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教えて 吉田先生! 【知っておきたい!高齢者の栄養管理 サルコペニア・フレイル予防】

第5回 低栄養の診断に炎症の評価が必要なワケ

投稿日:2023.07.03

第4回の『骨格筋量が測れないときどうする?』では、現在の骨格筋量の測定方法や血液検査で骨格筋量が測定できる最新の研究についてご紹介しました。

今回は、低栄養と炎症の関係についてお伝えします!

1.炎症は低栄養の原因になる?

 現代でも、貧困や政治紛争などでの飢餓や発展途上国などで、病院での栄養管理が不十分で低栄養になる人はいなくなったわけではありません。しかし各国で高齢化が進行するに伴って、加齢、疾患による低栄養とその弊害が大きな問題となってきているのです。

 加齢、疾患による低栄養を考える上で、2010年Jensenらは、栄養摂取量の不足のみならず、疾患による炎症の有無を評価することが重要だと提唱しました1)。ここでいう炎症は局所の炎症のことではなく、全身性の炎症反応を指します。

2.急性炎症と慢性炎症

 急性炎症では発熱を伴いエネルギーを消耗するほか、生命の維持が優先されるため、それに必要なたんぱく質(急性期たんぱく)の合成が行われ、それ以外のたんぱく質の合成が抑制されます。インスリン 抵抗性や、コルチゾール、カテコラミン、グルカゴンなどが分泌される影響で、蓄えられていた筋たんぱくは分解されエネルギー源として 利用されます(図1)。
図1 急性炎症による低栄養


 慢性炎症では、持続する発熱で長期にわたってエネルギーを消耗します。また、インスリン抵抗性により、糖質、脂質の代謝が障害され低栄養へとつながります(図2)。細胞の老化や腸内フローラの異常(Dysbiosis)なども慢性炎症の原因となると考えられています。慢性 疾患にともなう炎症は、疾患が存在し続ける間、常に低栄養のリスク 要因となります。継続的で患者に寄り添うような栄養管理が必要です。
図2 慢性炎症による低栄養

3.GLIM 基準による低栄養診断で、炎症をどう評価するか?

  GLIM基準による低栄養診断を行う際、急性炎症であれば、「CRPや白血球数などのカットオフ値は?」「慢性炎症は何を基準とすればいい?」といった質問をよく受けます。以前、Jensen先生(ホンモノのですよ!)に直接聞いてみたのですが、CRPや白血球数などの明確なカットオフ値はないようです。とはいえ、ギリギリのところで迷う症例はありますよね……。NRS2002という栄養アセスメントでは、重症度の指標にAPACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)Ⅱスコアなどを使用しています。今後、指標となるものが決まるといいと思いますが……。

 GLIM基準の論文には、表のような疾患が急性炎症、慢性炎症のおもな原因として挙げられています2)。 現時点ではこれらを参考に、ほぼ同程度の侵襲があると考えられる場合、あるいはエネルギーの消耗、インスリン抵抗性を引き起こすような場合を「炎症あり」と判断するほかはないようです。

 そのような考えから著者らは、インスリン抵抗性の強い2型糖尿病症例なども「炎症あり」と判断することもあります。結核や非定型的抗酸菌症、HIV感染症なども、慢性炎症を引き起こしますよね。また、CRPや白血球数は、高齢者では上昇していないこともあり、あてになるとは限りません。施設内で意見を統一して、評価者ごとに判定結果が異なってしまわないように注意したいですね。
GLIMの論文に記載された代表的な炎症

参考文献 
 1)Jensen GL, et al. Clin Nutr.29(2):151-3. 2010.
 2)Cederholm T. et al. Clin.Nutr. 38(1):1-9. 2019.

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