1. ホーム
  2. コラム
  3. 【セミナー記録集】 第1回テルモITソリューションセミナー
    質の高いベッドサイド看護について考える
広告

【セミナー記録集】 第1回テルモITソリューションセミナー
質の高いベッドサイド看護について考える

投稿日:2024.08.13

 2024年2月22日に「第1回テルモITソリューションセミナー」が開催され、質の高いベッドサイド看護のあり方について、2人の先生から講演が行われました。

 本講演では、ナースマガジン・ナースの星編集部も関与した2023年10月〜12月に実施した「病棟での輸液/シリンジポンプ使用の際の看護業務調査」の結果が紹介されました。

 今回、そのセミナーの講演内容を紹介いたします。


日 時: 2024年2月22日(木)18:30~19:30
開催方式: Web開催

講演1:

質の高いベッドサイド看護を提供するために必要な力

阿部 幸恵 先生

東京医科大学 医学部 看護学科 学科長・教授
シミュレーションセンター センター長

看護の質(QUALITY OF NURSING CARE)とは

 看護の質には明確な定義がなく、さまざまな考え方があります。Avedis Donabedian氏は、看護の質を「構造」「過程」「結果」の関連し合う3つの構成要素で捉えることができると述べています。「構造」は病院の建築・設備や看護職の配置など、「過程」は看護師の活動や臨床判断を含む能力、「結果」は患者満足度や入院日数にあたります1)。ベッドサイド看護の質においては、この3つのうち「過程」の視点が重要だと考えます。

 日本における看護の質の概念を紐解くために、塚越氏は過去の文献から8つの属性を抽出しました2)。その属性から、質の高いベッドサイド看護を提供するために必要な力を考えてみます(図1)。
 「患者中心の看護」はどの文献にも共通しており、疾患に関わる問題を解決する力で、対象が望む生活を支援する力や、対象の理解・納得・判断を支援する力などが求められます。

 「人間関係」は、対象との関係を築いたり、看護職者同士や他職種と連携を図ったり、「患者中心の看護」を実践するために必要な力です。

 続く「専門職性」、「チームワーク」、「看護継続性」の3つの属性にはすべて、専門職者として看護の視点で対象を捉える力が共通しています。生活の視点で支援を提供できる力や、看護の専門性を意識して人材育成する力も重要です。

 この5つの属性が、質の高いベッドサイド看護を提供するために特に重要です。病院という場所では患者自身が病気の治癒を目指しているため、看護師が提供する内容は、疾患に関わる問題解決支援が多くを占めます。そのなかで、看護師が問題解決にどの役割を担うかを考えることが、質の高いベッドサイド看護につながると思います。

 このように、質の高いベッドサイド看護にはさまざまな力が求められますが、その核は「患者中心の看護」と「専門職性」だといえます。

看護職者として思考することの大切さ

 質の高い看護を提供するためには、看護職者として思考する力が重要で、感覚・知覚、記憶、言語などの認知機能を使う必要があります。ベッドサイド看護の質を高めるには、看護師が感覚・知覚を活用し、ベッドサイドへ行き、環境を見て、患者を診てさまざまな情報を得ます。そしてその情報を看護に生かすための記憶が重要です。記憶した専門知識を用い、感覚・知覚で捉えた情報とつなぎ合わせて思考を進め、言語に置き換えて整理します。

 このように看護師はさまざまな認知機能を使いながら、思考して判断し、看護を遂行していくのです。ここで重要なのが、認知機能は使わないと退化してしまうということです。

 例えば今の時代、公衆電話を知らない子どもが増え、固定電話がない家庭も珍しくありません。経験したことがない、あるいは経験したことでも長年使わずに認知機能が退化してしまうと、考える力が衰え、いざという時に役に立たなくなってしまいます。

 質の高い看護を提供するためには、認知機能を使い、思考する力を高め続けることが重要だと考えます。

テクノロジーの役割と看護を実践する力

 近年、テクノロジーはとても進化しており、作業効率の向上や作業時間の短縮というメリットがあります。しかし、そこには人の観察力が不可欠だと考えます。看護を実践する力は、さまざまな対象を身体的・精神的・認知的・社会的側面から援助する能力です。つまり、十分な観察により問題を予知、モニタリングし、専門職者としての思考を生かして判断することが、本当の看護の実践力だといえます。

 認知機能を働かせながら、自ら観察し、自ら記録を行うからこそ、カルテに書かれた情報に注意を向けられます。しかし、テクノロジーの導入により、記録が既に完了している状況下では、入力した記録を見てしっかりと考える時間が持てず、その情報を基に思考し、批判的に考えることができなくなるのではないかと懸念しています。

 さらに、テクノロジーの導入が看護師としての思考・技術的成長機会を奪ってしまうことも危惧しています。コロナ禍以降、いくつものAIロボットが出現し、生体モニターからデータを分析してアセスメントまで行われています。それが正確であれば、看護師のフィジカルイグザミネーションや思考してアセスメントする力が衰えてくるかもしれません。

 業務の効率化が本当にベッドサイドの質の向上につながるのかを改めて考えることが必要です。そのうえで、観察力やモニタリング力、臨床推論の力を大切にしながら、テクノロジーと看護の実践力の両者を育んでいくことが重要だと思います。
 最後に、科学的看護論で高名な薄井坦子先生の言葉をご紹介します。

 「ナースたちが自己の頭脳の働きを信じて、その人のそのときの感情を察しつつ、その人が持てる力に気づいてしっかりと生きていけるよう支える日々の実践のなかで、何が、なぜ、看護の情報なのかを自らつかみとってくださることを期待します」3)

 我々の日々の実践のなかで、テクノロジーに任せることと我々の頭脳で考えることをチームで十分に話し合うことが必要です。そして質の高い看護を提供するためには、その両者を両立していくことが大切なのではないかと考えています。



講演2:

医療機器と電子カルテのデータ共有によるベッドサイドケアの充実

谷 真澄 先生

社会福祉法人 恩賜財団 済生会松阪総合病院 専従医療安全管理者

看護師の現状と課題

 新型コロナウイルスの感染拡大により、当院では看護師が減少傾向となっています。医療業界は一般企業と比較し、人材不足やデジタル化の遅れ、長時間労働などが課題だと感じていますが、最近では、医療業界でもIT、ICT、IoT、医療DXという言葉が使われ、取り組みも推奨されるようになってきました。

 また、超高齢化社会の日本では、急性期病院でさえも介護が必要な患者が多く、本来の看護業務に専念できる時間が短くなっているように思います。そのなかでも、看護師には質の高い看護を提供することが求められており、そのためにはまず職員が働きやすい職場環境が必要です。その職場環境づくりの一環として、医療機器と電子カルテの通信連携が寄与すると考えています。

済生会松阪総合病院の取り組みと成果・効果

 当院では、電子カルテ記録における正確性と、生産性の向上による看護業務の効率化を目的とし、医療機器と電子カルテの通信連携に取り組んできました。2020年1月、電子カルテシステムの更新時期にあわせ、NFC(Near Field Communication)通信機能付きの医療機器を導入し、輸液ルートの見直しと輸液ポンプの更新を行いました。NFC通信機能は、携帯電話を使った電子マネーのように私たちの生活でも使われており、その機能を医療機器に備えることで電子カルテへ情報を反映させることが可能になります。その取り組みと成果・効果を4つご紹介します。

 1つ目は、「バイタルサイン記録時間の削減」です。従来のワークフローでは、バイタルサインを測定し、手書きでメモを取り、看護業務の合間に電子カルテに入力していました。カルテ入力までタイムラグがあり、医師からは実際に測っているのか、それとも単なる記入漏れであるのかが分からず、度々問い合わせがありました。その問い合わせ対応も私達の看護業務の1つとなっていました。しかし、この通信連携が始まってからは、医師からの問い合わせがなくなり、医師からはタイムリーに測定値が入力されるようになったと評価を得ています。

 さらに、NFC通信機能付きのバイタルサイン関連機器導入により、病床数を430床、病床稼働率を85%、患者1人あたり3回/日の測定指示があるケースで計算すると、大まかに看護師7人分の年間労働時間と同等の記録時間を削減できることになります(図2)。
 2つ目は、「血糖値記録時間の削減」です。従来の業務フローは、血糖値の測定値を手書きでメモをし、測定値と指示簿を照らし合わせてインスリン投与した後に、電子カルテに血糖値とインスリン量を手入力していました。そのため、測定値を手入力するまでにタイムラグがあり、医師からの問い合わせが多々ありました。しかし、通信連携を開始してからは、バイタルサイン同様に問い合わせがなくなりました。

 なお、血糖測定器の通信連携は、POCT(臨床現場即時検査)機を導入しています。POCT機は複数の患者のデータをプールさせることができます。そのため1人1人の測定ごとにメモを取る必要がなく、複数患者を回って測定してナースステーションに戻り、POCT機をNFCリーダーにタッチするだけで、それぞれの患者の電子カルテに測定値が反映されます。同一画面で測定値の確認と投与が必要なインスリン量の確認、そして実施入力までできるので、看護業務の効率化につながったと感じています。

 3つ目は、「輸液ポンプ警報対応時間の削減」です。ポンプを滴下制御型から流量制御型へ変更したことで滴下センサーがなくなり、「滴下警報」と「空液警報」がゼロになりました。警報の総件数も減少しているため、ナースステーションから患者の部屋に行き、警報対応して戻るまでの時間を3分とすると、約1,668時間、看護師1人分の年間労働時間を削減できた計算になります。

 4つ目は、「電子カルテ記録時間の削減と、感染拡大の防止」です。当院では、患者の電子カルテを開き、NFCリーダーを輸液ポンプにタッチすることで輸液ポンプを患者に割り当てることができ、さらに医師の注射オーダーと紐付けることもできます。これにより、投与する輸液ルート、薬剤、流量、積算量が電子カルテに反映され、記録時間が削減されました。

 また、輸液ポンプは中央管理室で管理しており、1台ごとに空き・貸出・使用・点検の状況を把握しているため、必要な部署に効率的に貸し出すことができるようになりました。この管理方法はバーコードさえあれば他の医療機器も同様に管理できるため、吸引器やネーザルハイフローなども同様の管理をしています。さらに、機器の使用履歴管理を行うことで、感染拡大の防止につながったと感じています。

 当院でのNFC通信機能付き医療機器の導入後、看護師から「未入力・誤入力・タイムラグがなくなった」という声が届いています。

記録の実態調査から見る現状

 術後のように状態変化しやすい患者には、正確なバイタルサインの情報や周辺データをもとに、フィジカルアセスメントや看護師としてのアセスメント能力を使いながら的確に記録を残し、必要なケアを迅速に判断して介入することが重要です。

 医師は患者から離れた場所で電子カルテを確認し、状態を把握しているため、バイタルサインや輸液投与の記録を正確に残すこともとても重要です。

 安全管理者の視点では、輸液ポンプやシリンジポンプ使用時に薬剤の投与結果が適切に記録されていることが理想です。しかし、安全管理者や看護管理者を対象にした実態調査によれば、多くの施設では記録のルールを策定し、徹底を図る努力をしているものの、まだ紙カルテを使う施設も多く、記録の負担感や重要性の理解不足が現場課題として挙げられています(図3)。当院も同様の課題を抱えていたため、業務負荷を軽減しながら、電子カルテに確実に記録する方法がないか、そしてあるべき理想的な看護業務に寄与する方法がないかを模索してきました。

電子カルテと輸液・シリンジポンプの連携によるメリット

 当院では通信連携により瞬時にバイタルサイン記録が反映されるため、医師同様に特定行為を行う看護師も離れた場所から患者状態を確認でき、リアルタイムに介入できるようになりました。このように当院の電子カルテの患者情報は、看護師のアセスメント技術と、通信連携を用いたバイタルサインの即時取得によって充実してきたと感じています。

 また、当院では、各勤務1回と設定変更時に通信連携を行って、輸液ポンプの流量や積算量を記録に反映させるというルールを決めています。それが電子カルテに反映され、in/outが可視化されたことにより、他のデータとともに水分バランスからの脱水評価、介入後の評価まで遠隔で実施できると評価を得ています(図4)。
 また、この取り組みにより、看護師の知らないタイミングで研修医が流量を変更していたことによる記録流量と実際の設定流量の差異を正しく把握することができた事例がありました。この事例から、記録に関する医師への教育不足が課題として挙がり、今後検討していく予定です。

 そのほか、新たに一部のシリンジポンプとの通信連携を構築し始め、特定行為を行う看護師から「人工呼吸器を装着中の患者の鎮静評価が遠隔で実施できる」と評価を得ています。

 これまでの通信連携の取り組みにより、看護業務の効率化が実現し、未入力・誤入力・タイムラグのインシデント削減により、看護ケアの時間を確保できました。また、タイムリーに正確なデータを把握できるようになり、医師との必要以上の連絡時間の削減につながっています。測定値・流量・積算量などの記録は、医療機器と電子カルテの連携により、看護師の記憶に頼ることなく、実際の測定時刻で認識できるようになりました。追跡事例にも対応できる安全管理上も有用なシステムとなっています。

 今後、麻酔管理システムとスマートポンプとの連携も予定しています。さらに、院内の全シリンジポンプをNFC通信機能を持つ機器に更新し、電子カルテ記録の充実、看護ケアの時間確保につなげることを見据えています。

 コロナ禍で病院の運営は大きく様変わりし、多くの看護師が離職していきました。そんな時代だからこそ、看護師が働きやすい職場環境をつくることはますます重要になってきます。システム連携を使い、看護師本来の業務である看護ケアの時間をつくり、看護師にとって働きやすい病院を目指します。そして患者にとって、良いケア・治療を受けられる病院をつくっていきたいと考えています。
※スマートポンプ=従来の輸液・シリンジポンプの機能に加え、ITシステムとの連携機能や、薬剤量の設定間違い防止に役立つ機能などを備えた輸液システム

参考文献
1)日本看護科学学会. 看護学学術用語検討委員会. n.d. JANSpedia-看護学を構成する重要な用語集-. 看護の質. https://scientific-nursing-terminology.org/terms/quality-of-nursing-care/(24.4.12閲覧)
2)塚越フミエ:日本における「看護の質」の概念.東京女子医科大学看護学部紀要,Vol.3,2000. P59
3)薄井坦子:何がなぜ看護の情報なのか.日本看護協会出版会,1992. P120
テルモ株式会社
広告主:テルモ株式会社
資材管理No. 24T156

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。


他の方が見ているコラム