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第11回 症例から学ぶ周術期看護

周術期の口腔管理

投稿日:2024.10.15

周術期の口腔管理とは手術前後に行われる口腔ケアのことで、患者の術後の回復を促進するためには必要不可欠です。周術期の口腔管理の必要性や実際の取り組みについて、手術を予定している症例を用い、済生会横浜市東部病院の谷口英喜先生に解説いただきました。

今回は、周術期の口腔管理について考えてみましょう。

症例

72歳 男性 独居
化学療法が終了し、腹腔鏡補助下直腸切断術が予定されている
術前外来で歯科受診を勧められ戸惑っている

既往歴
口腔内 動揺歯あり、部分的な義歯を使用

Q. 腹部の手術なのになぜ口腔管理が必要なのでしょうか。

A. 全身麻酔の安全性を高め、後感染を予防するためです。
周術期の口腔管理の目的は、口腔環境の悪化により引き起こされる合併症やトラブルを予防することです。まず、全身麻酔における挿管操作の際に動揺歯があれば歯が抜け落ちる危険性があります。口腔内環境が悪化していれば挿管操作に伴う気道内への細菌汚染の危険が増し、術後の肺炎や手術部位感染症(SSI : surgical sight infection)を引き起こさせてしまいます。術後の栄養管理においても、歯牙の欠損や入れ歯の不具合は経口摂取の障害になってしまいます。周術期の口腔管理は、食道がんや肺がん手術では術後肺炎の発生を、膵臓がんや大腸がんではSSIの予防効果が研究結果から示されています。


Q. どのような患者が口腔管理の対象になりますか。

A. 全身麻酔を受けるほとんどの患者です。
現在、周術期など口腔機能管理料が算定できる対象は、頭頸部、呼吸器、消化器領域などの悪性腫瘍、心臓血管外科、人工股関節置換術などの整形外科、臓器移植、造血幹細胞移植、脳卒中に対する手術などが含まれます。放射線・化学療法後や糖尿病を有していた場合には免疫能力が低下しているため、ビスフォスフォネート製剤※を使用している場合には顎骨壊死を見逃さないためにも管理が必要です。
また、算定要件には入りませんが、口腔環境の悪化が予想される糖尿病、長期間の絶食をしていた、などの患者にも口腔管理が必要です。
※骨粗鬆症の治療薬


Q. どのような点を観察するのでしょうか。

A. 歯牙の状況、義歯、口腔環境などを観察します。
①歯芽欠損・動揺
②義歯の不具合
③口腔環境(炎症、汚染)
④唾液の分泌量
⑤開口障害、扁桃肥大、後屈障害
⑥嚥下機能
などを観察し、電子カルテ・紙カルテなどに記録しておくのが良いでしょう。


Q. 具体的な取り組みを教えてください。

A. 全身麻酔を受けるほとんどの患者です。
術前から口腔内の細菌数を減らす工夫をします。場合によっては歯科を受診し、歯石・歯垢の除去、炎症所見のある歯は抜歯や消炎処置を実施します。
術直前まで患者が効果的に口腔清掃を行えるよう、患者のセルフメンテナンスへの指導、動機づけを行います。口腔管理用ジェルなどを使うのも良いでしょう。
当院では術前、高齢な方では積極的に抗菌効果のある保湿剤を使用してもらっています。手術当日は絶食なので忘れがちな歯磨きも指導することが重要です。
本症例では、術前に動揺歯があったため、かかりつけの歯科医院にて抜歯を施しました。また、口腔内の乾燥が認められ保湿剤を使用してもらいました。術後経過は順調で、手術翌日より経口摂取が再開されました。



本症例でナースが注意すること

患者に口腔管理の重要性を情報提供
化学療法後、糖尿病はハイリスク
歯科受診が必要なレベルもある

Take home message

●周術期の口腔管理で術後感染を予防
●術前からのシームレスな予防策
●術直前まで細菌数を減らす工夫

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