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編集部取材レポート

患者さんのもつ力を見出し支援するがん看護

投稿日:2024.06.13

~がん研究会有明病院 清水看護部長
    × 岩崎学園 横浜実践看護専門学校看護学生 交流会~

がん研究会有明病院は、第九チャリティーコンサートを主催し、合唱団は6月30日(日)の本番に向けて練習を重ねています。団員は、がん患者さん、家族、医療従事者などで、練習運営のサポートには看護学生も協力しています。

将来看護師になる彼女たちは、病院以外でのリアルな患者さんと接して、学校や実習では得られないことを学びつつ、また「音楽の力」を実感し、参加者と想いを一つにコンサートの成功を目指しています。

このことに感銘を受けた、がん研究会有明病院の清水多嘉子副院長・看護部長と看護学生さんとの語らいの場が持たれました。


出席者:

清水多嘉子
がん研究会有明病院 看護部長(副院長)

看護学生 4名(2年、3年それぞれ2名)
(岩崎学園 横浜実践看護専門学校)

「患者の持つ力」を知った原体験

 最初に清水看護部長から看護学生への謝意が述べられると、学生からは、がん患者さんの明るい面を知り、逆に元気をもらっていることや、がんと闘うというのは患者さんの暮らしの一部であることに気づいたなど、合唱のお手伝いをしながら感じたことが述べられました。

 がん研看護部では看護師みなで議論して、「患者さんの持つ力を見いだし支援する看護」を、この4月1日から基本方針にすると決めたそうです。

 清水看護部長は、「がん患者さんはもちろん、そうでない患者さんも、弱くて助けを求めているだけの人ではなく、いろんな力を持っていることを今日はお話したい」と、ご自身の話しを始められました。
 「卒業して5年後、消化器外科病棟に異動となった時に仙骨部の褥瘡発生が多いことに気づきました。勉強に行った院外研修で講師は『本当に予防するにはウォーターベッドしかない』と言ったのです。そんな高価なベッドの購入は無理ですし、1つだけあっても意味がありません。それに代わるものはないかと考えたとき、縦長のソフトタイプの点滴バッグが目につきました。全身が覆われなくても褥瘡部分だけでいいのでは?と、薬液量を少し減らして枕カバーをかぶせて患者さんのお尻の下に入れてみると効果抜群。褥瘡も速やかに治癒し、予防効果も十分!!この点滴バッグが褥瘡を治すための環境を作り出している。そして患者さん自身に健康な細胞を維持したり、皮膚を回復させる力があることを知る原体験となりました」。
 次に心の持つ力については、骨盤部の腫瘍で広範囲切除による歩行障害や排泄機能障害が生じた患者さんへのがん研の看護が紹介されました。「術後、看護師はいろいろ介入を試みたのですが、患者さんはセルフケアに取り組む姿勢を見せません。ところが数週間たったある日のこと、『ずっと部屋にいるのは飽きた』と患者さん自身で車椅子を動かし廊下に出てこられたのです。自分で気分転換を図り活動を開始する準備段階を整えられました。そこから、どういうセルフケアならできるかの相談が始まり、まもなく患者さんはご自宅に帰られました。手術後、患者さんが回復していくプロセスには医学的に4つの時期があり、精神状態や活動性、筋肉量は順に回復していくので、早い時期に“これも、あれも”と介入しても、できなくて当たり前。まずは身体の回復が先行して進み、精神状態、気力などが回復して、自分で車椅子に乗って出てくる状況が起きたのだと、改めてこの事例から学びました」。

 患者さんの持つ力とは、不調や困難を乗り越えていくために心と体の回復力が最もよく働く状態に、患者さん自身が整える力。何がどうなる時に回復につながるのか、看護師は注意深く観察し、患者さんの回復する力を見いだして、生活を支援していくことが大切と清水看護部長が語りかけました。
 合唱団の練習を見てきた学生たちからは、「合唱で大きな声で歌うと、日々の疲れがふきとんでいく感じがして、心がすっきりしているのではないか」と、音楽が心と体によい作用をもたらしていると感じるとの感想が述べられました。「楽しい、嬉しいと思うと元気になってくるのにも、医学的な裏付けがあります。そういったことを学びながら実践との繰り返しを重ねることで、より看護が面白くなりますよ」との清水看護部長のアドバイスを、学生たちはうなずきながら聞いていました。

失敗は宝物
失敗して得ることは大きい

 初めは緊張して、ぽつぽつと発言していた学生たちも、この機会に清水看護部長に聞いてほしいと、がんになった祖父や祖母にどう言葉をかけたらいいのか?この方法なら大丈夫と思った関わり方でも、日によって拒否される…など、日頃から考え悩んでいることを問いかけました。
 清水看護部長は個々の悩みに答えつつ、「その人の中にワープして、今どういう状態でどうしたいだろうかとその人の目線で考えることが、“寄り添う”ということ。ただ、正解がないので結構失敗もします。でも、なぜ失敗をしたか考えることは自分の知識と技になっていくので、うまくいかないことは宝物。失敗の数だけ、看護師として成熟していくのです。私自身もまだまだ失敗して、困ることも悩むことも、初めて考えることもたくさんあります。でも、それが楽しい。次の技を生み出せる宝物ですから、いっぱい失敗してください」と学生を励まされました。

人の持つ力を引き出す音楽の力

 最後に、どのように音楽で勇気づけられたか、あるいは楽しんだかについて、学生一人ひとりの経験が語られました。

「テストの結果が悪く落ち込んだまま、第九の練習に参加した時、皆さんの歌を聴いていたら、心が熱くなりリフレッシュできました」

「中学生のときに全校合唱の指揮をして、みんなの声が私に向かってくるのを聞いたときに感動して泣いてしまった経験があります。みんなで1つのものを作るのは素敵な時間です」

「小学3年生のときに祖母に連れられて初めてミュージカルを観たんです。それから音楽と触れ合うようになり、すごく人生が華やかになりました。音楽には一歩踏み出してみようと、心を動かす力があると感じました」

「不登校になった時、自分を後押ししてくれる曲を聴き、前向きになれました」

口々に語られた経験は、まさにそれぞれが持つ力を引き出す「音楽の力」でした。
(2024年4月12日取材)

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