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ナースマガジン41 TOPIC

身体拘束ゼロ!内田病院の転倒 ・転落予防と対策

投稿日:2023.02.03

高齢者の転倒・転落が、QOLや生命予後に大きく影響すること、また訴訟に至るケースもあることから、本当は縛りたくないと思いつつも身体拘束をしている場面も少なくありません。

一方、医療法人大誠会内田病院(群馬県)では患者に身体拘束をしないことで知られています。

「縛らないケア」のなかでの転倒・転落の予防と対策とは?同院にて3名の認知症看護認定看護師にお話を伺いました。
(左から)
中村 幸恵さん
牛口 麻衣さん
内海知加子さん

身体拘束しない環境づくり

 入院患者の約7~8割が認知症である内田病院では、入職後職種を問わず全職員が毎年1日かけて認知症に関する研修を受けられているそうです。また、脳血管障害や急性期を終えたリハビリ段階にある患者が多いことから、活動の増加に伴う転倒・転落への予防・対策についても注力されています。
 
 「身体拘束ゼロ」の取り組みは、縛られている患者が寝かされているだけの状況に愕然とした田中志子現理事長の孤軍奮闘から始まりました。毎朝拘束をほどいて回ってはスタッフがまた縛るという状況を繰り返していたと言います。その繰り返しを続けていくうちに、患者のいきいきとした表情への変化を感じ始めた職員たち。陰ながら応援してくれたり、縛らない事への理解を示すスタッフが徐々に増えていったそうです。

 看護側からすれば点滴やチューブ類の抜去、オムツ外しなどにも対応しなければなりませんが、患者に対するケアは職種を越えた連携がある内田病院。『この人だけでも外してみよう』という初めの一歩が達成されると、それが縛らないケアへの自信や実践につながっていきました。

縛らないケアの中での転倒 ・転落予防

 転倒・転落はゼロを目指していても各病棟で毎月平均5~6件はあると言います。夜間、数人同時に起きて動いてしまうこともあり、その分転倒・転落も起きやすくなります。そこで、リスクの高い人には超低床ベッドや衝撃吸収マット、離床センサーなどを使用。これにより、大事故に至らず『落ちるというよりごろんとスライドした程度の衝撃』になるそうです。また、個別の対応策を実施できるよう、入院時のアセスメントでも予防・対策に力を入れており、外的要因となる環境整備や行動要因にアプロー
チできるよう努めていると話します。

 認知症の方はBPSDにより、慣れない環境で落ち着かなかったり、居心地が悪かったりすることで、家に帰ろうとする行動や不安症状が見られますが、『行動を起こすには必ず目的がある』ため、目的に応じた対応を試みるとのこと。声をかけても答えられない方には、選択肢をいくつか提示をしてその目的を探っています。また、在宅生活がベッドではない場合、畳の上に布団を敷く、今どこにいるのかがわかるよう、病室内の見やすい位置に「ここは内田病院です」と貼り紙をする、床に横断歩道に似た白線をテープで引き、安全にトイレまで誘導する、など不安を生じさせないための策を医師も含めて全ての職種で考え、患者中心のケアを行っています。

 転倒による骨折のリスクもありますが、内田病院では入院時に医師から『身体拘束をしないので転倒も起こります』と拘束をしない意義を家族にも伝えるそうです。転倒が起きた場合は速やかに状況の説明と今後の対策を家族に連絡し、こまめな連絡で信頼関係を築いています。

超低床ベッドと畳の病室。畳の先には、センサーマットを設置。
アラームが鳴ると患者さんの用事をお伺いするように対応している。
床にはテープで作った横断歩道様の白線。
トイレまでの方向が分かるため、迷わず安心して進むことができる。

「人」と「もの」で 支 える患者中心のケア

 前述したように、内田病院では全職員が認知症に対しての研修を受けており、誰でも対応できるような教育システムです。入職時の研修をはじめ、「どうしてほしいのか聞く」「自分や家族がされて嫌なことはしない」の 2点を繰り返し伝えているそうです。患者の表情や言動、アセスメントを皆で共有し、介護、リハビリ、相談員、クラークも含めた多職種での連携が実践されています。

 一方、睡眠時の転倒・転落は眠りの質に関係があるのではないかと、睡眠状態を把握する機能を備えたベッドを導入し、睡眠や覚醒の傾向を把握した上でのケアも行っているそうです。また、病院独自のトリガーチェックシートを作成し、患者の行動、BPSDの理由がどこから発生しているのか原因を見極めようという研究も始まりました。全職員を上げた患者中心のケアを、これからも継続・啓発していきたいと、力強く話されました。

(2022年8月10日取材)

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