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ナースマガジン vol.48

達人に訊く!「心不全患者への緩和ケアと意思決定支援」ここがポイント!

投稿日:2024.09.26

慢性疾患である心不全は病気の進行が予測しえないなど、不確かな状況にあり、治療の選択肢も多く複雑です。そのため患者さんの意思決定が難しい状況が生まれやすく、緩和ケアと意思決定支援の重要性が高まっています。今回、心不全患者さんへの緩和ケアと意思決定支援のポイントを、久留米大学病院 慢性疾患看護専門看護師の中島菜穂子先生に伺いました。


心不全患者への緩和ケアと意思決定支援の達人

中島 菜穂子 先生
久留米大学病院 慢性疾患看護専門看護師 心不全療養指導士
心不全の看護において「こうすれば症状が緩和できる」という万能なケアはありません。さまざまな方法を試しながら、患者さんの苦痛を緩和するための引き出しを増やしていくことが大切です。
また、多職種チームのゴールを定めることも重要です。ゴールが一致していれば全員が迷うことなく進んでいけます。今後、2021年に新設された「心不全療養指導士」の活躍が期待されます。資格取得者が増加し、心不全療養指導士による地域ネットワークは全国でも広がりつつあり、地域連携に大いに貢献しています。
心不全パンデミックに備え、医療従事者がチームのキープレーヤーとなり、地域連携を強化していくことが重要です。


心不全と緩和ケアの理解

心不全治療と緩和ケアの関係

  心不全は増悪と緩解を繰り返す、完治することのない慢性疾患です(図1)。心不全に伴う呼吸困難や倦怠感などの症状は、強心剤や利尿剤など心不全自体の治療により緩和されます。また心不全治療をやめることはなく、最後まで治療を続けることで症状の緩和やQOLの向上につながります。これはがん治療とは異なる大きな特徴です。
心不全のイメージ

 こうした特徴から、心不全への緩和ケアはあまり注目されていませんでした。緩和ケアには、終末期だけの医療、または、がん患者さんだけを対象とするイメージがあったことも理由のひとつです。疼痛コントロールや在宅療養の制度など、がん患者さんへの緩和ケアはある程度整っていますが、心不全患者さんに関してはまだ不十分なのが現状です。
 しかし心不全への緩和ケアが注目され始め、2018年には緩和ケア診療加算の対象疾患に末期心不全が追加されました。まだ末期心不全だけですが、加算を算定できるようになったことが後押しになり、医療従事者の意識も少しずつ変化しています。

心不全患者さんへの緩和ケアのアプローチ

 心不全患者さんへの緩和ケアとして、多職種で関わることがとても重要です。医師は治療方針、理学療法士はリハビリ、MSWは社会資源など、多職種で話し合いながら方針を検討することが大切です。看護師は患者さんの思いを聴き、看護師は患者さんの思いを聴き、記録に残すことで、多職種につなげていく役割があります。症状だけでなく、例えば好きな動物や、家のお気に入りの場所など、本人の思いや価値観を聞くことも、ケアにつながっていきます。
 また、患者さんが希望された場合に自宅療養できるよう、在宅での受け入れ体制を整えることが大切です。しかしその体制はまだ不十分で、心不全を診るかかりつけ医は少なく、強心剤や利尿剤などの持続点滴をしながら自宅退院することが容易ではないというハードルもあります。突然死の可能性もあり、予後予測が難しく、今後の見通しが難しいことも課題です。
 だからこそ本人が望む生活を支援し、今後の病状の系かを丁寧に説明し、一緒に考えていくことが重要です。

心不全患者さんの思いをつなぐケア

看護師がハブになりゴールを決める

 心不全治療においては、チームでケアの方向性、つまりゴールを共有することが重要です。多職種チームで介入しようとしても、心不全にはさまざまな治療法が存在し、ゴールを定めなければケアの方向性がバラバラになってしまいます。看護師は、その調整役としてハブのような役割を担います。本人の医師を尊重しながら多職種と連携してゴールを設定し、ちーっむ全体で一致させることで全員が同じ方向に向かって進むことができます。
 そのためには本人の意思が最も重要で、患者さん自身の思いや価値観を知る必要があります。しかしそれを聴くのは看護師だけではありません。例えば理学療法士は、リハビリを行いながらリラックスした雰囲気で話しをするため、看護師とは異なる視点や情報を得ることがあります。こうした多職種から得られる情報をチームで共有しながら、患者さんの価値観や希望を中心に据えた方針を検討することが重要です(※)

※久留米大学病院の心不全支援チーム

心不全支援チーム
HST:Heart failure Support Team

当院では、多職種で構成されるHSTにより、主治医と一緒に心不全治療に関するさまざまな専門的サポートを行っている。入院、外来を問わず、循環器疾患のある患者や家族を対象に、心臓移植を検討する方へのサポートも行う。さらに院内の緩和ケアチームと連携しつつ、緩和ケアに関する相談も受け付けている。



症例紹介


E氏:30歳代 男性
心不全を発症し、外来通院中
疾患:拡張型心筋症 ステージC(ACCF/AHA分類)
発症時、ステージCと診断された。長年の喫煙習慣があり、暴飲暴食を続けるなど、健康的とは言えない生活を送っていた。独身で家族はおらず、仕事を生きがいとしていた。医師から心臓移植が必要な状態にあると告げられたが、「長生きしたいと思わない」と移植を拒否。チームで療養指導を行うが「生活を変える気はない」と断固として生活習慣の改善に応じなかった。


チームでゴールを設定

 E氏は生活を改善しなければ、心不全が増悪して入退院を繰り返すことが予想できました。そこで何度もチームで話し合い、 「生きがいである仕事を続けられるように、セルフケアを教育する」というゴールを設定しました。具体的には、利尿剤の内服時間を仕事に影響しないように調整し、急な入院を避けるために、受診が必要な状況を伝えました。これにより、チーム内でのゴールが明確になり、全員が迷うことなくE氏への支援を進めることができました。
 ある日、E氏から「移植を受けたい」という発言がありました。それまで医師が何度も移植を勧めても断り続けていたので、突然の心境の変化でした。理由を尋ねると、E氏は「友達に生きていてほしいって言われたんです」と答えました。そこでチームはE氏の支援のゴールを心臓移植の申請と再設定し、徹底した生活習慣改善指導を行いました。その結果、E氏は禁煙し飲酒も止め、生活習慣を改善することができ、移植申請することができました。

本人が希望した生活を支える

 移植申請を行いましたが、その後腎機能の低下により移植は困難と判断されました。状態も次第に悪化し、仕事を退職して入院生活を送っていました。そんな中、本人の思いは「自宅で過ごしたい」という希望でした。
 その希望を叶えるため、チームは訪問診療や訪問看護など体制を整えたうえで退院し、在宅生活が始まりました。しかし、次第に浮腫や腹水が貯留し、呼吸困難・倦怠感などの症状が悪化、歩いてトイレにも行くことも困難な状態になりました。夜一人でいることに対する不安から、不眠も続くようになりました
。本人に話を聞くと「眠りたい」と言われました。その希望に対し、訪問診療医や訪問看護師も交えてチームで検討し、E氏と相談のうえ、睡眠確保のために入院することとなりました。入院中は、夜間のみ鎮静剤を使って睡眠を確保し、体調が落ち着いた時点で再び退院し自宅で過ごすようにしました。その後、数回の入退院を繰り返し、病院で最期を迎えました。
 E氏は、医療従事者が何度説明しても移植を選択しませんでしたが、友人からの言葉で移植を決意しました。医療従事者は治療を含めた支援を行い、患者さんのQOLが向上することを願っていますが、大切なことは本人の希望を把握することです。移植のように人生に関わる重要な選択をする際の意思決定支援では、信頼関係を基盤としながら、患者さんが治療をどのように捉えているのか理解しておくことが重要です。

緩和ケアは日々の看護の中にある

 私たちは、日々の看護の中で緩和ケアを実践しています。急性期でも苦痛を和らげるケアをしますし、患者さんのためにしていることすべてが緩和ケアにつながります。
 「緩和ケア」という言葉にこだわる必要はありません。大切なのは、患者さんが望む生活を一緒に考え、その実現をサポートすることです。そのために多職種チームが存在しています。常に緩和ケアの意識を持ち、多職種と連携しながらその後のケアにつなげていくことが重要です。

参考文献
脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会「心血管疾患の診療提供体制の在り方について」平成29年7月
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000173149.pdf

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