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ナスマガ編集部が聞いてきました!

エアロゾル感染と換気の見直し

投稿日:2024.03.22

COVID-19(1)のパンデミック下で注目された「エアロゾル感染」。多くの施設が設備や対策の見直しを行ったのではないでしょうか。

現在、皆さんの施設ではどのような対策が継続されていますか?5類移行後から約1年経つ今、再検討する良い機会かもしれません。

ナースマガジン編集部では、感染対策の専門家である坂本史衣先生に、感染対策の基本とエアロゾル感染についてあらためてお伺いしました。

COVID-19で注目された「エアロゾル感染」

 「エアロゾル感染」の定義は定まっていませんが、一般的には人が滞在する閉鎖空間で、微細な液体や固体の粒子であるエアロゾルを吸い込むことによって、エアロゾルに含まれるウイルスや細菌などの病原体に感染する様式(感染経路)を指します。エアロゾルは、会話や呼吸の際に発生しますが、咳、くしゃみ、大声や、エアロゾル産生手技と呼ばれる吸引や胸骨圧迫などの医療行為の際に産生量が増えます。そして、換気不良の空間ではエアロゾルが滞留しやすく、感染のリスクが高まります。
 こうした環境で、エアロゾルの吸入によって起きたと考えられるCOVID‒19感染事例がこれまで多数報告されており、現在では、エアロゾル感染がCOVID‒19の主要な感染経路だと考えられています。エアロゾル感染は、麻疹や結核のように、長時間・長距離を浮遊する感染性エアロゾルの吸入によっておこる従来の「空気感染」とは異なります。そのため、空気感染と区別するできるよう、エアロゾル感染という言葉が使われるようになりました。
 エアロゾル感染を防ぐ主な対策には、良好な換気を維持することや、混雑した閉鎖空間ではマスクを着用することがあります。COVID‒19の感染経路には「飛沫感染」もあります。「飛沫感染」は、咳やくしゃみ、会話などの際に口や鼻から出る、水分を多く含んだ重い粒子が直接飛んで、人の目や鼻などの粘膜に接触することで起こる感染です。


 インフルエンザや風疹も飛沫感染を起こします。「接触感染」は、感染者との接触や汚染された物品や環境表面との接触によって病原体が伝播する経路です。COVID-19の主要な感染経路ではありませんが、CRE(2)やVRE(3)などの薬剤耐性菌は接触感染するため、医療現場では重要な感染経路です。

(1)COVID-19
Coronavirus Disease 2019 新型コロナウイルス感染症
(2)CRE
Carbapenem-resistant Enterobacterales
カルパペネム耐性腸内細菌目細菌
(3)VRE
Vancomycin-resistant Enterococci
バンコマイシン耐性腸球菌

感染対策の基本は「標準予防策」

 COVID-19の流行を機にエアロゾル感染対策が注目されていますが、医療現場での感染予防には「標準予防策」が不可欠です。これは、感染症の検査や診断の有無にかかわらず、すべての患者の血液・体液、創傷・粘膜には感染性があると考えて、手指衛生や個人防護具の活用により、人と環境が病原体に曝露するのを防ぐ基本的な対策です。
 全ての患者について、感染性の有無をタイムリーに把握するのは不可能です。標準予防策はまだわかっていない感染症から医療従事者と患者を守る最初の防波堤です。

医療施設における機械換気の評価と改善

 COVID-19の流行をきっかけに換気の重要性が再認識されています。換気には「自然換気」と「機械換気」の2つがあります。病院では、機械換気を行います。窓を開けて行う自然換気は、室圧のバランスが崩れてしまうので、推奨されていません。
 病院で行う機械換気には中央制御によるセントラル空調方式と、部屋ごとに利用者がスイッチを入れることで作動する個別空調方式があります。
 感染対策の担当者は施設部門の協力を得て、換気設備が設定通りに機能していること、どのような内容の点検がいつ行われたのか、また必要な清掃や補修が実施されたのか確認しておくとよいでしょう。
 各現場の看護スタッフも、自身が利用する空間の換気がどのように行われているのかを把握しておくことをお勧めします。
 換気の状態が気になる場所や人が多く集まる場所では、二酸化炭素濃度を測定してみるのも推奨されます。
 良好な換気の目安として1,000ppm以下という基準値が示されています。測定器は光学式で校正機能のあるものを選択することが望ましいです。

空気清浄機は、他の対策と組み合わせて活用

 空気清浄機は機械換気に代わるものではありませんが、適切に使えば、空気中の感染性エアロゾル濃度を低下させることができます。
 機能としては、中性能(MERV 14, F8 または ISO ePM1 70-80%)か高性能(HEPA)の集塵フィルターが搭載され、ろ過風量が300㎥/時(=5㎥/分)以上が推奨されています。
 この推奨風量を得るには、手動モードで強運転をしなければならない機種が多いので、その際生じる騒音についても確認したうえで、採用する製品を決めるとよいでしょう。
 設置するときは、空気取入口を人がいる方に向けます。また、窓や換気孔のそばはなるべく避けるようにします。空気清浄機にはプレフィルターと集塵フィルターの二種類が使われています。プレフィルターはゴミや埃で詰まりやすいので、数週間から1か月に1回程度の清掃または交換が必要です。集塵フィルターの交換頻度は製造元の推奨を参考にして決めます。フィルターにアルコールやその他の消毒薬を吹きかけると集塵機能が低下するため、推奨されません。
 空気清浄機を活用できる場所の例として、COVID‒19やインフルエンザ流行期の待合室やスタッフエリア、これらの感染症の患者が利用する診察室、検査室や病室が挙げられます。ただし、空気清浄機だけでエアロゾル感染を防ぐことは難しいため、マスク着用や混雑の緩和といった他の対策と組み合わせて使用することが重要です。
2024年1月16日取材

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