか。

緩和ケアとしての訪問経験から

緩和ケアとは、的確なアセスメントと対処を行うことで苦痛を和らげ、QOLを改善するアプローチ、といわれている。
癌や神経難病患者の場合、問題になるような身体症状はない初期段階でも、様々な不安やちょっとした生活のしづらさはある。訪問ナースは、痛みや変わったことがないか、健康状態はどうかなど、「世間話の中からもチェックしています 」と吉井さん。
「会話の中で、ああこれなら大丈夫、まだ生活できているし、社会的な交流もできている、と判断して帰ってくるんです。」
早い段階から関わることで、心身変化にも気づきやすく、直接的な身体ケアの必要が出てくれば、処方変更の提案や利用できる介護サービスの紹介など、タイミングを逃さずに対応する。身体症状が現れる前から、緩和ケアは患者家族を支えるものなのだ。
実際に身体的苦痛を取り除くためのケアとして、吉井さんは在宅CART(腹水濾過濃縮再静注法)療法(※2)の経験もお持ちだ。 「CART療法を実施しても腹水はまた溜まりますし、穿刺針を抜き刺しする苦痛はあります。それでも家で過ごす時間を有意義なものにしてくれる、有効な手段だなあと思いました。患者さんに、『穿刺後は、腹水が減って楽に動けるようになったよ』なんて言われて、本当に嬉しかったですね」と、日常生活から苦痛を取り除くことが、どんなに大切かを強調された。※2 CART療法:難知性腹水症(利尿剤などでの治療が困難)の腹水をとりだし、濾過・濃縮して再び体内に静脈注射する治療法。以前は腹水を抜くことしかできなかったため、腹部の張りは楽になるが体力が低下して起きられない、というジレンマを生じていた。本療法は、細菌や癌細胞を除去した、蛋白成分を含む腹水を体内に戻すことで、体力の低下を防ぐことが出来る。しかし現実には、在宅での実施はまだまだ普及していない。

病院看護にも活きる訪問看護

ナース不足は病院も訪問看護ステーションも同様。だが、熱いラブコールとは裏腹に、そのブランクに二の足を踏んでいる潜在看護師も多い。

吉井さん自身、病院勤務後、専業主婦の経験を経ての現職。
看護の仕事から離れ、妻、嫁、母、主婦という立場で地域とのつながりを持っている潜在看護師は、それぞれの立場やその地域の動きを知っているという強みを持つ。訪問看護の仕事では、まさにそれが活きるのだという。
さらに、訪問看護を体験し、病院看護に戻るという選択肢もある。
「患者さん・ご家族の生活を知っているナースが病院に戻った時、病院から生活に戻る患者さんへの関わり方の幅が違います。
退院後、その方はどういう環境の中に戻っていくのか。どういう家族がどこにいて、介護力は有るのか無いのか、介護サービスを利用する経済力があるのかどうか、そういうことを入院の時から考えて関わっていくことが求められている時代なんです。百聞は一見に如かず。
ナースならば是非一度、訪問看護を経験してごらんなさい、と言いたいですね」。

病院で関わろうと在宅で関わろうと、患者は同じ人。病院のお揃いパジャマの下に隠れている『本当のプロフィール』は、その人の暮らす家でこそ明らかになるということだろう。
セントケア・ホールディング株式会社

東京都中央区京橋2-8-7 読売中公ビル5F(本社)
TEL 03-3538-2943
FAX 03-3538-2947

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