第7回 症例から学ぶ周術期看護
周術期における悪心嘔吐対策
投稿日:2023.07.10
術後に起こりやすい悪心嘔吐はどうすればいいの?
そんな疑問について麻酔科医の谷口英喜先生にわかりやすく解説いただきました。
そんな疑問について麻酔科医の谷口英喜先生にわかりやすく解説いただきました。
今回は、術後の悪心嘔吐について考えてみましょう。
症例
43歳女性、身長152cm、体重46kg
既往歴
14歳の時に、虫垂切除術(全身麻酔)、乗り物酔いをし易い。喫煙歴無し。
帰室後経過
卵巣嚢腫の診断で、腹腔鏡補助下卵巣切除術が予定された。
全身麻酔で、術後に麻薬を使用する予定はない。
43歳女性、身長152cm、体重46kg
既往歴
14歳の時に、虫垂切除術(全身麻酔)、乗り物酔いをし易い。喫煙歴無し。
帰室後経過
卵巣嚢腫の診断で、腹腔鏡補助下卵巣切除術が予定された。
全身麻酔で、術後に麻薬を使用する予定はない。
Q. どのように予防していけば良いのでしょうか。
A. 制吐剤の投与を中心に多角的にアプローチしていきます。
PONV対策は、制吐剤の投与の他にも様々な対策に効果が期待されています。術前、術中、術後と多角的なアプローチを多職種で実施します。
Q. 術後の悪心嘔吐は、どんな弊害があるのですか。
A. 多くの弊害があります。
術後の悪心嘔吐(PONV:postoperative nausea and vomiting)は、「治療にかかわる医療コストを増加させる」「在院日数を長くさせる」「周術期の合併症を増やす」などの弊害が明らかにされています。患者にとっては、「術後に避けたいことNo.1」と言っても過言ではありません。「予防できるなら約6,000~11,000円払っても良い」 と言う調査結果があるほどです。一般的には、術後患者の嘔吐発生率は約30%、悪心発生率は約50%とされ、術前にPONVのリスクが高いと評価された患者発生率は約80%とされています。対策としては、発生したPONVに対して治療するよりも予防することが重要です。
Q. PONV対策に関して、最新の話題はありますか。
A. 予防のレベルが、1段階上がりました。
最新のガイドラインでは、予防レベルが1段階上がり、リスク因子がひとつでもあれば予防剤の投与が推奨されています。例えば、非喫煙者の女性では、全員に複数の予防剤が投与されるのです。
本症例は、術前評価でPONV発症リスクが高いと判断され、術中からの多角的予防策が施され、PONVを発症せずに経過されました。
Q. PONV予防としての制吐剤の使用法を教えて下さい。
A. 制吐剤の投与も多角的に行います。
PONV予防のための制吐剤の投与は、作用機序の異なった薬剤を複数投与する多角的投与が効果的です。その理由は、PONVの発症機序が様々あるからです。1カ所を遮断しても効果は限定的なので、複数カ所を遮断する必要があります。わが国では、ドパミンD2受容体遮断剤(例えば、メトクロプラミドメシル塩酸塩)を繰り返しPONVに投与する光景を目にしますが、限界があるのがわかります。
具体的な薬剤の使用法は、米国麻酔科学会の予防ガイドラインにある薬剤の組み合わせを参考に投与します。前述した低リスクには予防投与はせず、中リスクに対しては2剤を、高リスクに対しては3剤を投与します。
Q. 近年、わが国で使用できるようになった 制吐剤はありますか。
A. セロトニン作動性(5-HT3)受容体拮抗薬が保険 適応になりました。
これまでは、わが国でも使用できる主な制吐剤は、ドロぺリドール(ドロレプタン®)、プロクロルペラジン(ノバミン®)、 メトクロプラミドメシル塩酸塩(プリンペラン®)などでした。保険適応上、前述したガイドラインにある薬剤には、使用できないものが多くありました。しかし、2021年8月30日付けでセロトニン作動性(5-HT3)
受容体拮抗薬である、オンダンセトロン塩酸塩水和物とグラニセトロン塩酸塩がPONVに対して保険適応となりました。これにより、多角的な制吐剤投与が可能となりま
した。本症例では、デキサメタゾン、ドロペリドール、グラニセトロンを術中から予防投与しました。
受容体拮抗薬である、オンダンセトロン塩酸塩水和物とグラニセトロン塩酸塩がPONVに対して保険適応となりました。これにより、多角的な制吐剤投与が可能となりま
した。本症例では、デキサメタゾン、ドロペリドール、グラニセトロンを術中から予防投与しました。
Q. デキサメタゾンの使い方と注意点を教えて下さい。
A. 正しい投与方法により効果的かつ安全に使用できます。
デキサメタゾンは前述したガイドラインにもあるように、予防的な制吐剤として投与されます。ステロイドなので副作用が気になりますが、大規模な研究結果から、デキ
サメタゾンの単回投与で血糖値上昇、免疫能低下、創傷治癒遅延などの副作用は認められないことが明らかにされています。正しい使用方法は、麻酔導入時にデキサメタ
ゾン6.6mgを単回投与します。効果発現が4~6時間後と言われています。ただし、わが国ではデキサメタゾンはPONV予防として保険適応外です。当院では、PONV予防を優先して、病院負担にて同剤を使用しています。また、複数回の投与は推奨されないので、病棟にてPONV出現時には他剤を選択して下さい。
サメタゾンの単回投与で血糖値上昇、免疫能低下、創傷治癒遅延などの副作用は認められないことが明らかにされています。正しい使用方法は、麻酔導入時にデキサメタ
ゾン6.6mgを単回投与します。効果発現が4~6時間後と言われています。ただし、わが国ではデキサメタゾンはPONV予防として保険適応外です。当院では、PONV予防を優先して、病院負担にて同剤を使用しています。また、複数回の投与は推奨されないので、病棟にてPONV出現時には他剤を選択して下さい。
Q. PONVを見た時のピットホールはありますか。
A. フィジカルアセスメントを必ず実施しましょう。
PONVが生じた場合には、必ずフィジカルアセスメントを実施して下さい。その理由は、悪心や嘔吐はPONV以外の原因になるからです。例えば、腸閉塞、麻痺性イレウ
ス、脳圧亢進、低血圧、低酸素血症、電解質異常、不整脈、薬剤アレルギーなどが原因でも起こることがあります。これらの原因を見落とさないように、PONVと決めつ
けず、あらゆる可能性を想定してケアを実施して下さい。
ス、脳圧亢進、低血圧、低酸素血症、電解質異常、不整脈、薬剤アレルギーなどが原因でも起こることがあります。これらの原因を見落とさないように、PONVと決めつ
けず、あらゆる可能性を想定してケアを実施して下さい。
本症例でナースが注意すること
・PONV発症リスクを知っておく
・術中の予防策を確認
・悪心嘔吐が認められてPONVと決めつけないこと
・術中の予防策を確認
・悪心嘔吐が認められてPONVと決めつけないこと
Take home message
●Apfel による4つのリスク因子
●多角的予防策
●多角的薬剤投与法
●多角的予防策
●多角的薬剤投与法
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