1. ホーム
  2. コラム
  3. がんと共に歩む人たちが 自分を取り戻すために 看護師にできる支援とは?
Spotlight -スポットライト

がんと共に歩む人たちが 自分を取り戻すために 看護師にできる支援とは?

 がんと診断された方やその家族は、治療過程でさまざまなつらさや苦痛に直面します。看護師は病棟や外来などで彼らと継続的に関わることで理解を深め、自身が持つ力を発揮するためのサポートを担うと期待されています。

 今回、認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事の秋山正子さんに、がんと共に歩む人たちへの支援方法や看護師の役割について伺いました。

がん医療の進化により本人・家族等に必要性が高 まった「第二の居場所」

 がん医療の進化により入院期間は短縮化し、 治療の多くは外来でできるようになり、 長く付き合う病気へと変化しました。 それに伴い、 病院は治療に特化した機能に集中しているため、 がんと共に歩む人たちが抱える気持ちや心配ごとを解決する場が不足しています。 また、 病院で働く看護師の方は、ゆっくりと話を聞く機会が減少していると感じられているかもしれません。

 マギーズ東京は、 そうした何とも言えない気持ちや心配ごとを吐き出して気持ちに整理をつけ、 自分の力を取り戻すための 「居心地の良い第二の我が家のような場所」 として、 2016年にオープンしました。 これまでに延べ4万人が利用しています。

看護師によるエンパワメントで、治療中の困りごとを引き出し自信を取り戻す

治療期間中、 さまざまな悩みや抗がん剤の副作用に直面します。 例えば副作用による指先のしびれで生活上の困難を感じることがありますが、 このような困りごとはあまり話題にされません。 しかし、 質問を具体化させ共感するよう、 「指先のしびれや足先のしびれなどで多くの方が困っていて、 よくつまずいたり、 物を落としたりされると聞きますがどうでしょうか」 と声をかけることで、 おのずと困りごとが引き出されていくのです。

 また、 がん医療の進化により、 セルフケアマネジメントや治療選択の重要性が求められ、 支援のあり方も変化しました。 これまでがん教育を受けることがなかった、 いわゆる初心者である彼らが、 治療選択の際に抱く戸惑いや家族間の価値観の違いをサポートするには、病院だけでは十分でないこともあります。 がんと共に歩む人たちが自分の力を取り戻し、 再び自分の力で歩んでいけるよう、 ゆっくりと話を聞き、 エンパワメント (伴走) する人と場が必要なのです。
▲木の温もりに包まれた心地よい入口

最も多く寄せられる相談ごとは「医療者とのコミュニケーション」

 ここに寄せられる相談で最も多いのは 「医師とのコミュニケーションがうまく取れない」 という悩みです。 例えば、 セカンドオピニオンを希望していても 「主治医の先生に申し訳ない」 「情報提供書をもらうためにどう伝えるのか」 と悩む方は少なくありません。

 また 「順調ですよ」 と言われても 「具体的に何が順調なのかわからない」 と悩む方もいらっしゃいます。 医療者側からすれば些細に感じることでも、 話を聞くとその背景には、 がんで親戚を亡くした経験や、 過去に医療への不信感を抱いた出来事が関わっていることもあります。

 こうしたコミュニケーションで困っている方がたくさんいるという現実を、 看護師が理解することが支援につながっていくと考えています。 もちろん外来患者さんの安全に注意を払いながら診療を円滑に進めるという看護師の役割や忙しさは十分理解しています。 その上で、 診察でのやりとりを聞 きながら理解に行き詰まっていないか観察し、 何かわからないことがあったら聞けるようにします。 忙しいと知りつつも勇気を出して看護師に声をかけた患者さんに対しては、 「医師に聞いてください」 ではなく「10分後にお話を聞きます」 と返事をし、 その場で答えられないものであれば院内の相談支援センターにつなぐなど、 日々の関わりの中で実現可能ではないでしょうか。

がん治療のセルフケアマネジメントをサポートし意思決定へ導くこと

 1996年に英国で始まり、 国内外に展開を進めるマギーズセンターは 「建築と環境」 「ヒューマンサポート」 の2本柱をコンセプトにしていますが、 その重要性を感じる出来事がありました。

 ある日、 乳がんの手術を勧められている年配の女性が訪れました。 彼女はがんとの診断に落ち込み、 泣いてばかりいるというのでお話を伺った後、 大きな一枚板のテーブルが置かれた部屋にご案内しました。 「これは木場の材木屋さんが寄付してくれたんですよ」 と説明したところ、 テーブルを撫でながら、 「木はいいわね。 実は私、 材木屋の女将だったのよ」 と話し始めました。 それまで下ばかり向いていた彼女の背筋がだんだん伸びて、 表情も明るく変わっていきました。 しばらく雑談をした後、 「手術受けてみようかな」と話した彼女を見て、 ここに来たことで女将の時の自分の姿を思い起こし、がんと向き合っていく気持ちを整理できたのだと感じた出来事でした。

 さまざまな背景を持った方々がマギーズ東京を訪れますが、 ここでは環境やスタッフのサポートによって皆さんが自信を取り戻す瞬間に導かれていると感じています。 私たちは、 一 人ひとりが生きる力を再び取り戻す場所として、 ここが存在していることに大きな喜びを感じています。
▲広々とした空間と温かみのある室内が調和し、心地良い雰囲気を演出している

病棟・外来・訪問看護等それぞれの看護フィールドで今日から始められるサポートとは?

 がんに限らず 「これだけ説明したのだからわかっているはず」 という医療者側の思い込みを外し、 どこまで理解できたのかを確認しながらエンパワメントしていくことが大切です。 また、れだけ情報があふれている世の中にあって、 情報を提供することが不安につながることもあるため、 本人や家族がどこまで知りたいと思っているのかを把握することも大事ですね。

 さらに、 がん医療は標準治療だけでなく、 自由診療にも広がっています。 普段どこから ・ 誰からどのような情報を得て治療の意思決定につなげているのかという点にも目を向けて、時には一緒に情報のリソースを見ながら考えてみることも必要になってくるのではないでしょうか。
(2023年5月12日取材)
認定NPO法人 マギーズ東京
〒135-0061 東京都江東区豊洲6-4-18
TEL 03-3520-9913
FAX 03-3520-9914
平日10:00~16:00(土曜、日曜、祝日はイベント時のみオープン)
夜間オープン(ナイトマギーズ)/原則毎月、第1・第3金曜/18:00~20:00
https://maggiestokyo.org/

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。



他の方が見ているコラム