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【編集部レポート】小児てんかんセンター開設記念 第35回てんかん教室 ~未来を見すえた小児てんかん医療を求めて~

投稿日:2025.01.17

 てんかんは100人に1人の割合で発生する、決して珍しい疾患ではありません。そのため、正しい理解と適切な対応が求められます。今回、小児てんかんをテーマにしたセミナーに参加し、専門家の講演を通じて、疾患の特性や日常生活での工夫、さらに家族や社会が果たす支援の重要性について学びました。

 本記事では、セミナーを通じて得た内容を振り返り、てんかんへの理解を深めるためのポイントをお伝えします。

埼玉県 2024年度 県民のための医療セミナー (埼玉県立小児医療センター・With Youさいたま共催事業)
埼玉県 2024年度 県民のための医療セミナー (埼玉県立小児医療センター・With Youさいたま共催事業)



講義1:わたしのてんかん、みんなのてんかん

多様な症状と社会的支援の変化 埼玉県立小児医療センター
神経科 副病院長 浜野晋一朗 先生
 てんかんは、脳の神経細胞の異常な活動により引き起こされる慢性的な疾患で、発作の種類や症状が多様です。それを一括りにするのではなく、個々の症状や状況に応じた理解と支援が必要です。近年では著名人の体験談が注目され、社会の偏見を減らす動きが進んでいます。例えば、歌手の安田章大さんは髄膜腫の治療後にてんかん発作を経験し、その体験を率直に語りました。このような事例は病気への理解を深め、身近なものとする大きな一歩となっています。

 治療においては、適切な抗てんかん薬を見つけることが重要で、時間がかかる場合が多々あります。遺伝子研究の進展に期待が寄せられていますが、オーダーメイドの薬の実現にはまだ課題が残ります。

 一方、技術の進歩がてんかん患者の生活に与える影響も注目されています。例えば、完全自動運転技術が発展すれば、てんかん患者が運転に不安を感じることなく、移動できる日が来るかもしれません。このように、病気を正しく理解し、多様性を尊重した支援が求められる中で、技術や研究の進展が、患者の日常生活に大きな影響を与えることが期待されています。


講義2:てんかん発作の診断・治療の基本と家族の役割

埼玉県立小児医療センター
神経科 医長 平田佑子 先生
 「てんかん発作」は脳の電気信号の異常によって引き起こされる一過性の症状であり、必ずしもてんかんを意味するわけではありません。発作が起きた場合、その症状を詳細に観察することが最も重要です。診断においては、5W1H(いつ、どこで、何をしていたか、誰が目撃したか、なぜ気づいたか、どのような症状だったか)を記録することが求められます。脳波検査は診断の補助的な役割を果たしますが、異常が見つからない場合でも、てんかんを完全に否定することはできません。

 治療には主に抗てんかん薬が使用され、約70%の患者は2種類の薬を使うことで発作を抑えることができます。薬の選択は、患者の発作の種類、年齢、性格、体格などの特性に基づき、副作用のリスクを慎重に考慮して行われます。もし薬による治療が効果を示さない場合は、外科手術や迷走神経刺激療法といった別の治療法が検討されます。

 てんかん診療において最も大切なのは、発作の観察とその記録です。また、患者が発作を起こした際には冷静に対応し、医療者と協力しながら治療を進めていきましょう。


講義3:安全と自立を目指す成長のサポート

埼玉県立小児医療センター 
小児看護専門看護師 安田有希 先生
 てんかんのあるお子さんは、成長とともに病気を自己管理し、症状と付き合っていけるよう、適切な生活習慣を身につけることが重要です。日常生活では、十分な睡眠、ストレス管理、決められた時間での服薬を意識しましょう。特に、入浴や外出時には安全対策が求められます。家族に声をかけてから入浴する、浴室には鍵をかけない、短時間でも声が届く範囲にいるなどの工夫が必要です。外出時は危険な場所を避け、単独行動を減らし、安全を意識した行動を心がけます。

 また、成長に伴いお子さん自身が病気を理解し、対応できる力を身につけることが求められます。例えば、発作の起こりやすい状況を把握し、必要なサポートを周囲に伝える力を養っていくことです。服薬管理も徐々にお子さん自身が主体的に行えるように移行していきましょう。

 家族や周囲の正しい理解とサポートは、発作のリスクを軽減し、お子さんが自分の生活に積極的に挑戦するための支えになります。てんかんは珍しい病気ではなく、正しい知識と対応が大切です。こうした取り組みが、お子さんの自立と安心した生活を支える基盤となるのです。


講義4:小児てんかんと発達障害 親子が共に成長する支援のかたち

埼玉県立小児医療センター 
保健発達部 公認心理士 成田有里 先生
 てんかんと発達障害は、どちらも脳の機能に起因することが多く、これらが重なるケースも少なくありません。治療にはてんかんへの薬物療法や発達支援が必要ですが、偏見や誤解が障壁となることがあります。これらを克服するためには、病気や障害を正しく理解し、支援の重要性を再認識することが大切です。

 てんかんのお子さんを持つ保護者は、自身を責める傾向がありますが、障害や病気は、その人を構成する一部にすぎません。てんかんのある人が適切な治療や支援を受けることは、目が悪い人が眼鏡をかけるのと同じことであり、それがその人の価値や能力を決めるわけではありません。誰もが異なる強みを持ち、それぞれのペースで成長する力を持っています。大切なのは、原因を追究することではなく「これからどうしていくか」を考えることです。経験を共有できる仲間や先輩からの支えを受けることで、保護者の不安が和らぎ、障害に向き合う心の余裕が生まれてきます。そのような環境の中で、子どもたちは自分の力を発揮しながら、少しずつ成長していく姿を見せてくれることでしょう。


講義5:難治性てんかんと発達障害における薬物療法の要点

埼玉県立小児医療センター 
保健発達部 医長 小一原玲子 先生
 難治性てんかんは、適切な薬物治療を行っても発作がうまくコントロールできない状態を指します。このような場合、患者さんに合った薬を慎重に選びながら、副作用や効果を確認していくことが大切です。ですが、薬を複数使用する場合は、それぞれの薬がどんな影響を与えるかをしっかりと考慮する必要があります。特に重い障害や発達の遅れがあるお子さんの場合は、てんかんの治療だけでなく、QOLをどれだけ向上させるかを考えることが非常に重要です。筋緊張異常や睡眠障害、骨粗鬆症などの合併症にも配慮し、個々のQOLに基づいたオーダーメイドのアプローチが求められます。

 また、発作の頻度や薬の副作用だけでなく、発達の問題や精神的な症状、社会的な支障が日常生活に与える影響にも注目することが重要です。社会での偏見や学校生活、仕事、結婚に関する問題もQOLに大きな影響を与えるため、医療者は患者の生活全体を支える姿勢が求められます。医療チーム全体で患者に寄り添い、発作管理と併存症への対応を両立させることで、患者が安心して生活できるようにサポートすることが不可欠です。


講義6:成人後の生活を見据えて てんかん患者の妊娠・出産と運転免許の注意点

埼玉県立小児医療センター
神経科 科長 菊池健二郎 先生
 てんかん症状のあるお子さんが成人後の生活を迎えるにあたり、妊娠・出産と運転免許取得といったライフイベントについては特に計画的な準備が必要です。また、てんかんのある方が妊娠を希望する場合、抗てんかん薬が胎児に影響を与える可能性があるため、医師と相談の上で服薬の調整を行います。分娩は通常分娩が可能なことが多いですが、発作のリスクがあるため医療チームと連携が求められます。

 運転免許に関しては、発作が2年以上起きていない場合や、今後も発作のリスクが低いと判断される場合など、条件を満たせば免許を取得することができます。ただし、医師の診断書であり、状況によっては免許取得が難しい場合もあるため、あらかじめ理解しておくことが大切です。

 さらに、症状や年齢に応じて利用できる福祉サービスを把握しておくことは、成人後の生活をより安心して過ごすために欠かせません。これらのポイントを踏まえ、医療チームと相談しながら成人への準備を進めてください。正しい情報と計画が、自立した生活を支える大きな助けとなります。


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