教えて 吉田先生! 【知っておきたい!高齢者の栄養管理 サルコペニア・フレイル予防】
第6回 サルコペニア、フレイル、ロコモティブ症候群…、その違いって?
投稿日:2023.10.20
~サルコペニアの生い立ち編~
サルコペニア、フレイル、ロコモティブ症候群、「その違いは?」と聞かれても、正直よくわからない…。どう判別するのか悩む方も少なくないはず。
そこで今回から3回にわたり、高齢者によく見かける3つの病態の違いについてその生い立ちから解説します!
そこで今回から3回にわたり、高齢者によく見かける3つの病態の違いについてその生い立ちから解説します!
1.サルコペニアという言葉ができたのは 、1980年代
サルコペニア、フレイル、ロコモティブ症候群、結論からいうと、これらは「言い出した人の違い」です。加齢によって起こる現象を、どのような観点から評価するか、どのように定義するか、かつてそれらを決めた人たちがいるのです。
最初に提唱されたのは、サルコペニアです。提唱したのは、ローゼンバーグ(Rosenberg)博士(図1)で、本人が当時のことを書いた記事が残っています(1)。
最初に提唱されたのは、サルコペニアです。提唱したのは、ローゼンバーグ(Rosenberg)博士(図1)で、本人が当時のことを書いた記事が残っています(1)。
加齢により筋肉量が減少、代謝量も低下し、転倒や骨折が増えることは古くから検討されていました。1977年の論文でも、加齢によりクレアチニンの排泄量が減少することから、加齢によって筋肉量は減少していくのだろうと報告されています(2)。ローゼンバーグ博士は、1988年の学術会議で、こうした筋肉量減少と身体機能の低下は、加齢による現象のなかでも最も重大で注目すべき変化であるとし、この現象に名前を付けるべきだと提案しました。そして、ギリシャ語の肉(サルクス;sarx)という言葉を用いて、サルコペニアと名付けました。 以後、サルコペニアの研究は急速に進んでいます。ローゼンバーグ博士のスゴいところは、筋肉量だけでなく、身体機能にもしっかり注目していたということです。
2.ダイナペニアと言い出した人たちも
2008年、クラーク(Clark)らは、加齢による身体機能低下の原因は、筋肉の量ではなく、むしろ、筋収縮力や神経機能の変化によると提案。
『Sarcopenia ≠ Dynapenia(サルコペニアとダイナペニアは違う)』という論文を発表しました(3)。ダイナぺニアとは四肢の骨格筋量は低下していなくても、筋肉量が低下した状態を指します。
確かに筋肉量が維持されていても、握力を測定してみると筋力が低下しているケースがあります。逆に筋肉量が明らかに減少していても、握力や歩行速度は維持されていることもあります。筋肉量と筋力は比例しないのです。
PubMedで、サルコペニアとダイナペニアの論文数の推移を検索してみました(図2)。圧倒的にサルコペニアが多いものの、地道にダイナペニアの論文も投稿されています。Clarkらの目論見とは少し異なるかもしれませんが、筋肉量が減少していない、あるいは、筋肉量を測定していない集団では、握力や歩行速度などの身体機能の低下について検討した場合、サルコペニアという言葉が使えません。そのためダイナペニアを用いているという事情もあるのかもしれません。
『Sarcopenia ≠ Dynapenia(サルコペニアとダイナペニアは違う)』という論文を発表しました(3)。ダイナぺニアとは四肢の骨格筋量は低下していなくても、筋肉量が低下した状態を指します。
確かに筋肉量が維持されていても、握力を測定してみると筋力が低下しているケースがあります。逆に筋肉量が明らかに減少していても、握力や歩行速度は維持されていることもあります。筋肉量と筋力は比例しないのです。
PubMedで、サルコペニアとダイナペニアの論文数の推移を検索してみました(図2)。圧倒的にサルコペニアが多いものの、地道にダイナペニアの論文も投稿されています。Clarkらの目論見とは少し異なるかもしれませんが、筋肉量が減少していない、あるいは、筋肉量を測定していない集団では、握力や歩行速度などの身体機能の低下について検討した場合、サルコペニアという言葉が使えません。そのためダイナペニアを用いているという事情もあるのかもしれません。
図2:サルコペニアとダイナペニアの論文数の推移
3.サルコペニアの定義 、診断基準が提唱される
2010年、ヨーロッパのグループであるEWGSOP(The European Working Group on Sarcopenia in Older People)が、サルコペニアの統一的な定義、診断基準を提唱しました。サルコペニアは「進行性かつ全身性に筋肉量と筋力が低下し、身体機能障害、QOL低下、死亡のリスクを伴う状態」と定義され、筋肉量、握力、歩行速度から判定することとなりました(4)。ゆるぎない1つのジャンルとして確立されたわけです。
やがて、欧米とアジアでは体格や身体機能の違いがあるという意見が出され、2014年、AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)がアジア人のサルコペニア診断基準を提唱します(5)。
これらの診断基準では、筋肉量の測定が必須でした。しかし、筋肉量はどの施設でも正確に測定できるというわけではありません。そこで2018~2019年、改定版のEWGSOP2(6)、AWGS2019(7)が相次いで提唱されました。基準の数値などは変わっても、「筋肉量ありき」の考え方は今でも脈々と継承されています。
やがて、欧米とアジアでは体格や身体機能の違いがあるという意見が出され、2014年、AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)がアジア人のサルコペニア診断基準を提唱します(5)。
これらの診断基準では、筋肉量の測定が必須でした。しかし、筋肉量はどの施設でも正確に測定できるというわけではありません。そこで2018~2019年、改定版のEWGSOP2(6)、AWGS2019(7)が相次いで提唱されました。基準の数値などは変わっても、「筋肉量ありき」の考え方は今でも脈々と継承されています。
参考文献
(1)Rosenberg IH. J Nutr. 127(5Suppl):990S-991S, 1997.
(2)Tzankoff SP, et al. J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol. 43(6):1001-6, 1977.
(3)Clark BC, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 63(8):829-34, 2008.
(4)Cruz-Jentoft AJ, et al. Age Ageing. 39(4):412-23, 2010.
(5)Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc. 15(2):95-101, 2014.
(6)Cruz-Jentoft AJ, et al. Age Ageing 48(1):16-31, 2019.
(7)Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc. 21(3):300-307, 2020
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