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知っておきたい感染対策

結核は今でも重大な感染症

投稿日:2024.10.07


結核は現在も毎年約1万人が発症し、1,600人以上の方が亡くなっている感染症です。なかでも高齢者や免疫抑制状態の人は重症化リスクが高く、早期発見と治療の重要性が指摘されています。

そこで、公立陶生病院感染症内科主任部長で感染制御部主幹の武藤義和先生に、結核の患者さんに対して看護師が安全で効果的なケアを提供するためのポイントについてお話を伺いました。
武藤 義和 先生
公立陶生病院 感染症内科
主任部長 感染制御部 主幹

まだ無くなっていない結核という感染症

 「結核は昔の病気である」 というイメージがあり、 実際に2022年のデータでは、 日本における結核罹患率は10万人当たり8.2人で、結核低蔓延国とな っ ています(図1)。 このため多くの医療機関では、 結核はもう診る機会のない病気になっ てしまっ たとい っ てもよいかもしれません。 しかし、それでもいまだに国内では年間1万人以上の人が結核を発症し、1600人以上の方が亡くなっているため、医療者であれば誰でも結核に直面する可能性はあります。
 結核の原因は結核菌であり、 感染経路は麻疹や水痘と同じ空気感染です (図2) 。 肺の病気という印象が強いかもしれませんが、 頸部リンパ節結核や結核性胸膜炎、 結核性髄膜炎など、 全身のどこにでも感染、 発症することがあります。

 感染後の潜伏期間が長いことも特徴で、 感染しても90%は発症しないと言われますが、 発症する人の約半数は2年以内に発症し、 残りの半分は30〜40年という長期間を経て発症する事も多いです。このため70歳以上の方が高齢化による免疫低下で結核を発症するというケースが多くみられます。 また、 訪日外国人が増えるなか、 世界的に結核患者の多い地域である東南アジアから来た20代前後の人が、日本に入国後、結核を発症して入院というケースも少なくありません。

N95マスクの使用と排痰促進器具の活用

 結核に対する現場での感染管理について、 一 般の医療施設では、 まず結核を疑い発見することが重要です。 その上で、 専門の医療機関につなげてください。 実際に、患者さんに結核の陽性反応が認められた場合、 患者さんを隔離し、 それ以上感染を広げないようにすることが大切です。その際には、濃厚接触者のチェックや保健所へ の連絡と連携も必要です。
 患者さんを隔離した上で、 その人と接触する人はN95マスクを着用します。 あくまでも結核は空気感染ですから、 N95マスク以外の手袋やエプロン ・ ガウンの使用は、 必要に応じてで構いません。 また、ケアや検査などで結核患者さんと接触する人は、 必要がない限り長時間近距離で接触しないことが推奨されます。
 結核患者を見落とさないためには、 検査のための検体採取が必須ですが、 一 般用の採痰室が施設内に無いことがほとんどでしょう。 その場合、 採痰のための個室を用意し、 採痰はドアを閉めた上で行い、使用後は窓があれば適宜換気をして下さい。 小さなクリニックでは屋外で行ってもよいでしょう。採痰を行う医療従事者は、 N95マスクに加えて医療用手袋の使用は必須であり、 エプロンとフェイスシールドの着用も推奨されます。
 喀痰の採取に関しては、 検査に適したを容易に出せる患者さんは多くありません。 当院では必要に応じて、 ネブライザーや吸引器のほか、 息を吹き込むことで発生する低周波が肺や気道内を共鳴振動させて排痰を促す排痰促進器具を使用しています。
 従来はネブライザーや吸引器の使用が中心でしたが、 ネブライザーでも喀痰の採取は十分にできないこともあり、 吸引器の使用は痛みや不快感を伴うことがあります。 これらと比較して低周波を使った排痰促進器具は、 検査に適した質の良い喀痰を採取することができ、 しかも患者さんへの侵襲が少ないことが特徴です。 排痰促進器具は、 無理なく自分で喀痰を排出できるので、 患者さんにとってもメリ ットが大きいと思います。
 結核は3日分の喀痰から検査する場合が多いため、 外来では、 患者さんに喀痰を持参してもらうことが一 般的です。 こうした場合でも排痰促進器具を使ってもらえば、受信前に用意に喀痰採取をしてもらうことが可能です。
 一 方で、 排痰促進器具は寝たきりの患者さんが使用するには難易度が高いといった課題がある点には注意が必要です。

標準予防策の励行と結核への理解の重要性

 結核治療における看護師の役割について、 まず初期対応としては外来の初診時には、その患者さんが結核だと分からないことがほとんどでしょう。 だからとい って、すべての医療者が普段からN95マスクを着用するのも非現実的です。まずは感染症の標準予防策として対応することが大切です。 その上で、 患者さんを結核だと疑ったときから、 先に述べたような現場での感染管理を行 っ てください。
 看護師の皆さんには、 患者さんに対して2週間を1つの括りとして、 咳や熱、 倦怠感などの症状に着目してほしいと思います。 こうした何らかの症状が2週間以上続くのは、 結核を疑う1つの重要ポイントです (図3) 。 なお高齢の患者さんで、昔、 家族に結核の人がいたというような場合は、 2週間と言わず短期間でも症状があれば結核を疑う必要があります。 さらに、 結核患者が多い東南アジアなどの地域から訪日した外国人の患者さんについても、 同様の症状があれば結核を疑うべきです。
 結核については医療者も患者さんも、若い世代の人は結核という病気そのものをよく知りませんし、 逆に高齢の方は不治の病であっ た昔のイメージのままで知識が固定されがちです。 そこで、 「結核という病気とその治療法は、 今はこうなっている」 ということを、 医療者自身がきちんと理解し、 患者さんやご家族に理解している」 ということを、 医療者自身がきちていただくことが大切であり、 そうした役割を看護師の皆さんに期待しています。

武藤先生からのメッセージ

 結核という病気は、 まずそれを疑わなければ、 診断をすることができません。ですから何かあれば、 結核を疑うということを忘れないでほしいと思います。 また、 結核に限らず感染症治療や対策は早期発見が第一です。 早期に疑い、 迅速に対応することで、 治療の成功率を高め、患者さんの命を守ることができます。 まずは疑うことから始める、 それが結核に対する最大の防御策です。

提供:栄研化学株式会社

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