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めぐみが行く! Vol.3

糖尿病がある患者さんの心をつかむ生活支援

目まぐるしく変化する医療・社会の中で、看護の本質に触れるような、そんなコーナーにしたいと思っています。
休憩室で帰りの電車の中で是非「めぐみが行く」を広げてみてください。

今回の記事について村松恵から動画メッセージ

ありきたりな指導から抜け出そう

糖尿病の診断後、治療の一環として行われる食事や運動についての指導は、在宅という医療者の目の届かないところでもいかに継続していけるかがポイントです。
今号では、Five Star訪問看護・栄養管理Stationの管理者・看護師の朝倉之基先生に、日々の生活の中で取り組む糖尿病ケアのヒントをお聞きしました。(文中敬称略)

朝倉之基 先 生
朝倉之基 先生
必要な人に必要な医療や介護を提供できる体制を構築し、専門的な視点から地域の人たちへ日常生活や栄養の援助を行っていきたい、個々の生活に合わせた看護をしていきたいという想いで2021年4月に訪問看護・栄養管理ステーションを立ち上げた。訪問看護に関わっていない方に
もアプローチできるよう地域づくりを目指して日々ケアを提供している。

病院と在宅 ―役割の違い ―

村松:
 訪問看護は病院とは異なる役割があると思いますが、 患者 ・ 家族との信頼関係を築くために、 どのようなことに気をつけたらよいでしょうか。
朝倉:
 病院は治療が目的ですから血糖管理も含め、 治療計画に沿った看護ケアが行われます。 一 方、 在宅では 「管理するのではない」 という違いを念頭におく必要があります。 まずは 「生活の場に自分たち看護師が入らせてもらっている」 という認識の下、 その人の生活と状態を細かく観察することが基本だと思っています。

 「のどが渇いた」 と言われ高血糖の状態であると判断したとき、 「糖尿病だから〇〇してはダメ」 ではなく、「血糖が高い状態なので、食べるものの種類を 一緒に考えていきましょう」 といった提案を心掛けています。 糖尿病に対する万人向けのマニ ュ アルというものはないので、 個々の生活と糖尿病ケアの両面を支援していくことがベースになります。 なので、 その人の生活にどのくらい糖尿病ケアに関する意識を落とし込めるかが、 血糖管理に影響を与えます。 そのため 「生活習慣の見直し」 というくくりでお話していかないと、 本人には響きません。

 生活習慣を劇的に改善していくことは、 そう簡単なことではありません。 だからこそ急変への適切な対応も、 在宅スタッフに求められる要素といえるでしょう。

「制限」 ではなく
「必要栄養量の確保」 を意識した食事の見直しを

村松:
 糖尿病のセルフケアでは、 食事内容の見直しが重視されますが、 なかなか守れない方も多いのではないでしょうか。 継続して取り組みやすい食事指導のポイントはどのようなことでしょうか。
朝倉:
 当ステーションの利用者は60名ほどで、 多くの方が糖尿病の治療薬を内服しています。 この方たちの中には、 食事の見直し以前に、 もっとバランスよい食事を摂って欲しいと思う方が多くいらっしゃいます。 糖尿病の方の栄養摂取のポイントは 「低糖質 ・ 高たんぱく ・ 高エネルギー」 です。 カロリー制限だけが特に注目されているように感じますが、 その人に必要なエネルギー量はしっかりと確保することが大切です。
村松:
 何か具体的な工夫がありますか。
 高齢者にとっての食事は、 「食を楽しむ」「口腔機能を保つ」 「嚥下機能を保つ」 という大切な役割があります。 しかし、 環境の変化や機能の低下などで食事量が減ってくることを見越して、 「好きなものを食べて良い」 ということを基本に、 全身状態悪化の引き金となる低栄養に陥らないよう注意しています。 食べる量が減ることで不足する栄養素やエネルギーを補うためには、 栄養補助食品も上手に活用していくことが必要だと思います。
 高齢者にとっての食事は、 「食を楽しむ」「口腔機能を保つ」 「嚥下機能を保つ」 という大切な役割があります。 しかし、 環境の変化や機能の低下などで食事量が減ってくることを見越して、 「好きなものを食べて良い」 ということを基本に、 全身状態悪化の引き金となる低栄養に陥らないよう注意しています。 食べる量が減ることで不足する栄養素やエネルギーを補うためには、 栄養補助食品も上手に活用していくことが必要だと思います。

日常に落とし込む提案とアセスメント

村松:
 栄養療法と共に運動療法も必要ですね。
朝倉:
 運動は 「ふくらはぎ」 がポイントです。ふくらはぎを動かすことで下肢還流を促し、心不全の方の呼吸困難感の軽減に良いことが知られています。 糖尿病の方も日常的に運動をするよう指導されると思いますが、 ふくらはぎを動かして筋力を鍛える運動を私もおすすめしています。 また、 筋肉はインスリンの調節にも役立ちます。

 立つときに少し踵を上げて立ってみるとか、 できるだけ階段を使うように心掛けるとか、 そんな普段の生活に取り入れることが大切になってきます。 例えば階段を使って踏み台昇降の運動をしたり、 お住まいがマンションであれば1階分だけエレベーターではなく階段を使ってみたり、 その人やお住まいの状況に合わせて提案をしています。
 アセスメントをする際も、 足から診ていくと日常生活で注意すべきポイントが見えてきます。 歩けるかどうか、 歩くための筋力が衰えていないか。 衰えていたら、 栄養が摂れているか。 十分摂れていなかったら、 口腔内の状態は食べることに障害がないか、 などをチェックしていきます。 生活の中から運動につながらない要因を見つけ、 その方に合った在宅での過ごし方につなげていくのです。 これは糖尿病に限らず、 訪問看護の利用者全員に、 実施して欲しいと思います。
村松:
 生活の場である在宅での糖尿病ケアだからこそ、 ご自身の生活を振り返り、 入院せずセルフケアを続けて欲しい、 と看護師は思ってしまいがちですが・・・。
朝倉:
 そんな皆さんの思いとは裏腹に、 生活や食事内容を変えられない方も多いのではないでしょうか。 その結果、 血糖値が極端に高くなった場合などは、 短期入院で血糖管理を行い合併症予防が必要です。 このような入院治療も視野に入れ、「〇〇を守らなかったから入院になってしまった」 ではなく、 「早く治して帰ってきて欲しい。 在宅の態勢は整えておくから」という心構えでいて欲しいですね。
村松:
 入院、 在宅という 「点」 でとらえるのではなく、 その人の人生という長いタームを前提にサポートしていきたいと思います。

今回の取材先

Five Star訪問看護・栄養管理ステーション
ナンバーワン、オンリーワン、プラスワン、プレシャスワン、オールフォーワンの5つの星のサービスを掲げ、地域に必要とされ、患者に寄り添ったサービスを提供できるよう24時間の訪問看護・栄養管理を行っている。栄養管理に特化した訪問看護ステーションとしては水分管理に着目し、たんぱく質・エネルギー量を個別に評価する在宅栄養管理を実践。さらに「フットメンテナンス」を提供し、歩き続けられる足づくりを目標としている。

村松 恵
看護師歴26年。小児看護に携わる中で皮膚・排泄ケア認定看護師となり、小児専門病院で15年の看護経験。その後在宅にフィールドを移し、小児から高齢者まで幅広い経験を持つ。
私生活では医療的ケア児(小学5年)の母でもある。新潟県十日町市出身。
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