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菊谷 武先生の摂食・嚥下障害者ケアコラム第3回

第3回 患者の声を聞く 

口腔の働きはご存知のとおり、食べること、しゃべること、そして息をすることと言った人としてなくてはならない機能が満載です。今月のコラムからしばらくは、食べることにまつわる口腔機能の評価方法についてお話しします。


1.患者の声を聞くここでいう“患者の声を聞く”とは、患者の訴えに傾聴するということを述べているわけではありません。患者の“声の質”に耳を傾けるということです。


発声発語のための構音器官は紛れもない咀嚼器官であり嚥下器官でもあります。すなわち、声を評価することは、患者の咀嚼機能や嚥下機能の評価、診断をするための有効な手掛かりになります。

1)「いいなまし??」―鼻咽腔閉鎖機能不全に伴う声の異常―

いいなましの駅前にある日本歯科ないなくに通っています。」こんな声が聞こえたら、鼻咽腔閉鎖機能の不全を疑います。

ここでいう、鼻咽腔閉鎖機能とはなんのことでしょう?私たちは、息をする際には、外部より取り入れた空気を鼻腔から咽頭そして気管、肺に取り込みます。


この際には、鼻腔と咽頭が一つの管としてつながる必要があります。ここで、のどの奥にある軟口蓋と呼ばれる弁(俗に“ノドチンコ”ともいいます)を下方に位置させ、この管を完成させます。


一方、声を出す時は、声帯で発生させた声を舌や口唇など音を加工する器官(構音器官という)のある口に導きます。


その際には、この軟口蓋は上方に位置(挙上)し鼻咽腔を閉鎖し、声帯(気管)、咽頭、口腔といったしゃべるための道を作ります(図1−1)。
(図1-1)


また、食べるときには、食べ物の道である口腔、咽頭、食道といった道を作る必要があります。ここでは、軟口蓋は上方に位置(挙上)し鼻咽腔を閉鎖します。


鼻咽腔を閉鎖することで、呼吸は停止し咽頭腔は嚥下のために利用されることになります。これにより口腔および咽頭腔を鼻腔と分離し食塊の鼻腔への逆流を防ぎます(図1−2)。
(図1-2)


一方、咀嚼時には軟口蓋は下方位をとり舌の後方と接する(舌口蓋閉鎖)。これにより、咀嚼中の食塊の咽頭への流入量をコントロールすることになります(図2)。
(図2)


発声時に、軟口蓋の挙上が十分でない(鼻咽腔閉鎖不全)と呼気が鼻腔に漏出するために、本来、鼻腔に共鳴しない母音や子音の非通鼻音は鼻音化し、鼻にかかったような声開放性鼻声(hypernasality:開鼻声)となります。


特に、「バ、ビ、ブ、ベ、ボ」(/b/)、「パ、ピ、プ、ぺ、ポ」(/p/)は、/m/「マ、ミ、ム、メ、モ」に近い音に歪みます。さらに、「ダ、デ、ド」(/d/)、「タ、テ、ト」(/t/)が「ナ、ネ、ノ」(/n/)に近い音に歪みます。


鼻咽腔閉鎖不全があると。食事の際などは、特に水分などが鼻腔に回るなどの症状が出現します。


やや下むきに水を飲むと、鼻腔からの漏れは著しくなります。お茶や汁物などの水様物は、特に流動性、拡散性が良いことから、鼻腔逆流しやすい食品です。


食事の際に、くしゃみをしたり、鼻汁が漏出するなども鼻咽腔閉鎖不全を疑う所見となります。


患者の鼻咽腔閉鎖不全を疑ったとき、私が勤務する“飯田橋の日本歯科大学”と患者に発音させれば、「だ」および「ば」が鼻音化し、それぞれ「な」「ま」となるために「いいなましのにほんしかないなく」と聞こえてきます(図3)。
(図3)


図の説明
(図1)嚥下時と発声時に見られる鼻咽腔閉鎖
(図2)咀嚼中に軟口蓋は下方位をとり、咽頭への流入量を調節する
(図3)「いいなまし」鼻咽腔閉鎖不全による音の歪み

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