災害看護の現状と課題
【新連載:第1回】日常の看護ケアが災害看護につながる
投稿日:2024.08.22
近年、国内外で大規模災害が頻発しています。これまでに多くの被災地で活動をされてきた災害看護専門看護師の岡﨑敦子先生に、発災時にはどのような視点で被災者を支援していけばよいのか、日頃の備えとして必要なことは何かなど、ご自身の体験を通したお話を伺いました。
いざという時のために知っておいてほしい内容をお届けします。
いざという時のために知っておいてほしい内容をお届けします。
独立行政法人国立病院機構 東京医療センター
災害看護専門看護師
岡﨑 敦子 先生
災害看護専門看護師
岡﨑 敦子 先生
災害看護認定看護師への歩み
2003年 久留米大学病院に勤務
2005年 福岡県西方沖地震発生
2007年 災害看護を学ぶため病院を退職し、兵庫県立大学大学院へ入学
2009年 大学院を修了し、再び久留米大学病院に復職
2009年 災害支援ナースとして活動を開始
2017年 災害看護専門看護師資格を取得
2024年 独立行政法人国立病院機構 東京医療センターに勤務、現在に至る
2003年 久留米大学病院に勤務
2005年 福岡県西方沖地震発生
2007年 災害看護を学ぶため病院を退職し、兵庫県立大学大学院へ入学
2009年 大学院を修了し、再び久留米大学病院に復職
2009年 災害支援ナースとして活動を開始
2017年 災害看護専門看護師資格を取得
2024年 独立行政法人国立病院機構 東京医療センターに勤務、現在に至る
災害看護教育の大切さ
私が災害看護を学ぼうと思っ たきっかけは、2005年に福岡県西方沖地震が発生し、当時勤務していた病院の備えや、看護師として「災害時にどう対応したらよいか」 に不安を感じたからです。 当時、国内で唯一 災害看護学専攻があった兵庫県立大学大学院に進学し、阪神・淡路大震災時の体験や教訓、地域の復旧・ 復興の課題などさまざまな視点から災害看護を学び、災害支援ナースとして活動を始めました。大学院を修了してからは災害支援ナースに登録し、さまざまな過去の災害から教訓を学び、災害時にどのような看護が必要か、災害看護の成果を社会にどう発信できるかという課題を持って活動を続けています。
災害対策に関する法律や制度は少しずつ見直されており、近年では2021年の災害対策基本法改正によって個別避難計画の作成が努力義務になりました。また、2022年改正医療法 ・ 改正感染症法が成立し、2024年からは看護職員が都道府県と施設が締結した協定に基づき災害 ・ 感染症医療業務従事者として、医療機関や被災自治体などに派遣されることになりました。看護師が、保健医療福祉に関する地域の災害対策本部の会議に出席し、住民の暮らしを中心に他職種と連携・協働できるようになったことで、支援が必要な方々へ、より速やかな対応が可能になると期待しています。
2024年度から運用開始となった第8次医療計画は、浸水対策や新興感染症と通常医療の提供体制についても言及されています。
災害時に何が起こるか想像して先を読む
熊本地震の時、2000人規模の避難所に配置された看護師は2人でした。圧倒的な医療者と避難者の不均衡状態の中で、まず大切なことは医療が必要な方や要配慮者など、長期化する避難所で生活することが困難な方をピ ックアップし、医療支援や福祉避難所へつなぐことでした。その次の段階として、感染症や食中毒、脱水、便秘、熱中症、呼吸器疾患、生活不活発病といった二次的な健康被害を予防し、最小限に抑えることが大切になってきます。さらに、生活の安定化や自立に向けた継続的な支援が重要になっていきます。
避難者が2000人いても、そこにいる人たちは持病があっても普段は何事もなく地域で暮らしており、すべての方が患者ではありません。看護師として大切なことは、検温や血圧測定し病気を探すことだけではなく、制限がある生活の中でも健康を維持できるように生活を整えていくことです。
多くの病院で行なわれている災害訓練は、災害が起きた直後を想定した訓練が中心かと思います。もちろんそれも大切ですが、実際はライフラインが途絶えた時、3日後、1週間後、1ヵ月後を想像しながら訓練しておく必要があるため、先を読む力が本当に大事です (図1) 。そのためには、過去の災害経験から得た教訓をこれからの災害対策に反映させていくことと、ウィズコロナというような新興感染症と自然災害両方が同時に起こることも考えて、衛生的で快適に暮らせるよう環境を整え、中・長期的な視点から求められる支援を考えておくことが必要です。
日々の看護をどう行なうかが災害対策にもつながる
災害が起きても、普段から看護実践能力を高めておけば、災害支援の場でも柔軟に考えながら、適切な手技を応用できると思います。
災害時に求められる看護は、日頃から患者さんの病態を十分理解しておくことが大切です。例えば、複数の点滴を投与している患者さんの場合、一時的に中断しても生命の危機に直結しないものはどれか、頭部や胸部にドレーンが入っている場合、搬送のために(一時的に)、クランプしても問題はないかなど、安全な対応を知っておく必要があるでしょう。また、ケアにはそれぞれ行なう意義や目的があります。自分の看護の根拠となり、相対する患者さんたちが安全で安楽な医療を行うために大切です。「体を拭きたくない」「薬を飲みたくない」といった拒否がある場合には何か理由があるので、「なぜ」なのかを聞き取ってほしいのです。
被災地に支援に行った場合、または自身が被災して支援に来てもらった場合、どのような心理状態になるでしょうか。被災地の一 日も早い復旧・復興のために、地域の中で行う災害支援は、地域のことをよく知っている保健師さんや他職種と連携していくことが大切です。発災直後だけでなく長期的な支援を行うことも多いため、日ごろから看護の基礎力を高め、地域の中で生活している人たちの身体・精神的な変化を観察しながら対応していくことが求められます。
(2024年5月22日取材)
\ シェア /