在宅療養者の食事摂取の実態
~提供されている食事量は足りている?~
投稿日:2024.12.12
今回、ナースマガジンは訪問看護師と栄養調査会社の協力で、在宅療養者の食事の実態を調査。そもそもの提供量の不足、食品選択の幅の狭さ、食事摂取量の少なさが明らかになりました。この結果をもとに、管理栄養士・髙﨑美幸先生から高齢者の低栄養に対する早期介入のポイントについてアドバイスをいただきました。
髙﨑美幸先生
東葛クリニック病院
医療技術部
栄養ケア・ステーション 課長
在宅栄養専門管理栄養士・サルコペニア・フレイル指導士・リハビリテーション栄養指導士・臨床栄養師・栄養治療専門療法士(在宅専門療法士)
医療技術部
栄養ケア・ステーション 課長
在宅栄養専門管理栄養士・サルコペニア・フレイル指導士・リハビリテーション栄養指導士・臨床栄養師・栄養治療専門療法士(在宅専門療法士)
調査方法 ※今回は1食分の画像で調査
訪問看護師により、食前・食後の写真を撮影
Webにアップロード。
日本食品標準成分表(八訂)に基づき栄養計算
日本食品標準成分表(八訂)に基づき栄養計算
高齢者の食事摂取基準に対応し、必要栄養量の充足率を算出
調査概要
回収数: 21名分
回答者男女割合: 男性42.9%、女性57.1%
年代: 50代 4.8%(1名)、60代 9.5%(2名)、70代 33.3%(7名)、80代 23.8%(5名)、90代以上 28.6%(6名)
介護度: 介護認定無し 14.3%(3名)、要支援 2 9.5%(2名)、要介護1 23.8%(5名)、要介護2 19.0%(4名)、要介護3 19.0%(4名)、要介護4 9.5%(2名)、要介護5 4.8%(1名)
同居の状況: ご家族(配偶者)38.1%(8名)、ご家族(お子様)19.0%(4名)、独居23.8%(5名)、その他23.8%(5名)
居住地域: 都市部52.4%(11名)、郊外27.6%(10名)
日常生活自立度:ランクJ(自立)33.3%、ランクA(一部介助)38.1%、ランクB(ほぼ寝たきり)19.0%、ランクC(完全寝たきり)4.8%、未回答4.8%
回答者男女割合: 男性42.9%、女性57.1%
年代: 50代 4.8%(1名)、60代 9.5%(2名)、70代 33.3%(7名)、80代 23.8%(5名)、90代以上 28.6%(6名)
介護度: 介護認定無し 14.3%(3名)、要支援 2 9.5%(2名)、要介護1 23.8%(5名)、要介護2 19.0%(4名)、要介護3 19.0%(4名)、要介護4 9.5%(2名)、要介護5 4.8%(1名)
同居の状況: ご家族(配偶者)38.1%(8名)、ご家族(お子様)19.0%(4名)、独居23.8%(5名)、その他23.8%(5名)
居住地域: 都市部52.4%(11名)、郊外27.6%(10名)
日常生活自立度:ランクJ(自立)33.3%、ランクA(一部介助)38.1%、ランクB(ほぼ寝たきり)19.0%、ランクC(完全寝たきり)4.8%、未回答4.8%
提供している食事のエネルギー量
日本人の食事摂取基準の推定エネルギー必要量に21人中14人が未達!
食事摂取基準に対する実際のエネルギー量の比較
(今回の調査の平均:1食あたり)
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020」より、性別、年齢、活動レベルを本人に合わせて計算。
(日常生活自立度のランクJを活動レベルII、ランクA以下はレベルIとして食事摂取基準を定義し、3食均等割りを行い比較。食前食後画像に基づいて算出した摂取エネルギーと比較)
(日常生活自立度のランクJを活動レベルII、ランクA以下はレベルIとして食事摂取基準を定義し、3食均等割りを行い比較。食前食後画像に基づいて算出した摂取エネルギーと比較)
エネルギーを増やすことを 意識していない人
21人中16人が食事で健康に気を使う際エネルギー(カロリー)を増やすことを意識していない
ONS※を活用していない人
21人中11人が現在ONSを活用していない
※Oral Nutrition Supplements(食事に加えて「経腸栄養剤」や「濃厚流動食」を飲むことで、不足分の栄養を補うこと)
フレイル率
21人中19人がフレイル
(イレブンチェック※を用いて調査)
(イレブンチェック※を用いて調査)
※東京大学の飯島勝矢教授が開発。日常生活に関する質問に答えるだけで、費用や検査機器不要で自身の衰えを点検できる。
在宅療養者の食事提供量はそもそも少ない
日常生活自立度ランクJを活動レベルⅡ、ランクA以上はレベルⅠとして、エネルギーの充足率を調査しました。回答者21人中14人は、そもそも提供されている食事のエネルギー量自体が、食事摂取基準の推定エネルギー必要量に達していないことが明らかになりました。
先生から:
高齢者の多くは「年を取ってきたから若いときほど食べなくていい」という認識でいますが、必要以上に減らしてしまっていることが少なくありません。本来取るべきエネルギー量と実際に摂取している量に開きがあることが多いのです。本人や家族が「残さないように」と少ない量を準備している可能性があります。
高齢者の多くは「年を取ってきたから若いときほど食べなくていい」という認識でいますが、必要以上に減らしてしまっていることが少なくありません。本来取るべきエネルギー量と実際に摂取している量に開きがあることが多いのです。本人や家族が「残さないように」と少ない量を準備している可能性があります。
1日の不足エネルギー量は平均375kcal
今回の調査では、1食あたりのエネルギー摂取量は平均125kcal不足していることが明らかになりました。対象となった21人のうち、実際に食事摂取基準の推定エネルギー必要量分を食べられていたのは、わずか4人でした。個人差はありますが、ほとんどの在宅療養者がエネルギー摂取不足であることがわかります。
対象者の1日の食事摂取基準の推定エネルギー必要量の平均は1,704kcalであるにもかかわらず、実際の食事摂取量の平均は1日1,329kcalでした。つまり、1日あたり375kcal不足しており、これはONSで約1~2本分不足していることになります。
エネルギー不足でもONSを活用していない人は約30%
ONSは現在、どのように使われているのでしょうか。この調査で明らかになったのは、エネルギー充足率が70%未満の人でもONSを飲んでいない人が約30%いるという結果です。さらにほぼ毎日飲んでいるという人でもエネルギー充足率が未だ70%未満の人が33.3%もいることがわかっています。
先生から:
今回明らかになったように、普段摂取されている食事量が、必要とされるエネルギー量に満たないケースは少なくありません。
一度低栄養に陥ると元の状態に戻すのは簡単でないため、まだ治療や入院が必要ではない段階から、予防的に栄養を充足させていくことが必要だと考えます。そのためには、まずは本人の好みに合わせた1品をプラスしたり、バランスよく栄養とエネルギーが摂取できる食品・飲料を活用してみましょう。そこに経済面も含めた、個人に合わせた工夫をしていけるとよいですね。それでも十分なエネルギーが摂取できない場合は、ONSを検討する必要もあります。
今回明らかになったように、普段摂取されている食事量が、必要とされるエネルギー量に満たないケースは少なくありません。
一度低栄養に陥ると元の状態に戻すのは簡単でないため、まだ治療や入院が必要ではない段階から、予防的に栄養を充足させていくことが必要だと考えます。そのためには、まずは本人の好みに合わせた1品をプラスしたり、バランスよく栄養とエネルギーが摂取できる食品・飲料を活用してみましょう。そこに経済面も含めた、個人に合わせた工夫をしていけるとよいですね。それでも十分なエネルギーが摂取できない場合は、ONSを検討する必要もあります。
高齢者のエネルギー摂取の落とし穴?
ー活動係数 ストレス係数とはー
必要な栄養量は個々の体格や活動量、疾患によっても変わります。高齢者の多くはリハビリをしていたり、慢性疾患があったりするため、想像以上に多くのエネルギーが消費されています。そのため、栄養計算を行う際には、「活動係数」に加えて、「ストレス係数」も考慮する必要があります。この過剰分のエネルギーが摂取できないと、体重減少の進行、低栄養の悪化による入院を招く可能性があります。
参考文献:井上善文:必要エネルギー量の算定─ストレス係数・活動係数は考慮すべきか?─,静脈経腸栄養学会雑誌,25,573-579 (2010)
体重について意識している人は0%
意識の「ギアチェンジ」が必要
「食事で健康に気遣う際に意識していること」について、たんぱく質を意識して摂取すること、糖質や脂質、塩分を摂りすぎないこと、1日3食食べることなどが回答の上位に挙がっています。その一方で体重を増やす、エネルギー摂取量を増やすことについて、意識が向いている人はわずかでした。
先生から:
近年、肥満でサルコペニアや隠れ肥満の方も少なくないため「摂りすぎないこと」に目を向けることは大切ではあります。しかし、高齢者を対象とした調査では、BMIの低下と死亡率の上昇には関連があるという報告があり、体重の低下は栄養について介入する重要なサインです。本人や家族・介護者などが体重減少についても意識を向けられるよう、訪問看護師など関わっている医療者からの発進が重要です。
近年、肥満でサルコペニアや隠れ肥満の方も少なくないため「摂りすぎないこと」に目を向けることは大切ではあります。しかし、高齢者を対象とした調査では、BMIの低下と死亡率の上昇には関連があるという報告があり、体重の低下は栄養について介入する重要なサインです。本人や家族・介護者などが体重減少についても意識を向けられるよう、訪問看護師など関わっている医療者からの発進が重要です。
高齢者のBMIの理想は?
最近の研究では、高齢者においては過体重よりも、むしろ痩せが死亡リスクに関連することが報告されています¹⁾。日本人の食事摂取基準でも、高齢者のBMIで適切なのは、普通体重の範囲内でやや高めの21.5~24.9kg/m²であると示されています。
適切な栄養評価と食事で改善できることの提案から
今回の調査は1食のみですが、在宅療養者の食事選択の傾向が垣間見えました。今後は、1日や1週間を通した食事内容から栄養のアセスメントができるとよいですね。結果をもとにまずは本人に合わせた食事改善策の提案ができるとよいと思います。
また私の活動している地域ではフレイル予防に力を入れており、地域の方々と元気なうちから信頼関係を築く取り組みをはじめています。在宅療養者になる前の「普通」や「価値観」を知ることで、実際に介入が必要になったとき本人の希望に近い支援がしやすくなります。
また私の活動している地域ではフレイル予防に力を入れており、地域の方々と元気なうちから信頼関係を築く取り組みをはじめています。在宅療養者になる前の「普通」や「価値観」を知ることで、実際に介入が必要になったとき本人の希望に近い支援がしやすくなります。
参考文献
1)玉腰暁子 「日本の高齢者の肥満度と総死亡率との関連」、Jacc study、2010 年
2)ナースの星 Q&A オンライン・ナースマガジン号外「経腸栄養剤利用実態の実情と課題」、2018 年
1)玉腰暁子 「日本の高齢者の肥満度と総死亡率との関連」、Jacc study、2010 年
2)ナースの星 Q&A オンライン・ナースマガジン号外「経腸栄養剤利用実態の実情と課題」、2018 年
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