ナースマガジン vol.44
達人に訊く!「アドバンス・ケア・ プランニング(ACP)」ここがポイント!
投稿日:2023.08.07
「アドバンス・ケア・プランニング:ACP」は、先々のことを予め決めておくことではなく、あくまで「生きたい人生をまっとうするための継続的な支援」。そう話すのは、在宅医療の達人、小野沢滋先生です。ヒントは、私たちの普段の関わりの中にある、とのこと。詳しく教えていただきました。
在宅支援の達人
小野沢 滋 先生
小野沢 滋 先生
みその生活支援クリニック 院長
この人はお孫さんとの時間を大切にされていたんだな、大好きな田舎のうどんを食べることが生きがいだったんだな――そんな患者さんの「こんなふうに生きていたい」という思いを全員で共有し、支援していくことがACPです。ぜひ、そこに看護の視点を生かしていただき、人生に寄り添う医療にみんなで取り組んでいきましょう!
【小野沢先生のメッセージ動画は、こちらから】
【小野沢先生のメッセージ動画は、こちらから】
再考! アドバンス・ケア・プランニング
ACPは、誤解されている!?
ACPは、人生会議とも呼ばれその言葉はここ数年で一気に広まりました。しかしながら、本当の意味でのACPは、実際には全くと言っていいほど普及していないと、私は感じています。それどころか、誤解されたまま言葉だけが独り歩きしているように見えるのです。
「いつACPを取るのか」といったことがよく話題になりますが、そもそもACPは「取る」ものでもなければ「いつ」と決まっているわけでもありません。患者さんと話し合いながら、次の治療はどうしましょうか?ということを一緒に考えていく、日々の関わりを通して、その人が本当はどうしたいのかを見極めていくプロセスこそが、アドバンス・ケア・プランニングなのです。
しかし医療の現場では「患者さんの希望を確認して記録に残す」ことが、あたかもACPであるかのように語られています。「どうしたいですか?」と聞いて、そこで返ってきた答えを申し送りすれば「ACPを取った」ことになる。取って終わりになってしまっては、それはプロセスどころか、プロセスを省くことになってしまいます。本来の意味とは、かけ離れてしまうのです。
しかし医療の現場では「患者さんの希望を確認して記録に残す」ことが、あたかもACPであるかのように語られています。「どうしたいですか?」と聞いて、そこで返ってきた答えを申し送りすれば「ACPを取った」ことになる。取って終わりになってしまっては、それはプロセスどころか、プロセスを省くことになってしまいます。本来の意味とは、かけ離れてしまうのです。
決めるのではなく、話し合う
その人の人生に関わることについて、何か一つの答えを導き出して、予め決めてしまうこと自体、私はナンセンスだと思っています。先々どんな症状が出るかは誰もわからないし、実際に出てみないと、そのときの自分がどう思うかなんてわかるはずがありません。その場その場の状況で患者さんが思っていることがすべてなのであり、大事なのは、そこに丁寧に寄り添っていくこと。だからプランではなく「プランニング」と、わざわざ進行中のINGをつけているのです。
言葉を略して名詞化することで、その言葉が持つ本来の意味が損なわれてしまうということは、往々にしてあることです。ACPと略した時点で、本来の「プロセス」の意味が抜け落ちて「もの」になってしまった。今、改めてその意味を問い直す必要があります。
言葉を略して名詞化することで、その言葉が持つ本来の意味が損なわれてしまうということは、往々にしてあることです。ACPと略した時点で、本来の「プロセス」の意味が抜け落ちて「もの」になってしまった。今、改めてその意味を問い直す必要があります。
どのようなプロセスなのか
「丁寧」こそが最大のコツ
「プロセス」というのをもう少し具体的にいうと、 「その人の人生や価値観に寄り添った、オーダーメイドの医療をつくっていくプロセス」といえます。その人が本当はどう生きたいのか、そのことを治療の出発点にする。 「だったら入院しないほうがいいね」 「この薬はやめようか」 「放射線治療もしたほうがいいね」というように、選択肢はいろいろ出てきます。そこに答えはありません。一人ひとり、状況が変わっていく中でカスタマイズしていく、それこそがACPなのです。
つまりそれは何ら特別なことではありません。例えば患者さんとの面談の中で、ふいにお子さんの話が出てきたり、その人の人生観が語られたり。そういった日々の関わりを通して、その人がどんな人生を過ごしたいのか、どんなことを大事に思っているのかを丁寧に聞き取っていく、それを重要な申送り事項としてつなげ、医療の方針決定に生かしていくことこそが大切なのです。
会話の中で「この先どうしたいですか?」と尋ねても、返ってきた答えが本心であることは、まずありません。本心というのはもっと心の奥底にあって、本人すら気づいていないこともある。その潜在意識の中にある本心を引き出してあげるための会話をすること。この「丁寧さ」こそ、アドバンス・ケア・プランニングの最大のコツだといえるでしょう。
つまりそれは何ら特別なことではありません。例えば患者さんとの面談の中で、ふいにお子さんの話が出てきたり、その人の人生観が語られたり。そういった日々の関わりを通して、その人がどんな人生を過ごしたいのか、どんなことを大事に思っているのかを丁寧に聞き取っていく、それを重要な申送り事項としてつなげ、医療の方針決定に生かしていくことこそが大切なのです。
会話の中で「この先どうしたいですか?」と尋ねても、返ってきた答えが本心であることは、まずありません。本心というのはもっと心の奥底にあって、本人すら気づいていないこともある。その潜在意識の中にある本心を引き出してあげるための会話をすること。この「丁寧さ」こそ、アドバンス・ケア・プランニングの最大のコツだといえるでしょう。
今こそ、人生に寄り添う医療を
日々の関わりを大切に
とはいえ、名詞化されたことは悪いことばかりではありません。がんの医療が飛躍的に進歩し、かなり厳しい状態にある人が劇的に良くなることも、今では珍しくなくなりました。だからこそ治療の止めどきがわからない。そういう中で、この先の人生について話すプロセスはとても重要であり、 「どうやって患者さんと一緒に話し合おうか」ということを医療者が考えるきっかけになったのは良かったと思っています。
今までの医療が目指してきたのは、命の長さでした。血圧が高ければ下げる、がんがあれば取る。でも90歳を超えた人にできることには、どうしても限界があります。つまり今までの医療が、無力になってきている。だからこそ、その人生に寄り添っていくプロセスが重要なのです。
治療のオプションがなくなった人の最期をどう看取るのか、そこに必要なのは、「その人が生きたい人生のお手伝いをする」医療です。 ACPは特別なことではありません。日々の関わりを大事に、丁寧に行っていく。そしてそれを共有して、みんなで一緒に寄り添っていく。そんな医療を、これからも実践していただけたらと思います。
今までの医療が目指してきたのは、命の長さでした。血圧が高ければ下げる、がんがあれば取る。でも90歳を超えた人にできることには、どうしても限界があります。つまり今までの医療が、無力になってきている。だからこそ、その人生に寄り添っていくプロセスが重要なのです。
治療のオプションがなくなった人の最期をどう看取るのか、そこに必要なのは、「その人が生きたい人生のお手伝いをする」医療です。 ACPは特別なことではありません。日々の関わりを大事に、丁寧に行っていく。そしてそれを共有して、みんなで一緒に寄り添っていく。そんな医療を、これからも実践していただけたらと思います。
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