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【連載】 エキスパートから学ぶ排尿ケアはじめの一歩

第1回 「排尿自立支援加算」における看護師の役割や病院の変化は?

投稿日:2023.04.04

 2016年度の診療報酬改正で、日本で初めて排尿ケアの技術として「排尿自立指導料」が保険収載されました。2020年度には「排尿自立支援加算」が新設されるなど、排尿が自立するまでの支援の仕組みは充実しつつあり、入院から退院まで継続して自立に向けた排泄ケアが求められています。
 
 今回は長年排泄ケアに携わり、実際にご自身の病院で排尿ケアチームを立ち上げられた東京都リハビリテーション病院の高崎良子先生に、排尿自立支援加算における看護師の役割や病院の変化についてお伺いしました。
東京リハビリテーション病院
皮膚・排泄ケア認定看護師
高崎良子 先生

排尿自立支援加算を獲得して

長年排泄ケアに携わってきた高崎先生ですが、排尿ケアに加算がついたことへの率直なご意見をお聞かせください。

高崎先生:
 排泄ケアは、看護師にとって頻度の高いケアであるにもかかわらず、加算の対象ではなかった分野です。日本創傷・オストミー・失禁管理学会(JWOC)などが、排尿に悩みを抱える患者さんの自立を支援する活動に力を注いでいただいたおかげで、今回の排尿自立支援加算の獲得に繋がったと認識しています。

 排尿日誌をつけること自体には加算はついていないのですが、排尿日誌は尿道留置カテーテルを抜去したその後のケアとして、とても大切なアセスメント情報になります。そのため、私たちが排尿日誌をつけるということも評価されていると考えています。
 
 一方、実際に加算が付くのは「尿道カテーテルを留置」している、もしくは「留置していた患者さん」が前提です。この部分に関しては少し残念に思います。なぜなら、看護師は尿道カテーテルが入っていても入っていなくても、同じように患者さんの排尿状態についてアセスメントをし、適切なケアを提供しているからです。
排尿自立支援加算とは?


今回の加算では尿道カテーテル留置の感染予防といった評価指標があると思うのですが、看護する中では様々な観点から患者さんをアセスメントしなくてはならないですよね。

高崎先生:
 はい、今回の排尿自立支援加算の意図は感染予防という部分が大きく注目されています。尿道カテーテルの留置にはリスクが伴うので、「尿道カテーテルを早く抜きましょう」といったところが大きく掲げられているんですね。

 「感染発生がどのくらい減ったのか」、「何日で尿道カテーテルが抜けたのか」といった部分が評価の指標になっています。ただし、この指標と患者さんのQOLは同じではないことを看護師はしっかりと認識する必要があると思っています。

指標と患者さんのQOLは同じではないことについて詳しく教えてください。高崎先生の勤務されている回復期病院では、尿道カテーテルの早期抜去が難しい患者さんも多くいらっしゃいますよね。

高崎先生:
 そうですね。例えば、脊髄損傷で思うように動かない体で自己導尿を受け入れるということは、車いすへの移乗練習などのセルフケアの獲得といった部分よりも、より精神的な負担になりやすいことを十分理解したうえで、ケアにかかわる必要があると思っています。急性期を過ぎたからと、「早く尿道カテーテルを抜く」ということだけに重きを置いた目標では、かえって「もうカテーテルを抜きたくない、このままでいいです」となってしまいかねません。障害受容や体力が追いついていない段階でカテーテルを抜去してしまうと、導尿が負担になり、受け入れが困難になる場合もあるのです。結果的にはセルフケア習得が順調に行かないといったことに繋がるのではないかと思っています。

 もちろん早期抜去により、感染予防などのリスクを避ける重要な面があります。急性期と回復期の患者さんの違いを理解したうえで、看護師としてどんなことが求められているかを今一度、確認しておきたいですね。


排尿自立支援加算が開始されたことによる院内の変化

排尿自立支援加算により先生の病院で変わったことや期待されることはありますか?

高崎先生:
 当院はリハビリテーション専門病院という病院の機能特性もあり、これまでも排尿日誌をつけることは当たり前のこととして看護師間で認知されていました。看護師による排尿ケアは以前からしっかり行っていたので、看護ケアとしてはあまり変わらないかもしれないですね。

 ただ、セラピストは、自分たちが行っているリハビリが排泄動作の自立に繋がることがより明確になり、意識の変化が大きい印象を受けました。日本創傷・オストミー・失禁管理学会(JWOC)、日本排尿機能学会と日本老年泌尿器科学会の3学会の合同事業として、これから排尿自立支援加算を取る施設の看護師に向け、排尿ケアチーム専任看護師になるための研修が行われています。特に排尿ケアでは尿排出機能障害の有無と程度の判断をするために「残尿測定」が重要です。残尿を放置すると尿路感染症や腎機能低下にもつながるため研修でもしっかりと伝えられます。

 これまで導尿で残尿を測定せざるを得なかった施設でも、排尿ケアチームで加算が取れると、残尿測定器を購入してもらいやすくなるかもしれませんね。
排尿ケアチームとは


排尿ケアチーム立ち上げ前と後では多職種の連携に何か変化がありましたか?

高崎先生:
 当院の排尿ケアチームは立ち上げて6年目に入りますが、特にプライマリーナースと担当セラピストの連携が取りやすくなったように思います。排尿ケアチームのセラピストも「チーム」としての後ろ盾があることで相談や提案がしやすくなるのでしょうね。排泄にかかわることも訓練の中に取り入れてくださいという提案は、もしかするとセラピストの仕事をただ増やすことになるのではないか、といった心配があったかもしれません。しかし加算が取れることでより提案がしやすくなった側面はあると思います。

 ほかにも排尿自立支援加算という診療報酬に結びつくため、排尿ケアチームの活動に参加しやすくなったと思います。

 当院では、立ち上げ当初から熱意を持って排尿ケアに携わってくれているセラピストがいてくれたことで、排尿ケアチーム全体も成熟してきているなと実感しています。

病棟看護師と排尿ケアチームの連携の実際を教えてください。

高崎先生:
 各病棟のリンクナースが鍵になっていると思います。
 
 当院では、排尿ケアチームが介入する患者さんの選定はとてもシンプルにしています。

「尿道カテーテルを留置している」「過去に尿道カテーテルを留置をしていて下部尿路機能障害がある」患者さんを全員リストアップして、病棟から排尿ケアチームに情報が送られるようにしてあります。

 ただし、これは当院の方法であって、病院ごとに特性や規模も違うので、抽出方法は各病院によって大きく異なるかと思います。泌尿器科病棟、婦人科病棟など病棟単位で区切ってその病棟のみを加算の対象にする、といった独自のルールを設けている施設もあるかもしれません。東京都リハビリテーション病院は165床だからできることだと思っています。1,000床規模になるとまたチームの活動の仕方も変わってくるのではないでしょうか。

排尿ケアチームと主治医との連携の実際はいかがですか?

高崎先生:
 対象者の中でも、主治医が泌尿器科へ診察の依頼がある場合には、泌尿器科医から主治医へのお返事があります。排尿ケアチームは依頼の有無にかかわらず、対象の患者さんがいれば回診するため、「助言」「指導」を行います。ただし、主治医の許可なしに治療方針を決めることはしません。「排尿ケアチームはこんな見解でしたよ」「病棟看護師やリンクナースから言ってみてくださいね」といったかかわり方にしています。診療の最終責任はあくまでも主治医です。

 もし、患者さんの排尿ケアについて主治医に提案しにくいようなケースでは、ぜひ排尿ケアチームを頼って欲しいなと思います。

ありがとうございました。排尿自立支援加算の目的や、患者さんのQOLについて十分に理解したうえでかかわっていくことが必要なのですね。

今回は排尿ケアチームをこれから立ち上げる施設や排尿自立支援加算について学ぶ皆様に向けて、看護師として考えておくべきこと、病院での変化についてお伺いしました。

次回は、排尿ケアに関する看護の実際について具体的に高崎先生にお話を伺います。実際の生活指導の内容や、自己導尿カテーテルの選定、排尿日誌についてなど、高崎先生の具体的なお取り組みをご紹介します。

参考:
一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会 編, 排尿自立支援加算、外来排尿自立指導料に関する手引き. 照林社,2020年.

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