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厳格な水分制限を乗り越える心不全患者さんのスムーズな服薬

投稿日:2024.09.05

重篤な心不全患者さんには、厳格な塩分と水分の制限が必要とされます。特に、こうした水分制限は脱水や唾液の分泌減少を引き起こし、口腔や食道での内服薬の残留による潰瘍や誤嚥のリスクを高めるなど、服薬におけるさまざまな課題の要因となっています。そこで、済生会横浜市東部病院患者支援センター長で栄養部部長の谷口英喜先生に、水分制限をしている心不全患者さんの服薬についてお話を伺いました。
済生会横浜市東部病院
患者支援センター長/栄養部部長
谷口 英喜 先生

心不全患者に必要な水分制限

 心不全患者さんは、 全身に血液を送る心臓の力が弱くなっています。 この状態で水分を多く摂ると、 心臓への負担が大きくなり、 さらに心臓の機能が低下して全身の臓器が障害を受けることになります。 このため心臓の機能が弱くなっている人ほど、 塩分と水分の制限が必要です。
 水分制限によって、 患者さんの体内の水分が減れば、 脱水症状や立ちくらみが起こりやすくなり、 転倒のリスクが高まります。 また、 唾液や消化液の分泌量減少は、 嚥下や消化不良など食に関するさまざまな問題が起こるのです。 さらに心不全の症状が重篤になると、 体内に水が溜まって肺水腫を引き起こし、 仰臥位での呼吸が苦しくなります。 このため 「起座呼吸」 という状態がみられ、 体内に水分がかなり溜まっている兆候といえます。
 身体の表面に浮腫が現れている時点では、 すでに体内でも浮腫が起きていると考えられます。 浮腫が肺で起きている状態が肺水腫であり、 消化管で起こっていれば腸管浮腫となります。

水分制限下での服薬の課題

 健康な成人では、 1日あたり飲水として1200〜1500mLの水分摂取が必要です。その上で心不全患者さんについてはその量から軽傷の人は200~300mL、重篤な患者さんでは400~500mLの水分制限が必要です。
 こうした水分制限下にある心不全患者さんに対しても、 服薬時には口腔や歯間、咽頭や食道での薬の残留を防ぐために、水分が必要です。 基本的にはコップ1杯(150mL~180mL)の水で薬を飲むことが適切だといわれています。内服薬は1日3回飲むのが一般的ですから、服薬時だけで1日合計450~540mLの水分を摂取することになります。水分制限をしている心不全患者さんにとっては、1日に摂取可能な水分量の大部分を占めます。
 また、 水分制限により唾液量が減少し口腔内が乾燥します。 その結果、 薬の飲み込みが悪くなり、 誤嚥や残留が起こりやすくなります。 薬が咽頭や食道などに残留すると、 粘膜の障害や潰瘍を引き起こす可能性もあります。 さらに心不全で腸管浮腫のある患者さんは食欲そのものが低下しているため、 その状態で薬を飲むことは容易ではありません(図1)。
 患者さんによっては1回の服薬量が多く、100mL程度の水ではとても薬を飲みきれないというケースも見られ、食事や普段の飲水量を犠牲にしてでも服薬時の水分量を最優先とし、確実に薬を飲んでもらう必要があります。このように水分制限下での服薬は、患者さんにとって大きな苦痛となることが少なくないのです(表1)。

患者負担を軽減する服薬補助ゼリー

 心不全患者さんに対しては、 服薬補助ゼリーを使用することにより内服時に必要な水分量を減らすことが可能です。 これにより、 日常生活での水分制限を緩和できることは、 厳しい水分管理が必要な心不全患者さんにとって、 大きなメリットだといえるでしょう。
 また、 腸管浮腫から消化不良や吐き気を起こし食欲が低下している患者さんにとっては、 内服は少なからぬ精神的負担になります。 しかし服薬補助ゼリーを利用することで、 普通の食事のような感覚で服薬ができますので、 内服の拒否感が和らぎます。 嚥下障害のある患者さんでも、 ゼリー状になるのでスムーズに服薬できることも良いですね。
 さらに、 薬剤を服薬補助ゼリーに含ませて嚥下することにより、 口腔や咽頭、 食道などに薬が残留するリスクが減るため、粘膜の障害や潰瘍防止のためのリスクマネジメントにもつながると考えられます(表2)。

モニタリング項目を定めて適切な水分量を見極める

 心不全患者さんの水分管理は非常に難しいものですが、 原則的に水分を摂り過ぎると心臓の機能が低下し、 水分を制限しすぎると脱水や先に指摘した服薬の課題などが起こります。 さらに心不全患者さんには脱水により冠動脈の虚血が起こる可能性があり、 虚血性心疾患に進展してしまうケースもみられますので、 日々の水分管理は慎重に行わなければなりません。
 日常生活においては主治医に適切な水分量を示してもらい、 それを定期的に見直してもらう必要があります。 通常、 1回の食事で約500mLの水分が摂取されるといわれ、 1日3回の食事だけで、 それ以外に水分を飲まなくても約1500mlの水分が体内に取り入れられます。 食欲が落ちると食事量が減りますので、 厳しい水分制限をしていると脱水のリスクがより高くなることを知っておいてください。
 このため心不全患者さんの水分管理では、 飲む量を定めること以上に、 モニタリング項目を決めておくことが重要です(表3)。その上で適切な水分量にたどり着くようにすれば、心不全の水分管理は看護する人にとって、けっして怖いものではありません。

谷口先生からのコメント

 服薬補助ゼリーは、 心不全患者さんの服薬や水分制限に伴う負担やストレスを減らす、 有効な手段になります。 服薬補助ゼリーを使うことで服薬に必要な水分量を減らし、 薬の残留リスクも低減できます。 なにより、 薬を飲むことが苦痛と感じている患者さんにとって、 食事感覚で服薬ができることはとても良いことだと思います。
 今後、 1日の服薬回数ができるだけ少ない薬や、 飲み込まなくても服薬できるOD錠などがより多く開発されることで、 水分摂取や嚥下困難に関する課題がさらに改善されることを望みます。
(2024年5月14日オンライン取材)

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