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編集部レポート

令和6年度診療報酬改定
退院後の生活を見据えた 急性期からの栄養管理

投稿日:2024.08.09

令和6年度の診療・介護同時報酬改定では、入院中から退院後の生活を見据えて、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の多職種連携による一体的な取り組みの推進を打ち出しました。また、疾患の治癒やADL・QOLに影響を与える栄養管理体制の基準が明確化され、入院料も引き上げられました。

今回の編集部レポートでは、ご自身も管理栄養士として活躍してこられた栄養系技官で、令和6年度診療報酬改定を担当された厚生労働省保険局医療課の課長補佐日名子まき氏に、栄養関連の改定内容についてうかがいました。

厚生労働省保険局医療課課長補佐
栄養系技官・管理栄養士

日名子まき 氏


令和6年度同時報酬改定に向けた意見交換

 中央社会保険医療協議会総会、 社会保障審議会介護給付費分科会による具体的な検討の前に、 両会議の委員のうち、 検討項目に主に関係する14名の委員による意見交換会が行われました。 要介護高齢者の心身の特性に対応した急性期入院医療の在り方、 高齢者の低栄養の問題、 入院時の安静臥床がもたらす弊害などが議論され、 「急性期病院における高齢者の生活機能の低下を予防することは重要。 病状を踏まえ、 各医療専門職種が共通認識を持ったうえでチーム医療による離床の取組を推進すべき」 「リハビリテーション ・ 口腔 ・ 栄養は、 多職種が連携し、的確に対象者を把握し、 速やかに評価や介入を行える体制を構築することが重要。 その際、 患者の経過や全身状態を継続的に観察している看護職がアセスメントした情報を多職種と共有し、 早期の対応につなげるという体制構築が重要」 といった意見などが挙がりました。 ここでの様々な意見も踏まえ、今回の同時報酬改定が議論されたのです。

入院中の栄養管理に求められること

 私は令和3年度の介護報酬改定時には老建局老人保健課で介護報酬改定を担当し、今回は保険局医療課で診療報酬改定の担当になり、 同時報酬改定を迎えました。

 急性期においても高齢者の入院の割合は高く、 介護施設等から急性期病棟に入院する高齢者の疾患としては誤嚥性肺炎が多いというデータがあります。 また、 誤嚥性肺炎により入院した高齢者は、 4日以上食止めをされている割合が6割以上という報告もあります。 特に高齢者は、 安静臥床と低栄養が治療や生活に与える影響は大きいため、 急性期病院でも高齢者の生活機能の低下を予防することが重要であり、 多職種が連携してリハビリテーション ・ 栄養管理 ・ 口腔管理に関する早期の評価と介入を行い、退院後の生活まで繋いでいく。今回の改定では、 そのための栄養管理の実践が明確に位置付けられたといえます。

 医療においては生活の視点を、 介護においては医療の視点を持ったケアマネジメントを、 という同時改定の方向性も踏まえ、 入院基本料 (※1) や入退院支援加算の見直し(※2) 、 地域包括医療病棟入院料 (※3) 、リハビリテーション ・ 栄養 ・ 口腔連携体制加算(※4) 、 栄養情報連携料 (※5) の新設などが行われました。

低栄養の早期発見及び適切な介入を

 入院時早期の栄養スクリーニングと低栄養リスクがあった患者への個別の栄養管理により全死亡率などが低下したというエビデンスが示されています。 今回の改定で低栄養の判定については、 世界的診断基準であるGLIM基準 (2018年、 世界の主要な臨床栄養学会が策定) を用いることが、 回復期リハビリテーション病棟 ( 一部推奨) (※6) や地域包括医療病棟、 リハビリテーション ・ 栄養 ・ 口腔連携体制加算の算定要件に明記されました。

 管理栄養士を対象としたある調査では、GLIM基準が栄養評価に活用されている割合は全体の8.6%程度でしたが、GLIM基準の評価項目である食事摂取量、 BMI、体重減少は、 個別に多くの医療機関で使用されており、 筋肉量や炎症は少ないもののリハ職や看護職など多職種と連携すれば評価可能な項目です。 入院早期にGLIM基準を用いて低栄養を判定し、 病棟専任の管理栄養士と多職種が連携しながら患者一 人ひとりの状態に応じた栄養管理を行うことで、 生活機能の低下を防ぎ、 早期の退院を支援することが重視されました。

 また、 リハビリテーション ・ 栄養管理とともに、 誤嚥性肺炎の予防や口から食べる楽しみを支援するために、 口腔管理も重要であることから、 入院早期に口腔状態の評価を行い、 口腔状態に係る課題を認めた場合は、適切な口腔ケアを提供するとともに、 必要に応じて歯科医療機関への受診を促すなど、一 体的な取り組みを推進しています。

 さらに、 療養病棟において適切な栄養管理が実施されるよう、 中心静脈栄養について、 患者の疾患及び状態並びに実施した期間に応じた医療区分に見直すとともに、 ガイドラインを踏まえ新たに経腸栄養を開始した場合に 一 定期間算定可能な経腸栄養管理加算 (※7) も新設されました。

多職種連携は日常的なコミュ ニケーションから

 今後、 病棟配置が進められてゆく管理栄養士と病棟の看護師は、 日常的な会話の中で、お互いの専門性や強みを活かして栄養管理の連携体制を築いていかれるのだと思います。 管理栄養士が病棟にいる、 ということが当たり前になると、 看護師からのちょっとした相談や、 管理栄養士からの患者情報の確認など、 情報交換も行いやすくなることでしょう。 さらに、 管理栄養士が病棟にいることで、入院患者の状態に応じた食事変更や栄養管理の提案を速やかに行い、 給食部門と連携して対応することも、 低栄養予防対策としてとても大切なことだと考えます。

 各職種がそれぞれの専門性を活かした急性期医療における高齢者の生活機能の低下予防に取り組み、 日常的なコミュ ニケーションでの多職種連携が、 今回の改定のキーワードのひとつといえるでしょう。
(2024年6月4日オンライン取材)

※1 入院基本料等の施設基準等 栄養管理体制の基準(2)の見直し(略)あらかじめ栄養管理手順(標準的な使用スクリーニングを含む栄養状態の評価、栄養管理計画、退院時を含む定期的な評価等)を作成すること。
※2 入退院支援加算 注7 入院時支援加算1240点
※3 (新)地域包括医療病棟入院料(1日につき)3,050点
※4 (新)「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」(1日につき)120点
※5 (新)「栄養情報連携料」 70点
※6 GLIM基準による栄養評価の要件化
※7 (新)経腸栄養管理加算(1日につき)300点

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