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ナースマガジン vol.48

【看護ケアQ&A】 心不全パンデミック時代における 慢性心不全患者の療養支援

投稿日:2024.07.26

 高齢化に伴い、心不全患者の増加が予測される日本。これを心不全パンデミックと呼び、循環器領域を専門とする看護師の皆様以外でも心不全看護が求められる時代といえます。2024年2月に実施したアンケートでは、患者背景の複雑化や継続的支援の難しさに対する多くの悩みが寄せられました。

 北里大学看護学部看護システム学教授の眞茅みゆき先生に、慢性心不全患者への看護に必要な知識や考え方、療養支援におけるアセスメントのヒントについてお伺いしました。



監 修

眞茅 みゆき 先生
北里大学 看護学部看護システム学 教授



心不全患者さんに対する看護のお悩みについてアンケートを行いました!

Q:心不全患者さんの看護において課題や悩みは ありますか?


Q:具体的なお悩みは何ですか?

・患者さんや家族への生活指導が難しい

・高齢の患者さんへの食事や内服指導の難しさ

・急性期では治療がメインとなり長期管理視点が抜けがち

・再入院率が高い


など
回答数で最も多かったのは「訪問看護ステーション」26.8%、次いで「急性期病院」20.5%、「診療所(クリニック)」10.0%という順でした。
※アンケートは2024年2月、ナースの星メールマガジンよりオンラインで実施。有効回答数は190名。




訪問看護における心不全増悪時の対応

患者さんの状態が悪化していると感じた際に受診を勧めても、入院につながることが少ないという問題に直面しています。患者さんは倦怠感や息苦しさの重篤な症状が出現し、最終的には救急搬送されることが多く、適切にサポートできていないという無力感があります。
—-訪問看護ステーション主任
医療従事者間で「どのような状態になったら入院するのか」という事前の情報共有が重要です。 「状態の悪化」を認めた場合の情報共有の方法も確認しておく必要があります。
  例えば、進行中の症状に対してどのような検査が行われたか、利尿剤の量を調整されたかなど、具体的な診療の内容を把握することが求められます。

 ただし、心不全のアセスメントが十分に行われていない場合では、症状が悪化して緊急搬送になる可能性があります。患者さんの心不全症状の増悪傾向に気が付いた場合は、さらなる状態悪化を防ぐため、定期受診を待たずに医療機関に連絡する必要があります。

 普段、循環器疾患に携わることが少ない場合、まずは患者手帳の一つである「心不全手帳」に記載されている増悪のサインを観察し、それに基づいて適切に受診につなげることが推奨されます。手帳の内容を参考に、受診の目安を患者さんや家族とも共有できるとよいでしょう。単に入院することをゴールにするのではなく、可能な限り症状の進行を抑えて、自宅での療養を続けられるよう支援することです。そのためには、患者さんが現在、心不全の進展ステージ上どの段階にいるかと治療目標を理解し(図1)、次に移行しないような症状のアセスメントを正確に行い、患者さんの状態に応じた適切な対応をすることが重要です。

▼【図1】心血管疾患患者の臨床経過のイメージ
【図1】心血管疾患患者の臨床経過のイメージ
心不全患者は、無症状のリスク状態から症候性心不全へと進行・悪化を続けており、それぞれのステージにおける主な治療目標は異なる
参考:
厚生労働省 脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会「脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る 診療提供体制の在り方について」平成29年7月
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000173149.pdf(2024年6月現在)をもとにメディバンクス(株)が加工して作成


心不全患者さんに生活 指導を行う際、心不全手帳を活用していますか?

活用している

▶体重や血圧の推移がわかりやすい
▶高齢者が多いので家族や周囲の協力も得て記入
▶本人が持っていれば活用している
など

活用していない

▶心不全手帳を知らなかった
▶独自のパンフレットを活用
▶スタッフ有志で作成したツールを活用している
など


心不全患者のセルフケアに対する支援方法

心不全の急性期症状を脱した後は症状が改善するため、生活習慣を見直す必要性を感じていない患者さんへの介入が難しく感じます。退院後も入院前と同じ生活習慣で過ごすため、入退院を繰り返しています。
—-急性期病院一般病棟(内科系)スタッフ
心不全の患者さんに対するセルフケアの支援では、退院後の生活習慣の振り返りと増悪予防のための生活調整が必要となります。退院直後だけでなく、退院後しばらくは継続的な支援が必要な場合もあります。一方的な指導ではなく、医療従事者と患者さん、家族が自身の状態や退院後の日常生活上の課題を共有し、患者さんや家族が納得した上で、適切な生活習慣を維持できるよう支援することが求められます。
「行動変容」を促すためには、医療従事者は患者さんの生活環境を理解し、現実的な改善策を提案する必要があります。心不全の患者教育には一律の方法はなく、個々の状況に応じたアプローチが必要です。基本的な治療方針や支援の方法はテキストやガイドブックに記載されていますが、患者さんの基礎心疾患、合併症、年齢、生活背景に合わせた個別の対応が求められます。知識を提供するだけではなく、患者さんが情報を理解し行動に移せるように支援することが重要であり、これが患者教育の基本です。看護師の皆さんは、これを理解し、さらなる勉強と実践を重ねる必要があります。

 例えば心不全の進展ステージCの患者さんには、特に再入院の予防を目標に設定し、その達成に向けて取り組むことが求められます。そのためには、医療従事者が「心不全手帳」などの患者手帳を有効に活用し、患者さん、家族、医療従事者間で療養生活の状況を共有することが重要です。

 また、「医療ー福祉ー介護をつなぐ心不全療養支援ポケットガイド」は、病院だけでなく在宅や地域医療においても活用されることを目的としており、継続した支援のポイントの参考にするとよいでしょう。さらに心不全患者さんへの支援の理解を深めたい場合は「心不全療養指導士認定試験ガイドブック(改訂第2版)」の活用が推奨されます。心不全の基本から、患者さんの問題抽出や個別的な療養指導方法を導き出すヒントが得られると思います。





医療-福祉-介護をつなぐ
心不全療養支援ポケットガイド

心不全患者さんの療養指導に役立つポケットガイド。
基本からQOL改善までイラストで解説し、在宅・地域医療にも対応。心不全患者さんの療養支援に従事するすべての専門職にとって役立つ一冊です。(編集部)
編集:日本循環器協会・日本心不全学会
発行年月:2024年3月
判型:新書版(208ページ)
定価:2,420円(本体2,200円 + 税)
ISBN:978-4-524-21067-1
発行元:南江堂

心不全療養指導士
認定試験ガイドブック〈改訂第2版〉

心不全患者さんのケアや指導に必要な知識を網羅し、試験対策に役立つガイドブックです。臨床現場で役立つ具体的な対応方法や最新のエビデンスが詰まっているので、心不全療養支援に悩む方にもおすすめです。(編集部)
編集: 日本循環器学会
発行年月: 2022年3月
判型: A4(280ページ)
定価3,960円(本体3,600円 + 税)
ISBN:978-4-524-23213-0
発行元:南江堂


参考:編集:日本循環器学会・日本心不全学会. 医療 – 福祉-介護をつなぐ心不全療養支援ポケットガイド. 南江堂, 2024年.


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