特別編 症例から学ぶ周術期看護
糖尿病のある患者の水分管理
投稿日:2023.12.01
「糖尿病のある患者の水分管理はどうすればいいの?」そんな疑問について麻酔科医であり経口補水療法の専門家である谷口英喜先生にわかりやすく解説いただきました。
今回は糖尿病のある患者の水分管理について考えてみましょう!
症例
54歳女性、会社勤め。2型糖尿病に罹患し、11年経過。
治療はインスリン注射と※SGLT2阻害薬を内服しHbA1c7.5%前後でコントロールできていた。
夏期休暇を利用し家族でキャンプへ。屋外バーベキューの準備中に意識レベルが低下し、病院搬送された。
JCS10、血圧81/66mmHg、脈拍132bpm 整、呼吸数28回/分。
腋窩温37.1℃、ツルゴールは消失気味、ケトン臭無し。
血糖値は165mg/dl、尿糖は4+ 16.5mg/dl、Hct 52%。
54歳女性、会社勤め。2型糖尿病に罹患し、11年経過。
治療はインスリン注射と※SGLT2阻害薬を内服しHbA1c7.5%前後でコントロールできていた。
夏期休暇を利用し家族でキャンプへ。屋外バーベキューの準備中に意識レベルが低下し、病院搬送された。
JCS10、血圧81/66mmHg、脈拍132bpm 整、呼吸数28回/分。
腋窩温37.1℃、ツルゴールは消失気味、ケトン臭無し。
血糖値は165mg/dl、尿糖は4+ 16.5mg/dl、Hct 52%。
Q. 2型糖尿病のある患者の意識障害を見たらまず何を考えますか?
A. 治療優先順位の高いものから診断します。
①低血糖発作②非ケトン性高浸透圧性昏睡③その他を考えます。
今回の症例では、SGLT2阻害薬は低血糖を起こしにくいですが、インスリン注射と併用することで起こるので注意が必要です。
血糖測定結果より①②は否定的で、ツルゴール消失や血液濃縮の所見から脱水症、とくに炎天下の活動による熱中症が原因と考えられます。
今回の症例では、SGLT2阻害薬は低血糖を起こしにくいですが、インスリン注射と併用することで起こるので注意が必要です。
血糖測定結果より①②は否定的で、ツルゴール消失や血液濃縮の所見から脱水症、とくに炎天下の活動による熱中症が原因と考えられます。
Q. 2型糖尿病のある患者における、熱中症および 脱水症のリスクは何でしょう?
A. 体液量と内服薬から推測します。
糖尿病のある患者は血糖値が高く、血漿浸透圧が高いため、脱水傾向にあります。肥満が合併すると、体液のリザーバーである筋肉量が少ないために、体液量がさらに少なくなります。
このような患者がSGLT2阻害薬を内服すると、脱水症が助長され、脱水症が ベースにあると、暑熱環境により熱中症が発症しやすくなります。
このような患者がSGLT2阻害薬を内服すると、脱水症が助長され、脱水症が ベースにあると、暑熱環境により熱中症が発症しやすくなります。
Q. 2型糖尿病のある患者の日常生活における 脱水症予防はありますか。
A1. 適切な食事量の確保が必要です。
私たちの水分補給は、食事と飲料から半分ずつ取り入れられます。とくに糖尿病患者は、エネルギー制限食のため全体的な食事量が少なく設定されています。よって、しっかりと設定された食事量を摂取することが大事になります。
1、カラダに入ってくる水分・・・代謝水、食べ物の水分、飲料水
2、カラダから出ていく水分・・・尿、便、汗、不感蒸泄
1、カラダに入ってくる水分・・・代謝水、食べ物の水分、飲料水
2、カラダから出ていく水分・・・尿、便、汗、不感蒸泄
A2. 適切な飲料によるこまめな水分補給を。
日常的な水分補給をこまめにする必要があります。理想的には、内服薬同様に定まった時間に摂取してください。多くの糖尿病のある患者は腎機能が低下していることが多いので、1度に大量の飲水をすると尿として体外へ排出されてしまいます。
1回あたり6オンス(180mL)程度を8回以上摂取することを目指しましょう。また、糖分の多いスポーツドリンクなどは、エネルギー過剰になるので避けましょう。
1回あたり6オンス(180mL)程度を8回以上摂取することを目指しましょう。また、糖分の多いスポーツドリンクなどは、エネルギー過剰になるので避けましょう。
Q. 2型糖尿病のある患者が脱水症になった場合には経口補水液を摂取させて良いのでしょうか。
A. できるだけ早い時期に500mLを摂取させてください。
2型糖尿病のある患者は脱水症リスクが高く、状態が悪化すると非ケトン性高浸透圧性昏睡に進展する可能性があります。脱水症を呈したら軽度~中等度(飲水できる程度)であれば速やかに経口補水液を摂取させてください。
経口補水液は1Lあたり塩分3g、ブドウ糖20gを含み、通常は糖尿病患者には適しませんが、脱水症時は塩分や糖分のバランスが負に傾きます。この状況で500mLの経口補水液を摂取させても高血糖になる恐れはなく、むしろ脱水症の進行によりさらなる高血糖になるのを防ぐことが重要です。
大切なことは、500mL摂取した後にかかりつけ医を受診してその後の指示を仰ぐことです。
一方、重度(意識レベル低下、飲水不能)では、輸液療法が必要になります(CDCの脱水症治療方針を参照)。
経口補水液は1Lあたり塩分3g、ブドウ糖20gを含み、通常は糖尿病患者には適しませんが、脱水症時は塩分や糖分のバランスが負に傾きます。この状況で500mLの経口補水液を摂取させても高血糖になる恐れはなく、むしろ脱水症の進行によりさらなる高血糖になるのを防ぐことが重要です。
大切なことは、500mL摂取した後にかかりつけ医を受診してその後の指示を仰ぐことです。
一方、重度(意識レベル低下、飲水不能)では、輸液療法が必要になります(CDCの脱水症治療方針を参照)。
水分補給に関しては、2023年6月に発売された谷口英喜著「いのちを守る水分補給(評言社)」でわかりやすく解説しておりますので、ご覧いただきたいと思います。
経過
この患者は、脱水症を伴う中等度熱中症と診断され、細胞外液補充液の輸液とクーリングを受けた。その後、意識が回復し飲水可能となった時点(総量1000mL)で輸液はやめて経口補水液を摂取させた。経口補水液を500mL摂取して、食欲が回復したために通常の飲食へ移行した。
この患者は、脱水症を伴う中等度熱中症と診断され、細胞外液補充液の輸液とクーリングを受けた。その後、意識が回復し飲水可能となった時点(総量1000mL)で輸液はやめて経口補水液を摂取させた。経口補水液を500mL摂取して、食欲が回復したために通常の飲食へ移行した。
本症例でナースが注意すること
・常に脱水症・熱中症のハイリスクと認識する
・SGLT2阻害薬は、脱水症の引き金となり得る
・脱水症を放置せず、経口補水液500mLを躊躇せず飲ませる
・SGLT2阻害薬は、脱水症の引き金となり得る
・脱水症を放置せず、経口補水液500mLを躊躇せず飲ませる
※糖尿病の治療薬。血液中の余分な糖を尿から排泄させ、血糖値を下げる薬。
Take home message
●スポーツドリンクや経口補水液を日常飲みにしない
●日常的にはこまめな水分補給の典型が6オンス8回法
●脱水症ではCDC治療指針に従って速やかに治療開始
●日常的にはこまめな水分補給の典型が6オンス8回法
●脱水症ではCDC治療指針に従って速やかに治療開始
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