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    ~ゆみの訪問看護ステーションの取り組み~

心不全患者の在宅療養を支える看護師の役割
~ゆみの訪問看護ステーションの取り組み~

高齢化に伴い心不全患者が急増し、2030年には130万人に達すると推計されています。現在の医療体制では対応が難しく、医療費抑制と患者のQOL向上のため在宅療養が重要視されています。本記事では、心不全看護に強みを持つ「ゆみの訪問看護ステーション」の実践例を通じ、心不全患者の在宅療養における具体的な取り組みを紹介します。

心不全患者の在宅療養の必要性

 心不全患者の増加は 「心不全パンデミック」 とも呼ばれ、 医療従事者には在宅療養の支援が求められています。 心不全患者の中には、 適切な治療やケアを受けられていない方もおり、 在宅医療の領域で対応できる医師や看護師が不足しているのが現状です。 この背景から医療法人社団ゆみのが設立され、 2020年には 「ゆみの訪問看護ステーション」 が立ち上がりました。 当ステーションは法人内のクリニックとの連携を強みとし、 心不全患者の在宅療養支援を行っています。
 一方、 心不全患者の退院には高いハードルがあり、 その背景には病院と在宅の間で制度理解のズレがあります。 病院では 「しっかり退院調整しなければ退院できない」 と認識される場面が多くありますが、 実際は退院後でも在宅サービスの調整は可能です。 このギャ ップを埋めることが、 心不全患者の在宅療養を支えるために必要です。
ゆみの訪問看護ステーション 管理者
髙取 幸恵 先生

訪問看護師の役割と医療機関との連携

 訪問看護師には、 フィジカルアセスメント能力が求められます。 週に1〜2回の短時間の訪問で、24時間の生活を予測しながら心不全の増悪要因をアセスメントする必要があるからです。 セルフモニタリングも重要で、 体重や血圧を測定 ・ 記録することで日々の変化を捉えやすくなります。 心不全手帳の活用が推奨されますが、 うまく活用できない場合は、 症状観察から記入までを訪問看護師が一 緒に支援します ※ 。

※心不全手帳がうまく活用されないときは

訪問看護師のサポート
・症状観察から記入まで訪問看護師が一緒にサポートする。
・記入方法のアドバイスや記入のフォローを行う。

家族の協力
・家族も一緒に手帳を記入することで、まるで交換日記のように記録をつけあうことができる。
・家族が記入を手伝うことで、本人の負担を軽減する。

地域全体での支援
・測定や記入が難しい場合、ヘルパーやデイサービス職員に協力をお願いすることが可能。
・地域全体で本人を支えることが大切。


 そして訪問看護師の最も重要な役割が症状緩和です。 特に呼吸困難は苦痛が強く、 薬剤コントロールが必要です。 呼吸筋のマ ッサージやストレッチも症状緩和に有効で、 家族にタッチングの手技を指導し、 ケアをしてもらうのもよいでしょう。
 また急性増悪時の対応ができるよう、当法人ではテレナーシングを導入しており、 遠隔で体調管理のモニタリング、 急変時の緊急往診手配などを24時間体制で行っています。
 これらのケアのベースになるのが、 信頼関係の構築です。 私たちは今後の見通しを予測し、 それを本人や家族に伝えるようにしています。 症状やその対応を知ることで安心され、 信頼につながると考えています。
 このように医療的な症状コントロールが不可欠ですが、 絶対に忘れてはいけないのがその人らしい生活を大切にすることです。 その人らしさを知るためには、 生活歴や仕事、 家族関係などを普段から聞いておくことが大切で、 それがACP (アドバンス ・ ケア ・ プランニング) の始まりです。 私たちは毎回の訪問がACPの実践の場だと考えています。

在宅だからこそ見えた一面

 在宅には、 在宅でしか見えない利用者の姿があります。 それが伝わる症例をご紹介します。


症 例
Aさん 男性 80歳代
・心不全の増悪により入退院を繰り返す。
・ステージDに進行し、病院での治療が困難となり自宅退院。
・退院日より訪問看護を開始した。


 病院からの申し送りでは、 Aさんは 「コンプライアンスが極めて不良」 と聞いていました。 しかし、 訪問してみると部屋は綺麗に整えられ、 在宅酸素のカニューレも丁寧に管理され、 几帳面な性格であることが見て取れました。 話を聞くと、 コンプライアンス不良のレ ッテルは性格的な問題ではなく、 心不全やケアの必要性に対する理解不足が原因であることが分かりました。 そこで、 訪問のたびに心臓の構造からAさんの病状まで丁寧に説明を行い、 理解を促すように関わりました。 行動にも変化があらわれ、 全く活用していなかった心不全手帳を、 1日も欠かさず書くようにな っ たのです。 私たちへ の信頼も深まりました。 法人内のクリニックと連携して細かい薬剤調整ができたこともあり、 Aさんは最期まで在宅で過ごすことができました。 病院と在宅では、 見える姿が全く異なることを実感できた関わりでした。 在宅でしか得られない情報があり、 それを強みに利用者と向き合うことが大切だと感じました。

訪問看護師の役割と医療機関との連携

 今後、 在宅領域では高度な治療 ・ ケアを要する心不全患者も増加していくと思います。 2021年からはVAD (補助人工心臓) の治療が心臓移植適応のない方でも植え込みができるようになり、 在宅でVADを使用する方が増えています。2024年度診療報酬改定では、 在宅静注強心薬療法※の指導管理料を算定できるようになり、 強心薬を持続投与しながら生活する患者の増加が予想されます。
 当法人では、 カテコラミンの使用マニュ アルを作成しており、 どの医療機関、ステーションでも利用できるような情報発信をしています。 今後は治療と予防の両輪が必要になります。 心不全のステージAやBの段階からの介入や予防 ・ 啓発活動も訪問看護師の重要な役割となるでしょう。 私たちも多くの方の在宅療養を支えられるよう、 心不全看護の専門性を一層高めていきたいと思っています。
※在宅静注強心薬両方とは
重症心不全患者に対し、在宅で強心薬(カテコラミンやPDE III阻害薬)を持続投与する治療法


訪問看護における心不全患者支援の3つのポイント

1)在宅だからこその 視点を強みに

 同じ人であっても、病院から見える姿と在宅で見える姿は異なります。得られる情報も異なり、在宅でしか得られない情報もあります。在宅だからこその視点を強みとしながら、利用者と向き合うことが大切です。

2)その人らしい生活を送れることが大切

 医療的なコントロールは必要ですが、もっと大切なのはその人らしい生活を大切にすることです。好きなものを食べたい、旅行に行きたい、孫に会いたいといった気持ちを常に尊重し、その願いを叶えるために何ができるかを考えましょう。

3)訪問看護師の最も重要な役割は症状緩和

 2024年度の診療報酬改定により、緩和ケアを要する心不全末期の患者にも麻薬の持続静注ができるようになりました。鎮静や麻薬を含めた薬剤の使い分けが求められます。多職種の連携や、ときには家族の協力を得ることも大切です。

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