患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになる第4回
患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになるシリーズ第4回
投稿日:2016.06.30
これからのナースに求められるケアの質とは ~効率的で効果的な質の高い医療的ケアを知る~
第4回 経管栄養施行時におけるトラブル防止のポイント
~患者のQOL・QOD を上げ、トータルコストを抑えるケア~
第4回 経管栄養施行時におけるトラブル防止のポイント
~患者のQOL・QOD を上げ、トータルコストを抑えるケア~
経管栄養施行時のトラブルを防ぐことは、患者のQOL・QOD の向上をもたらすだけでなく、トータルコスト・パフォーマンスとして看護師の 業務負荷や医療費の削減にもつながります。今回、医療法人社団悦伝会 目白第二病院副院長/ 外科・消化器科部長の水野英彰先生にお話を伺い、 経管栄養施行時のトラブル防止のポイントと、胃瘻栄養に使用する注入器具にまつわる試算を行いました。
-一般に、経管栄養実施に伴うトラブルは、何が要因と考えられますか?
経管栄養管理を行っている患者によく見られるトラブルは、下痢・逆流による誤嚥性肺炎・褥瘡などがあります。これらのトラブルに共通する要因は、経腸栄養食品の形状(投与速度)と、投与に使用する器具が考えられます。
例として、ALSなどの神経変性疾患による嚥下機能障害で低栄養となり、経管栄養管理が施行された体重40kgの患者の場合で考えてみます。
1日に必要なエネルギーは、標準で30kcal//kg×40kg=約1,200kcal/dayとします。液体の経腸栄養食品の場合、200ml/hを目安に注入することが推奨されていますから、これに従って栄養投与を行うと、1回400kcalの投与に2時間,下痢や逆流を起こしやすい患者ではさらにゆっくり投与するので4時間ほどかけることもあります。3回の投与時間を合計すると、1日に6~12時間にもなります。その間、患者の体位変換は難しいため、患者が長時間同一体位でいることとなり、褥瘡や廃用症候群を生じやすくなります。
また、多忙な業務の中で、看護師が経管栄養管理のみに長時間をかけることは難しく、経腸栄養食品の注入速度を速めてしまうこともあります。これは、腸管内浸透圧の変化による下痢や、栄養剤の逆流による誤嚥性肺炎のリスクを高めます。
さらに、感染予防のためディスポーザブルタイプの器具の使用が提唱されているにもかかわらず、投与に使用する器具のコストを抑える目的で、洗浄・消毒しながら複数回使用していることも問題です。
コンテナー(クレンメ付投与ラインとの一体型を含む)へ経腸栄養食品を移し替える時、無菌室で行っているわけではないので、空気中の細菌が混入しやすくなります。また、クレンメ付投与ラインの点滴筒部分は洗うことができませんから、細菌感染源になりやすいことが知られています。1日3回再利用した場合、夕食は朝食から8時間以上経過した栄養剤は細菌数が爆発的に増えることが報告されているためです。
これらの根拠を無視して投与器具を再利用することが感染を惹き起こす原因となり、感染性下痢を生じさせている可能性もあるのです。
例として、ALSなどの神経変性疾患による嚥下機能障害で低栄養となり、経管栄養管理が施行された体重40kgの患者の場合で考えてみます。
1日に必要なエネルギーは、標準で30kcal//kg×40kg=約1,200kcal/dayとします。液体の経腸栄養食品の場合、200ml/hを目安に注入することが推奨されていますから、これに従って栄養投与を行うと、1回400kcalの投与に2時間,下痢や逆流を起こしやすい患者ではさらにゆっくり投与するので4時間ほどかけることもあります。3回の投与時間を合計すると、1日に6~12時間にもなります。その間、患者の体位変換は難しいため、患者が長時間同一体位でいることとなり、褥瘡や廃用症候群を生じやすくなります。
また、多忙な業務の中で、看護師が経管栄養管理のみに長時間をかけることは難しく、経腸栄養食品の注入速度を速めてしまうこともあります。これは、腸管内浸透圧の変化による下痢や、栄養剤の逆流による誤嚥性肺炎のリスクを高めます。
さらに、感染予防のためディスポーザブルタイプの器具の使用が提唱されているにもかかわらず、投与に使用する器具のコストを抑える目的で、洗浄・消毒しながら複数回使用していることも問題です。
コンテナー(クレンメ付投与ラインとの一体型を含む)へ経腸栄養食品を移し替える時、無菌室で行っているわけではないので、空気中の細菌が混入しやすくなります。また、クレンメ付投与ラインの点滴筒部分は洗うことができませんから、細菌感染源になりやすいことが知られています。1日3回再利用した場合、夕食は朝食から8時間以上経過した栄養剤は細菌数が爆発的に増えることが報告されているためです。
これらの根拠を無視して投与器具を再利用することが感染を惹き起こす原因となり、感染性下痢を生じさせている可能性もあるのです。
-経管栄養施行時のトラブルから、新たに発生する問題として どのようなことがありますか?
まず、褥瘡、下痢、誤嚥性肺炎は患者への苦痛や負担が大きいため、患者のQOL・QOD※の低下を招きます。
さらに、本シリーズの第1~3回に取り上げられているように、褥瘡ケア、下痢によるスキンケアおよびおむつ・着衣・シーツ等の頻回な交換、逆流が増えることによる吸引回数の増加などは、看護師にとって大きな業務負荷と時間のロスとなり、モチベーションに影響を与えてしまうこともあります。
病院経営的にも問題が発生します。トラブルが起きればその治療やケアが必要なので、新たに大きなコストが生じます。例えば、逆流による誤嚥性肺炎を発症した場合には、胃酸のような酸性の強い消化液に伴う化学的損傷も生じているので、抗生物質以外にも高額の薬剤を必要とする可能性が十分あります。それを3日~1週間使用するとなれば、莫大な薬剤費が発生します。看護師が行うケアや処置にかかる勤務コストも、トータルコストを押し上げています。
これらの「新たに発生するコスト」は、経管栄養に伴うトラブルが防げれば生じなかったものです。
※QOD(Quality of Death): 終末期のケアの質を示す概念として使われることが多い。死を前提として「死に至るまでの生」の意味を見出せるようなケアの質。疼痛管理同様、医療の大前提である「まず患者に害を与えない」に照らせば、防げるトラブルは起こさないことが重要。
さらに、本シリーズの第1~3回に取り上げられているように、褥瘡ケア、下痢によるスキンケアおよびおむつ・着衣・シーツ等の頻回な交換、逆流が増えることによる吸引回数の増加などは、看護師にとって大きな業務負荷と時間のロスとなり、モチベーションに影響を与えてしまうこともあります。
病院経営的にも問題が発生します。トラブルが起きればその治療やケアが必要なので、新たに大きなコストが生じます。例えば、逆流による誤嚥性肺炎を発症した場合には、胃酸のような酸性の強い消化液に伴う化学的損傷も生じているので、抗生物質以外にも高額の薬剤を必要とする可能性が十分あります。それを3日~1週間使用するとなれば、莫大な薬剤費が発生します。看護師が行うケアや処置にかかる勤務コストも、トータルコストを押し上げています。
これらの「新たに発生するコスト」は、経管栄養に伴うトラブルが防げれば生じなかったものです。
※QOD(Quality of Death): 終末期のケアの質を示す概念として使われることが多い。死を前提として「死に至るまでの生」の意味を見出せるようなケアの質。疼痛管理同様、医療の大前提である「まず患者に害を与えない」に照らせば、防げるトラブルは起こさないことが重要。
-患者に負担をかけずにトラブルを予防する工夫を教えてください。
●半固形状の経腸栄養食品を使用
液体栄養剤は投与時間が遅くても速くても問題を生じます。そこで当院の胃瘻患者には、患者の身体に負担をかけずに投与時間を短縮するため、RTH(ready-to-hang:栄養剤や経腸栄養食品を移し替えせずにそのまま吊さ得られるようになっている)タイプで半固形状の経腸栄養食品を、自然落下法で投与しています。
従来の液体栄養剤を滴下投与する方法では、1回の投与に2~4時間もかかっていましたが、半固形状栄養剤は低粘度・中粘度・高粘度と粘度によって投与法が工夫され、1回の投与にかかる時間は5~30分程度に短縮できます。そのため患者が長時間拘束されることがなくなり、褥瘡や廃用症候群などの発生リスクを軽減できます。
半固形状経腸栄養食品を短時間で投与するのは、看護業務の都合ではなく、できるだけ通常の食事に近い環境を整えて生理的な消化管運動を促すためです(第3回参照)。液体栄養剤と比較したトラブル予防効果についての学術的な検討が、今後も行われてゆくと思います。
経鼻チューブによる経腸栄養を行っている場合は、経腸栄養食品の形状が胃酸と反応して胃内で半固形状になる、RTHタイプの低粘度の経腸栄養食品を利用するのもよいでしょう。
従来の液体栄養剤を滴下投与する方法では、1回の投与に2~4時間もかかっていましたが、半固形状栄養剤は低粘度・中粘度・高粘度と粘度によって投与法が工夫され、1回の投与にかかる時間は5~30分程度に短縮できます。そのため患者が長時間拘束されることがなくなり、褥瘡や廃用症候群などの発生リスクを軽減できます。
半固形状経腸栄養食品を短時間で投与するのは、看護業務の都合ではなく、できるだけ通常の食事に近い環境を整えて生理的な消化管運動を促すためです(第3回参照)。液体栄養剤と比較したトラブル予防効果についての学術的な検討が、今後も行われてゆくと思います。
経鼻チューブによる経腸栄養を行っている場合は、経腸栄養食品の形状が胃酸と反応して胃内で半固形状になる、RTHタイプの低粘度の経腸栄養食品を利用するのもよいでしょう。
●コンテナーフリーのRTHタイプを使用
感染予防と業務の合理化という点から、当院ではつり下げると製 品がそのままコンテナーとなるRTHタイプの経腸栄養食品への切り替えを進めています。RTHタイプは栄養剤の移し変えが不要なので、従来のコンテナーを使用する投与法よりも清潔な状態で注入を行え、患者が感染症に罹患する機会を軽減します。
ただし、濃度や浸透圧を調整しゆっくりと持続投与が必要な場合(炎症反応が高い、肺炎直後、術後周術期、長期にわたる禁食など)もありますから、従来の栄養セットがまったく不要ということではありません。
ただし、濃度や浸透圧を調整しゆっくりと持続投与が必要な場合(炎症反応が高い、肺炎直後、術後周術期、長期にわたる禁食など)もありますから、従来の栄養セットがまったく不要ということではありません。
-副院長という経営側の立場から、トータルコスト・パフォーマンスを どのようにお考えですか?
病院経営を一つ一つのコストのみで考えていると、患者のアウトカムが出にくいことに気づきます。もちろん病院経営が成り立ってこそ、医療の質の向上につながるわけですが、医療のベースは患者を中心に回っていなければいけません。どこにコストをかければアウトカムを得られるのかを考える必要があります。
物品コストを削減できても、トラブルが発生してしまえば帳消しです。トラブル発生による患者の苦痛、必要物品コストの増加、人件費の増加といったマイナス要因だけでなく、看護業務増大による看護師のモチベーション低下もまた、病院経営の視点からは大きなリスクであり、解決すべき重要な課題です。
●食材費を下げて病院の収入を増やしてよいのか?
胃瘻栄養の場合で考えてみましょう。コンテナーに移し替えて投与する従来の液体経腸栄養食品は、安価なものになると1 食 (400kcal)あたり100円ちょっと、というものもあります。当院で採用しているRTHタイプの経腸栄養食品は、1食(400kcal)あたり300~400円くらいですから、食材費で比べると、RTHタイプは3~4倍のコストがかかっています。
さらに平成28年度の診療報酬改定(図)により、病院の食事療養費が通常の食事提供(1)と市販の経腸栄養剤提供(2)に区別され、(2)の場合は病院の算定額が少なくなりました。
収入が減らされるわけですから、成分が同じなら安い栄養剤に切り替えよう、と物品コストを下げたいのはわかります。しかし、同時に食事療養費の患者負担額が、一般所得家庭の場合、改定前の260円から360円に引き上げられているのです。その増額分を患者に還元せず、食材単価を下げて病院の利潤を増やしてよいものでしょうか。
さらに平成28年度の診療報酬改定(図)により、病院の食事療養費が通常の食事提供(1)と市販の経腸栄養剤提供(2)に区別され、(2)の場合は病院の算定額が少なくなりました。
収入が減らされるわけですから、成分が同じなら安い栄養剤に切り替えよう、と物品コストを下げたいのはわかります。しかし、同時に食事療養費の患者負担額が、一般所得家庭の場合、改定前の260円から360円に引き上げられているのです。その増額分を患者に還元せず、食材単価を下げて病院の利潤を増やしてよいものでしょうか。
●トラブルを防ぐことこそ経営貢献!
栄養剤の汚染によるトラブルを防ぐため、「静脈経腸栄養ガイドライン(第3版)」ではRTHタイプの使用を推奨しています。また、東京都福祉保健局が作成した「院内感染対策マニュアル(2010年版)」の経管栄養関連チェックリストでは、ディスポーザブル製品の器具を再使用していないかをチェック項目に挙げています。いずれも投与器具の汚染によって発生するトラブルを防止するためです。これらの提言に従えば、栄養剤を安くしても、器具を交換するたびにそのコストが上乗せされます。
多くの病院ではこの費用を抑えるため、洗浄・消毒をして再使用していると思いますが、万が一汚染によるトラブルが生じた場合、その対応に必要なコストはどれだけかかるでしょうか。
1食あたりのコストが従来品の3~4倍にもなるRTHタイプの経腸栄養食品ですが、トラブルが発生したら追加されるであろう医療費・薬剤費・人件費などを抑えることに貢献しています。トラブルがなければ生じない費用だからです。
患者負担額が増えた分を〝病院の収入“と考えるのか、トラブルが起こりにくく〝患者のメリットにつながる可能性がより高いものを提供するための支出”と考えるのかが問われているのです。
患者へのアウトカムが出ない医療は、正さなければいけません。物品単価でのコスト抑制ではなく、「トータルコスト・パフォーマンス」の視点から、いかにアウトカムを導き出すかの工夫が、これからの病院経営には求められているのだと思います。
1食あたりのコストが従来品の3~4倍にもなるRTHタイプの経腸栄養食品ですが、トラブルが発生したら追加されるであろう医療費・薬剤費・人件費などを抑えることに貢献しています。トラブルがなければ生じない費用だからです。
患者負担額が増えた分を〝病院の収入“と考えるのか、トラブルが起こりにくく〝患者のメリットにつながる可能性がより高いものを提供するための支出”と考えるのかが問われているのです。
患者へのアウトカムが出ない医療は、正さなければいけません。物品単価でのコスト抑制ではなく、「トータルコスト・パフォーマンス」の視点から、いかにアウトカムを導き出すかの工夫が、これからの病院経営には求められているのだと思います。
今回の経管栄養施行時のように、栄養食品の形状や器具について最適なものを選び、正しく使用することで、経営的にはトータルコストの削減、医療の質の点では感染リスクの低下、患者の視点では、同一体位の保持時間の削減による苦痛の緩和、看護師の視点では業務の効率化につながります。
一般的に病院の経営では、材料費のみに眼が行ってしまい、コストの安いものを導入されがちです。看護師である私達が、追加業務などの副次的なコストまで算出し、物品等の等購入担当者と交渉して状況を改善することは可能です。その際は、経営的視点、医療の質の視点、患者満足度、従業員満足度の4つの視点で、トータルコスト・パフォーマンスを考えると良いでしょう。
一般的に病院の経営では、材料費のみに眼が行ってしまい、コストの安いものを導入されがちです。看護師である私達が、追加業務などの副次的なコストまで算出し、物品等の等購入担当者と交渉して状況を改善することは可能です。その際は、経営的視点、医療の質の視点、患者満足度、従業員満足度の4つの視点で、トータルコスト・パフォーマンスを考えると良いでしょう。
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