聴きある記:
NP「第2の波」が変える 病院経営・地域医療の未来
ーナースプラクティショナーの経済効果と導入の最前線ー
投稿日:2024.01.24
会 期:2023年11月25日
会 場:TKP東京駅カンファレンスセンター(オンライン同時開催)
会 長:鈴木美穂(慶應義塾大学看護医療学部 教授)
テーマ:ナースプラクティショナーの経済効果と導入の最前線
会 場:TKP東京駅カンファレンスセンター(オンライン同時開催)
会 長:鈴木美穂(慶應義塾大学看護医療学部 教授)
テーマ:ナースプラクティショナーの経済効果と導入の最前線
2005年から議論が始まったナースプラクティショナー(以下NP)は、今その議論の「第2の波」の只中にあるという。医師の働き方改革や超高齢社会にあって、今後の地域医療を担う人材として注目をあつめるNPについて、医療従事者だけでなく関心のある市民にも参加を呼びかけ、最新の経済調査と事例からその可能性を探った。
日本のNPの可能性
「医療の翻訳家」として活動する市川衛氏が登壇し、NPの本田和也氏と共に日本におけるNPの歴史をひもといた。日本でのNPの議論は、医療の高度化・複雑化によって医師と看護師の間に立つ「より高度な専門性を備えた看護師」の存在が必要であるとされた「第1の波」から始まった。現在は、少子高齢化・地域の過疎化により地域医療を担うプライマリケアを提供できる存在として、NPという新たな役割が求められる「第2の波」へと議論が移ってきていると推察した。本田氏は「広く社会にその役割や存在価値を示していく時に、この歴史を理解した上で進めていくことが重要だ」と述べた。
【第一部】
急性期から在宅医療までのNPの経済的効果研究の成果
NPフォーカス・グループ・インタビュー報告
原田奈穂子氏(岡山大学医学部保健学科教授)
原田氏は、NP(2023年12月現在753人)がどのような場所で活躍し、どのように組織に働きかけ困難を感じているのかを明らかにするために実施した調査結果を発表した。
アンケート調査に協力した人(平均年齢42.5歳、女性66%、男子34%)のうち約9割の人がNPの免許取得後病院等に雇用されており、約8割の人が仕事に満足している一方、給与への満足度は高くない状況にあることが明らかになった。NPを臨床に配置することの阻害要因として、資格や診療報酬という構造的な問題と所属組織の管理者や政治家からの認識の低さがあることが示された。
一方、NP数の増加や臨床での活躍の場が増えていることの促進要因として、さまざまなステークホルダーからの認知度が高いことがあると考えられるとした。調査を受けて「NPという新しい役割に対して、所属組織や国民からの認識の程度はNPの仕事の満足度に影響を及ぼすのではないか」と推察した。
論文URL:https://doi.org/10.1111/inr.12790
論文URL:https://doi.org/10.1111/inr.12790
循環器専門病院での調査報告
鈴木美穂氏(慶應義塾大学看護医療学部教授)
鈴木氏は、都内にある循環器専門病院2施設におけるNP採用前後の医療アウトカムについて発表した。
NPの採用により治療開始までの時間短縮化や合併症の発症予防等のアウトカムが期待されたが、この4年間で新しい治療法の確立や、病態の複雑化などの変化があり、採用「前」「後」で比較することが難しい状況にあったと説明した。
調査結果からNPの採用により合併症などの発症はなく医療安全は保たれており、今後手術時間の短縮化や医療費の抑制、医療の質の維持に貢献することが期待された。医師の働き方改革や超高齢社会の情勢を踏まえると、NPを採用することのメリットは大きいと今後の展望を示した。
調査結果からNPの採用により合併症などの発症はなく医療安全は保たれており、今後手術時間の短縮化や医療費の抑制、医療の質の維持に貢献することが期待された。医師の働き方改革や超高齢社会の情勢を踏まえると、NPを採用することのメリットは大きいと今後の展望を示した。
特別養護老人ホームでNPが従事する役割と経済的効果に関する後方視的調査
香田将英氏(岡山大学地域医療共育推進オフィス特任准教授)
特養は社会において需要が高まる一方、常勤医不在の施設が多く、看護・介護職がケアの中心となっており、入所者に状態変化が生じた時の早期介入が課題となっている。NP配置前後で入所者の要介護は上がったが、年間の緊急受診回数は優位に減ったという研究結果から、NPは入所者の状態を見極め総合的な判断力と意思決定を持った人であると捉えられる。しかし、そのような役割や効果について社会への周知が十分ではないことから、今後の継続研究が必要だと話した。
論文URL:http://doi.org/10.1016/j.nurpra.2023.104845
論文URL:http://doi.org/10.1016/j.nurpra.2023.104845
【第二部】
2人のNPから独立部門になるまで 愛知医科大学NP部設立までの7年間の軌跡
森 一直氏(愛知医科大学病院 NP部診療看護師(NP))
NPはどう病院に貢献しているのかが見えてこない。そんな疑問を解決すべく、森氏が自身のNPとしての歩みと組織の成長について、2014年の「準備期」から2021年の「チャンス期」までの時期別にその活動を振り返った。
NPが何者なのかが院内に浸透していない中で、2人で始まった活動に対して逆風が吹くこともあったが、看護部長や当時所属していた麻酔科の医師との粘り強いコミュニケーションや、味方の獲得、いつ訪れるかわからないチャンスに対応できるように知識やスキルの向上などに努めたことが成果につながったと話した。
森氏はこれまでの活動から得られた「NPの組織定着のための7つのエッセンス」を示した。
①ステークスホルダーとのていねいな意見交換
②初めの一歩を踏み出す力
③周囲への説明責任とコミュニケーション
④かゆいところを見極める判断
⑤チャンスを逃さないために組織ニードを理解
⑥NPとしてステップアップを考慮
⑦看護部とのパートナーシップ
①ステークスホルダーとのていねいな意見交換
②初めの一歩を踏み出す力
③周囲への説明責任とコミュニケーション
④かゆいところを見極める判断
⑤チャンスを逃さないために組織ニードを理解
⑥NPとしてステップアップを考慮
⑦看護部とのパートナーシップ
結びに「チャレンジしている時こそ感謝」と話し、今後もNPとして看護実践の追及を続け、患者さんや家族、社会から求められる存在になるよう目指していきたい、と意欲を示した。
市川氏は講演後「NPへの理解が進んだのではないか」と評価した上で、今後さらに1人1人の患者さんとの関わりをていねいに分析し言語化することで社会に対してNPを見える化し、看護の説明責任を果たしていくことが必要だと述べた。
イベントの終わりに鈴木氏は「病院や在宅医療におけるNPの役割や経済的効果については十分な結果を報告できずタイトルとの乖離があったとしながらも、4年間の研究を通してNPの課題がたくさん見えたことが成果だ」と話し、未来につなげていくためにも研究と臨床それぞれでの協力を呼びかけた。
[取材・執筆] N direction 高山 真由子
*看護師ジャーナリスト高山のコメント*
イベントの準備から当日の運営まで自分たちで進めた過程は、NPという新たな看護を切り拓いてきた軌跡に似ている。NPの存在や実践が多くの医療従事者の賛同を得ながらついにその経済的効果まで議論するところにたどり着いたことは、議論の当初から関心を持つ者として非常に感慨深い。一方で、この18年で700名を超えるNPが誕生したものの、法的整備に向けた議論は進んでいない。NPが社会に必要だと認識されるためには、ケアの受け手である一般市民の理解も重要であることから、今後「NPとは何か」「看護とは何か」を言語化し伝えていくことも併せて必要だ。NPたちの研究と実践の積み重ねが、患者さんの健康回復・健康増進をはかるために必要不可欠だという価値証明になり、法整備の後押しになることを期待したい。歴史を動かすNPたちの挑戦はこれからも続いていく。
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