もっと知りたい!栄養のチカラ
高齢経管栄養患者の排便ケア
~カギを握る栄養からのアプローチ~
投稿日:2024.05.30
経口摂取が難しく経管栄養管理が行われている高齢患者さんの排便ケアは、どちらかというと下痢の悩みが多いようですが、それが便秘対策の緩下剤による悪循環であることも。
今回、経管栄養患者さんの排便の負担や苦痛を軽減させるための工夫について、全病棟に管理栄養士の常駐を実現させた東京医科大学病院栄養管理科科長の宮澤靖先生にお伺いしました。
今回、経管栄養患者さんの排便の負担や苦痛を軽減させるための工夫について、全病棟に管理栄養士の常駐を実現させた東京医科大学病院栄養管理科科長の宮澤靖先生にお伺いしました。
※本稿では、医薬品扱いの経腸栄養剤と食品扱いの濃厚流動食を経腸栄養剤と表記しています。
東京医科大学病院栄養管理科科長
宮澤 靖 先生
宮澤 靖 先生
下痢は多いが便秘傾向も
当院でも全体の患者さんの20%くらいは便秘傾向の印象です。意思疎通のできない方がほとんどではありますが、おそらく苦痛を感じておられるだろうことは病棟でのラウンドを通して感じますね。排便が見られないと、便が出るまで下剤を使うという「チカラわざ」は、いまだに多くの医療・介護現場で行われていますが、過剰投与から便秘・下剤の悪循環になりがちですので、薬剤に頼りすぎない自然排便を当院でも心掛けています。
経管栄養患者さんの便秘のおもな要因を図1に示します。当院のような急性期病院では、高齢者の緊急入院の原因に多いのが肺炎や骨折です。救命や治療のために、絶食や安静を余儀なくされることも少なくありません。そこは止めることはできませんから、腸を動かし蠕動運動を活発化させるいわゆる「腸活」が重要になってくるのです。
図1:経管栄養患者のおもな便秘の要因(当院の場合)
絶食の影響
・便の材料がない、便通に良い食品が摂れない
・腸管機能が低下し蠕動運動が弱い
・水分不足による便の硬化
・便の材料がない、便通に良い食品が摂れない
・腸管機能が低下し蠕動運動が弱い
・水分不足による便の硬化
安静によるサルコペニア(筋肉減弱症)の進行
・腹圧が弱く便を押し出せない
・腹圧が弱く便を押し出せない
薬剤の影響
・副作用による便秘、抗生物質による腸内細菌叢の乱れなど
・副作用による便秘、抗生物質による腸内細菌叢の乱れなど
セカンドラインは乳酸菌
当院では現在、便秘の患者さんには食物繊維配合の経腸栄養剤を選択しています。排便の状況を見ながらさらに食物繊維を追加することもあります。食物繊維による腸内細菌叢の改善、プレバイオティクスがファーストラインです。セカンドラインとして考えているのはプロバイオティクス、乳酸菌の活用です。食物繊維+乳酸菌で腸内環境を整え有用菌を増やして腸管を刺激し、蠕動運動を促そうということです。腸内細菌には有用菌と有害菌と日和見菌がありますが、65歳を過ぎるころからウェルシュ菌や大腸菌などの有害菌が増え、ビフィズス菌のような有用菌が減ってきます。高齢の経管栄養患者さんは経腸栄養開始前からすでに有害菌が増えているような状態と考えられるため、なるべく早い段階で腸内環境を整えることが大切です。
働けない人への排便習慣サポート
便秘を予防し自然排便を促すには、決まった時間にトイレにいく習慣づけも大切です。当院では、便秘の患者さんへのトイレ(排便)習慣は、まず栄養科で対応しました。朝の栄養剤投与終了30分後くらいに私たちがベッド再度に伺い、蠕動音の聴診、前日の腹部レントゲン写真などで便の位置を確認します。そして15~20分ほどお腹を温めたりマッサージをしたりするのを毎日続けることが、動けない方への習慣づけになるのです。
当初はカンファレンス中に抜けるのが難しい看護師さんの代わりに私たちが行っていたのですが、便秘が解消されずに下剤を使用して下痢便になってしまった場合には処置に人手が必要ですし、放置されるとスキントラブルにもつながるという看護の支店があります。今では看護師さんの皆さんも効果を実感され、交代でマッサージを行うことが定着してきました。
経管栄養の方は、便秘で下部消化管が詰まってしまうと栄養剤の逆流やそれに伴う逆流誤嚥性肺炎のリスクが高まります。その点も踏まえ、一定の基準を決めて排便コントロールをするという認識も必要だと思います。
看護師の皆さんが本来の看護業務に集中していただくために、どの栄養剤に植物繊維や乳酸菌を1日にどのくらい追加するかというプログラミングは、私たち管理栄養士を活用して下さい。長期に同一の栄養剤を使用する際の注意点もありますので、お互いの専門性を持ち寄って患者さんの全身状態の改善につなげたいですね。
チームで取り組む排便ケア
先日、脳梗塞を発症された高齢男性患者さんが搬送され、多職種による院内のNST(栄養サポートチーム)で対応しました(図2)。当院搬送時は下痢が頻発していましたが、栄養からのアプローチ(シンバイオティクス)で、良好な便性状での自然排便を維持した状態で転院となりました。
栄養管理は苦手、という看護師の方もいらっしゃいますが、NST専門療法士の資格を取るために、私が近森病院(高知県)に勤務していたときに研修を受けに来ていた熱心な看護師さんがいます。ナースマガジン読者の皆さんに、彼女からのメッセージをお届けします。
「多職種連携といいますが、私はNSTで初めてそれを実感しました。医師、管理栄養士、セラピスト、薬剤師、看護師などそれぞれの知識と経験を活かし、専門性を融合させて一人の患者さんに向かいます。チーム医療を学び、互いに相談しアドバイスしていただくことで、私自身の知識の拡大にもつながりました。そして、何よりも他の職種のスタッフを尊敬するようになりました。尊敬の気持ちをもって接すると、よりよい関係を築くことができ、成果も向上すると思います。多職種が意見を出し合ったり勉強会をしたり、お互いを刺激し合うことでそれぞれの専門性を高め合い、栄養を大切だと考える看護師が増えたら嬉しいですね」。
きたじま田岡病院 看護部
NST専門療法士 藤原絵理さん
NST専門療法士 藤原絵理さん
それぞれの職種が持つ情報を共有して、患者さんのために活かしていきましょう!
(2024年3月1日取材)
(2024年3月1日取材)
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