ナースマガジンvol.49
達人に訊く!「パーソン・センタード・ケア の実践と導入」ここがポイント!
投稿日:2024.11.18
高齢化の進行により、多疾患併存や認知機能の問題が複雑に絡み合うことで、せん妄や合併症の増加が深刻な課題となっています。こうした時代背景の中で、その人らしさを尊重したパーソン・センタード・ケアが、今求められています。
今回、パーソン・センタード・ケアの実践とその導入方法について、磐田市立総合病院の認知症看護認定看護師の河島智子先生にお聞きしました。
今回、パーソン・センタード・ケアの実践とその導入方法について、磐田市立総合病院の認知症看護認定看護師の河島智子先生にお聞きしました。
パーソン・センタード・ケア の実践と導入の達人
河島 智子 先生
磐田市立総合病院
認知症看護認定看護師
磐田市立総合病院
認知症看護認定看護師
認知症ケアは、看護の基本であると考えています。「認知症」というフィルターを通さず、目の前にいるその人自身をしっかり見ることが大切です。本人の望みを尊重しながら環境を整えることで、その人らしさがより一層引き出され、生き生きとした生活を送ることができるようになります。
また、認知症ケアでは、薬に頼ることなく、看護の力だけで症状を改善することが可能です。そのためには私たちの経験値が重要であり、一人ひとりの看護師の知恵を集めながらケアを考えていけるのは、認知症ケアの大きな魅力です。共に学びながら、パーソン・センタード・ケアを実践していきましょう。
また、認知症ケアでは、薬に頼ることなく、看護の力だけで症状を改善することが可能です。そのためには私たちの経験値が重要であり、一人ひとりの看護師の知恵を集めながらケアを考えていけるのは、認知症ケアの大きな魅力です。共に学びながら、パーソン・センタード・ケアを実践していきましょう。
パーソン・センタード・ケアを実践するポイント
入院前後の情報とあわせて全体像を把握
認知症ケアでは、その人の現在の状態と入院前の状態を知ることが大切です。入院時の情報は患者さん本人から情報収集できますが、入院前の状態については、家族や身近な方から生活状況やこだわりなど、性格に関することも含めて伺い 、現在の情報をあわせて全体像の把握に努めましょう。
ただし、患者さんへの質問は慎重に行う必要があります 。よく見当識障害の確認のために「今日は何月何日ですか?」と尋ねることがありますが、この質問は私たちでさえ、カレンダーを見なければ即答できないことがあるように、患者さんにとっても難しい場合があります。代わりに、「昨日は入院で大変でしたね」というような日常的な会話から始め、病気や入院の経過についてどれくらい覚えているかを確認することで、より自然な形で状態を把握することができます。このように、患者さんに寄り添いながら、問いかけを通じて信頼関係を築くことが 、ケアの第一歩となります。
パーソン・センタード・ケアを実践する3つのステップ
パーソン・センタード・ケアを実践するためには、欠かせないステップがあります。それは、「思いを聞く」 「情報を集める」 「ニーズを見つける」の3ステップです(図1)。
BPSDが出現したときは、3ステップを実践してみましょう。このステップは一度限りではなく、症状の変化に気づいたときは、いつでも繰り返すことが大切です。パーソン・センタード・ケアには「これをすればうまくいく」というテクニックやマニュアルはありません。ただ、この3ステップを実践することで、その人にとって必要なケアに近づけることができます。
引用:鈴木みずえ(監修)認知症の看護・介護に役立つ よくわかる パーソン・センタード・ケア. 池田書店, 2017
パーソン・センタード・ケアの導入例
実践につなげやすいよう視点を4つに絞る
認知症ケアにおいて、その人らしさを尊重するケアは非常に重要です。しかし、それを現場で具体的なケアに反映させることは簡単ではありません。言葉として理解できても、実際のケアプランに取り入れる際に微妙なズレが生じることがあります。
当院では、このアプローチを導入するにあたり、実践しやすいように4つの視点に絞り込みました(図2)。
ケアを行う際には、❶患者さんを気にかけること❷生理的ニーズが満たされること❸自立が尊重されていること❹身体的苦痛がないこと、です。これらの点を重視することで、患者さんが安心でき、BPSDの予防や症状改善につながります。さらに、その成果をフィードバックしながら地道に取り組んでいくことで、自然とその人らしさを尊重するケアが定着していくと思います。
症例紹介
B氏
70歳 男性
尿路感染症を発症し、治療目的で入院
既往歴:レビー小体型認知症
70歳 男性
尿路感染症を発症し、治療目的で入院
既往歴:レビー小体型認知症
自宅で発熱し、尿路感染症による治療のため入院となった。ADLは車椅子自走が可能。時間帯により症状にムラがあり、毎日朝6時前と17時過ぎになると落ち着かなくなり徘徊を始めていた。排泄が関係していると予測してトイレ誘導をしようとしたが、声をかけると興奮してしまう状況が続いていた。
療養環境を日常生活に近づけることで徘徊が改善
B氏は、車椅子に乗って、部屋の隅の暗いところに好んで向かっていく様子がありました。徘徊が続いていたため、何か原因があると考え、丁寧に全体像の把握に努めました。ご家族にも家での様子を聞いたところ、信仰する宗教があり、毎日決まった時間にご神事を行っていたことがわかったのです。そこで、ご家族に実際の写真を用意していただき、病室内にご神事ができるような場所を手作りしました(写真1)。
B氏は、車椅子に乗って、部屋の隅の暗いところに好んで向かっていく様子がありました。徘徊が続いていたため、何か原因があると考え、丁寧に全体像の把握に努めました。ご家族にも家での様子を聞いたところ、信仰する宗教があり、毎日決まった時間にご神事を行っていたことがわかったのです。そこで、ご家族に実際の写真を用意していただき、病室内にご神事ができるような場所を手作りしました(写真1)。
B氏は最初、様子を伺うだけでしたが、スタッフが病室を離れるとお祈りを始めるようになりました 。翌日からは、決まった時間にご神事を行うようになり、徘徊は次第に改善していきました。
日常生活に近づけることの重要性
認知症患者さんの入院時は、身体症状に加え、慣れない環境で過ごすことによりストレスと不安を生じさせます。その状況がBPSDを引き起こすため、入院環境をできるだけ日常生活に近づけることが重要です。
今回の症例では、B氏にとってご神事はとても大切な時間であり、それが徘徊の原因となっていたと考えられます。ご神事のスペースを設け、普段の生活のように決まった時間にお祈りできるようになったことで、落ち着きを取り戻し、徘徊が改善されたのだと思います。スタッフも看護の力を実感し、チーム力を高めることができた事例でした。
実践と検証の繰り返しがニーズを見つける力を向上
パーソン・センタード・ケアの考え方を理解していても、実際に結び付けて実践することは容易ではありません。そのため、ケアによって症状が改善した際には、 「なぜその効果が生まれたのか?」を検証することが重要です。私たちのケアがどのように患者さんの心理的ニーズを満たし、症状が改善したのかを振り返ることで、その根拠が見えてきます。
このプロセスを複数の症例で繰り返すことで、患者さんのニーズを見つける力が自然と高まっていきます。その人を知り、身体症状を緩和しながら日常生活に近づけるケアを実践すれば、必然的に患者さんの心理的ニーズは満たされていくのです。
参考 鈴木みずえ(監修)認知症の看護・介護に役立つ よくわかる パーソン・センタード・ケア. 池田書店, 2017
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