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せん妄ケアの基本と実践 ~リスク因子を見逃さず早期介入を~

投稿日:2025.01.09

せん妄は多様な症状を伴い、その発症メカニズムも複雑です。しかし早期に発見し、適切に介入することで、その発症や悪化を予防することが可能です。そのためには、入院時や治療開始時からリスクを適切にアセスメントし、原因を取り除くためのケアが必要です。今回、精神看護専門看護師の山口久美先生に「せん妄ケア」について伺いました。

山口 久美 先生

順天堂大学医学部附属練馬病院
精神看護専門看護師

せん妄のタイプとリスク因子

 せん妄は症状により 「過活動型」 「低活動型」 「混合型」 の3つのタイプに分類されます。 過活動型は興奮や徘徊、 幻覚などの症状が現れます。 一 方、 低活動型は、 傾眠傾向や無気力、 話しかけても反応がないなど、見過ごされやすい症状が現れます。 せん妄が長期化すると認知症を発症するリスクも高まるため注意が必要です。
 せん妄のリスク因子は大きく3つ 「準備的因子」 「直接因子」 「促進因子」があり、私たち看護師が特に目を向けたいのは、主体的に介入できる促進因子です (表1) 。リスク因子全体を考慮しつつ「看護師として、今何が出来るか」を具体的に考え、実践することが求められます。

促進因子へのアプローチ

 促進因子を取り除くためには、 下記のような具体的な対応が有効です。

環境づくり

 患者さんが日付や時間を確認しやすいよう、カレンダーや時計を目につく場所に設置します。訪室時にはさりげなく場所や日時の情報を会話の中で伝えることが効果的です。処置やケア時には簡潔で丁寧な説明を心がけましょう。室温や湿度の調整、ホットタオルでの顔拭きなど、心地よい刺激をイブニングケアに取り入れ、より良い睡眠を促します。消灯前にはドレーンのねじれを確認したり、ポンプのアラームが鳴る前に点滴を交換するなどの工夫も行います。

感覚のサポート

 適切な認知機能を維持できるように、患者本人に合 っ たメガネや補聴器、 入れ歯などを正しく装着することをサポートします。 これらは手術や治療の際に取り外されることが多いため、 外したままにならないよう注意が必要です。

身体拘束の見直し

 身体拘束はせん妄を悪化させるリスクがあるため、 できる限り避けることが重要です。 当院では、 「何のためにやるのか?」 という本質を考えることを大切にしており、 単に 「身体拘束ゼロ」 を目指すのではなく、 「QOLを高めよう」 というメッセージを通じて、不要な身体拘束の予防に努めています。

患者さんや家族とのコミュニケーション

 せん妄ケアにおいて、患者さんや家族とのコミュ ニケーションは重要です。患者さんとは、しっかり目を見て対話することが大切であり、「静かにしてください」「早く部屋に戻ってください」といった指示的な言葉は避けるよう心がけています。
 家族には、せん妄が直接的要因で起こることをしっかりと説明し、入院前と退院後の状態に変化がある場合は、それを理解して、備えてもらえるように働きかけることが重要です。
 また、患者さんの 「自我機能」を意識した関わりも大切です。例えば、高齢者の髪を子どものように結ぶ行動は、子どもらしい自我を助長し、自身を「お世話される存在」と認識しやすくなり、自立への動機付けを弱めてしまいます。年齢相応の髪型にするなど、患者さんの自我機能を適切に保つ対応を心がけることが大切です。

せん妄の原因に目を向けることが大切

 せん妄にはさまざまな症状がありますが、その背後には必ず原因があります。その原因に目を向け、丁寧に情報収集することが、看護師としての倫理的な姿勢の基本です。こうした姿勢を持つ医療や看護が現場でさらに促進されていくことを強く願っ ています。患者さんが自分の好きな場所で、笑顔で過ごせるように、せん妄にしっかりと向き合い、ケアを続けていきましょう。

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