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めぐみが行く! Vol.4

医療的ケア児の「学び」と「自立」を支える

投稿日:2024.04.11

目まぐるしく変化する医療・社会の中で、看護の本質に触れるような、そんなコーナーにしたいと思っています。
休憩室で帰りの電車の中で是非「めぐみが行く」を広げてみてください。

今回の記事について村松恵から動画メッセージ

学校看護師のミッションとは

近年、医療的ケア児は特別支援学校のみならず地域の小中学校などへの通学者数も増加傾向にあります。「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(令和3年9月施行)に基づき、国や地方公共団体なども教育体制の拡充と本人の自立支援を見据え、学校看護師の配置に取り組んでいます。今号では、地域の小・中学校などへの学校看護師配置普及のために活動している一般社団法人MEPL(メープル)の創設者で代表理事の木内昌子さんに、医療的ケア児の支援の在り方について、お話を伺いました。(文中敬称略)

朝倉之基 先 生
木内昌子 先生
看護師(居宅介護支援専門員、相談支援専門員)。重度障害を持った長男の子育てを通して、医療的ケア児らが社会での居場所を欲しがっていることを痛感。都立東部療育センター、小児に特化した訪問看護ステーション、診療所での勤務を経て、入所、通所、在宅それぞれの現場での医療的ケア児や重症心身障害児・者の就学や自立への壁にぶち当たる。「たくさん助けてもらわなきゃいけない身だからこそ、地域とのつながりを断ち切りたくない。近くの学校で地域の人たちと友達になって、災害の時も近所の人が助けてくれる、そういうのが当たり前になればいいなぁ」。

学校の選択肢が狭められないように

村松:
 木内さんが一般社団法人MEPLを立ち上げに至るまで、どのような経験や社会的な背景があったのですか?
木内:
 私の長男は、医療的ケアはなかったですが重度障害があったので、当時は地域の学校には行かれず、17歳まで特別支援学校に通いました。学校が大好きでしたね。

 長男が亡くなった後、看護師として現場復帰し、療育センターの通所では、どんなに重い障害を抱えていても、“学校に行く”というリズムを作ることで子どもたちが元気になっていくのを見てきました。訪問看護ステーションでは、がんの進行に伴い今までの学校に通えなくなってしまったお子さんが、それでも学校に行きたい、という思いを特別支援学校でかなえざるを得ない現実があり、彼らが「学校に行きたい」と願っていることへの高い壁を感じ、本人の希望よりも優先される「安全」ってなんだろう、と深く考えるようになりました。

 平成28年度予算の中に、医療的ケアのための看護師配置事業(インクルーシブ教育システム推進事業費補助)が設けられ、今まで特別支援学校対象だった看護師配置補助を、小・中学校などにも追加し看護師の拡充を図る、ということになったのです。それを受け、東京都港区の教育委員会が「医療的ケア児を地域の学校に受け入れることを断らない」との方針を打ち出し、時代が変わっていく流れを背景に、私たちにできることを考えてMEPLの設立に行きついたのです。学校看護師配置の委託を受け、各地の学校などに訪問しています。


学校看護師としての心構え

村松:
 医療的ケアというと、人工呼吸器、気管切開、胃瘻、導尿、インスリン注射などが必要な子どもたちですよね?
木内:
 そうです。学校生活の中でその子に必要な医療的ケアを実施することはもちろんのこと、将来を見据え、本人がどうやったらそのケアを出来るようになるかという相談を本人や担任の先生から受け、一緒に考える役割もあります。教育委員会の方が医療的ケア児のことをご存じない場合があるので、教育委員会-学校-本人と家族を橋渡しするような役割も担っています。
村松:
 医療現場でしか活動してきていない看護師が教育現場で活動する上で、どんなことに気をつけているのですか。
木内:
 ここは病院ではなく「教育現場なのだ」ということを常に念頭において学校での活動をしていますから、学校の教育方針に沿うことが大前提です。学校という集団生活での人間関係の構築や、その学年に合わせた勉強内容など、学校でしか学べない・経験できないことを医療的ケア児もしっかりと受けられるように、黒子のような存在で学校では立ち振る舞いを考えていますね。

 医療的ケア児本人や家族は、今までの経験から、自分たちの相談事は看護師に相談することが多く、学校でも困ったら看護師に相談しがちなのですが、そこは学校の先生と子ども・保護者という関係性の中で看護師が出しゃばらないよう、気を付けています。
ケアのスケジュール・内容は生活の場に合わせて変えていこう!


医療的ケア児の自立を支える看護を

村松:
 学校看護師のミッションとして掲げていることは何ですか?
木内:
 医療者として処置を適切に行うことは当然ですが、ケアに関しては、ポイントを押さえた方法を熟知している家族が一番上手です。それと同じレベルのことを医療的ケア児に提供することだけが、学校看護師の役割とは考えていません。大事なことは「生きるを支える」ことを基盤にして「自立を支える」「社会の中に溶け込むことを助ける」ということですね。親が亡くなった後は、誰かのお世話になって生きていくわけですが、その中で自分が助けてほしいことを伝えられる、いろいろな人に関わってもらって生きていく、それが「自立」だと思います。「医療的ケア児だから」と「安全」という名のもとに可能性をつぶすのではなく、誰もが制限を受けずに安全に生活できるよう、子どもと家族、学校関係者と一緒に、時には見守り、時には相談に乗りながら伴走しています。そういうことを理解・実施できる看護師を、もっと育てていかなくてはと思っています。
医療的ケア児の自立ってなんだろう?

村松:
 医療的ケア児の自立を支える学校看護師の存在を広く知っていただきたいですね。本日はありがとうございました。

今回の取材先

般社団法人 MEPL(メープル)
M medical
E education
P partnership
L liaison
医療的ケアや障害のある子どもたちと、その子どもたちを支える人々の選択肢が広がる社会、支援者が自らの中に限界を作らないことを目指し設立された。それぞれの職種で仕事を分断せず、少しずつ重なる部分(のりしろ)を作り、依存せず、協力し学びあい育ちあう環境づくりを目指している。学校配置と登録看護師は合わせて32名。2023年8月現在、27名が26カ所で活躍している。

委託・派遣・訪問看護・区職員(会計年度など)・学校雇用など看護師の配置方法にはそれぞれにメリット、デメリットがあり、思考錯誤中とのこと。
入学式と集団登校の様子

村松 恵
看護師歴26年。小児看護に携わる中で皮膚・排泄ケア認定看護師となり、小児専門病院で15年の看護経験。その後在宅にフィールドを移し、小児から高齢者まで幅広い経験を持つ。
私生活では医療的ケア児(小学5年)の母でもある。新潟県十日町市出身。
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