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第4回 症例から学ぶ周術期看護 

周術期における脱水予防の重要性

投稿日:2022.10.15

周術期の脱水予防ってどうしたら良いの?今更聞けない…。
そんな想いにお応えし、麻酔科医の谷口英喜先生にわかりやすく解説いただきました。

この季節、健康な方でも脱水状態になります。
ましてや、病弱な患者では脱水状態になりやすい状況にあるため、脱水ありきで様々なケアを実施して下さい。

症例
78歳女性、身長142cm、体重38kg
関節リウマチ(RA)で膝痛を繰り返し、人工膝関節置換術の適応となり手術が予定された。この夏を迎え、食欲が低下して体重は1か月で2kg
減少した。膝痛も増悪していた。

既往歴
RAでプレドニゾロン内服中

入院後経過
手術前日に入院し、手術前夜の夕食以降は経口補水液1,500mLを摂取した。

Q. なぜ、術前の脱水予防が重要?

A. 全身麻酔の導入薬には循環抑制作用があります。脱水状態で導入薬を投与すると血圧の低下および頻脈を生じやすくなります。また、硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔も交感神経を遮断するので脱水状態では重度の血圧低下を引き起こします。さらに、脱水状態では、精神的な不安や焦燥感が増加することが報告されています。

Q. 脱水と痛みの関係は?

A. 脱水になると全身の血流が減少します。脳は最後まで血流が維持されるのですが、痛みを感じる脳領域の活動しか残らなくなるため、痛みの閾値が低下するのです。
その結果として、脱水では痛みを感じやすくなります。本症例でも、術前に脱水が膝痛を悪化させている可能性があります。

Q. なぜ、術後の脱水予防が重要?

A. 近年、術後は可能な限り早期から離床することが提唱されています。特に、本症例のような下腿の手術では早期リハビリテーション(以下、リハビリ)が合併症の予防に重要とされています。脱水状態での離床は起立性低血圧を呈する可能性があり、リハビリが予定通りに実施できなかったり、転倒したりする危険性が増加します。さらに、組織血流が低下するため、創部感染や治癒遅延の原因になります。そして、前述したように脱水は術後の仏痛も増悪させてしまいます。

Q. なぜ、術後には脱水が起こりやすい?

A. 術後は、輸液療法を実施しているにもかかわらず、なぜ、脱水になりやすいのでしょうか。術中にドレーンが留置されていると、そこからの排液が多いことで体液が不足します。また、術中に輸液量が不十分であった場合にも、術後に脱水を生じます。しかし、最も大きな要因は、血管内脱水を生じやすいことです。手術侵襲により炎症反応が術後に生じます。炎症反応が起こっている状態では、血管透過性が亢進しているために輸液した水分は血管の中に留まることができません。このため、血管外である間質に水分は移動し、血管内は脱水状態になってしまいます。対策は、炎症を抑えることです。炎症が続く場合には血管内脱水が起こりやすく、そのため浮腫を伴うことが多いでしょう。

Q. 脱水を見つけ出す方法は?

A. 本症例のような高齢者では脱水の存在を常に疑って下さい。

症状が聞き取れる場合:
口渇感、めまい、頭痛、ふらつき、食欲低下、筋力低下、こむら返り、痛み

症状が聞き取れない場合:
バイタルサインの変化(血圧低下、頻脈)、尿量の減少、四肢冷感

フィジカルアセスメント

ブランチテスト

ブランチテスト

親指の爪の先を押してみる
 ⇒離してから赤みが戻るのに3秒以上かかれば脱水を疑う

ツルゴール反応

皮膚をつまんでみる
 ⇒皮膚がつままれた形から3秒以上戻らなかったら脱水を疑う


本症例でナースが注意すること

・高齢者では脱水の存在を疑う
・脱水は痛みを増強させる
・脱水は離床の妨げになる
・血管内脱水も見逃さない

Take home message

●周術期は、脱水を発症しやすい環境である
●常に、脱水の存在を疑いケアを実施する
●脱水はリハビリ、創傷治癒、仏痛管理などの妨げとなる

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