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ナースマガジン vol.40

【看護ケアQ&A】在宅につなげる褥瘡マネジメント

病院、在宅、どちらも褥瘡予防・管理の基本的な原則は同じであるとされています。とはいえ、病院と在宅では使用できる医療機器、薬剤、マンパワーにも違いがあります。社会的背景も考慮しつつ、少しでも在宅療養者の褥瘡管理が効果的、継続的に行えるように、在宅領域に携わる看護師からの悩みについて、専門家である皮膚・排泄ケア特定認定看護師の渡辺光子先生にお伺いします。(編集部)
監修
渡辺 光子 先生
日本医科大学千葉北総病院 看護師長
皮膚・排泄ケア特定認定看護師

体圧分散の工夫

自力で体位変換ができないため、自動体位変換機能の付いたエアマットを使用している方がいます。心不全で浮腫もあり、褥瘡予防のためにポジショニングピローも導入したいのですが、ご家族より高機能のエアマットを使用しているのになぜ必要なのかと受け入れられません。
最近の自動体位変換機能付きのマットレスは、自然な体位変換ができるように設定されたものもあり、必ずしも体位変換目的でのピローを必要とするとは限りません。ただし、体型によってはポジショニングピローが必要となりますし、より安楽に姿勢を整える目的で使用することもあります。 ご家族に必要な理由を説明し、納得していただけると良いですね。
 るい痩や拘縮があると、 マットレスと体の間に伱間ができやすく、 骨突出部に体圧が集中してしまうことが褥瘡発生や悪化の原因となります。 その隙間を埋めるために、 ポジショニングピローや枕を使用することをお伝えしましょう。

 体位変換時の姿勢保持の目的としてだけではなく、 抱き枕のように使用して安楽な体位を助ける意味で導入する場合もあります。

 踵部も圧がかかりやすく、 エアマットレスのみでは褥瘡予防が難しいことがあるため、 そのような場合も毛布やポジショニングピローを活用して踵部の除圧を図るようにすると良いでしょう。

 また、 浮腫があると少しの外力でも皮膚が傷つきやすくなります。靴下はやわらかい素材でゴムのきつくないものを選び保湿ケアを行うなど、スキンケアを心がけましょう。主治医とも相談し、在宅での安楽な療養をサポートしましょう。


車椅子移乗時の除圧

日中の離床のために車椅子で過ごすことが多いのですが、骨盤変形により仙骨座りとなっています。車椅子移乗において、褥瘡予防のための効果的なポジショニング方法や、有効な福祉用具、ご家族への指導について知りたいです。
骨盤変形や関節拘縮があるとなかなか難しいかもしれませんが、 車椅子上の坐位で大切なのは「90°ルール」をイメージすることです(図1)。

できるだけ、 股関節、 膝関節、 足関節が90°になる基本姿勢に近づけるポジショニングです。 自力で座位の姿勢を保てない場合は、 座面だけるでなく、 背面や前面にも補正クッションを使用して姿勢を整えられると良いと思います。
 体の大きさにあった車椅子を選ぶのはもちろんですが、 仙骨座りになってしまう方には 「ティルト式車椅子」 がお薦めです(図2)。リクライニングだけではどうしても上半身が滑り落ちてしまう場合、ティルト式では座面も一緒に傾くため、 前方へのずれを軽減できます。
 車椅子での座位時間が長い時、 腕に力がある方へは、 自分で腕を使って腰を浮かせるように5分毎のプッシュアップを伝えています。ができない場合は、 介助者が時々立ち上がらせて除圧します。

 家族でもできる方法として、 安全を考慮した上で介助者側に前かがみの姿勢をとる、 上半身を傾けて左右の臀部を順番に浮かせて除圧する、 などがあります。
実際にやって見せたり、 一般向けのパンフレットなどで視覚的にわかりやすく説明したりすると取り入れてもらいやすくなります。


食事療法継続のコツ

もともと偏食気味で食事量の少ない療養者の方がいます。 低栄養気味で褥瘡のリスクがあるため栄養補助食品を処方されていますが、 味の好みが合わず継続できません。 身近にある商品や手軽に栄養状態を改善できそうな方法があればお伺いしたいです。
褥瘡の発生や悪化を防ぐためには、バランスの良い食事でエネルギーを確保し、たんぱく質が不足しないようにするのは大前提なのですが、たんぱく質の働きを助ける亜鉛、鉄分などのミネラルやビタミンの補給も大切です。
 小食の方は、 栄養価の高い脂質をうまく利用すると、 量を増やさずにエネルギーアップできます。 普段の食事に、 癖の少ないMCTオイルを追加してもよいでしょう。

 たんぱく質を多く含む肉や魚などは好みがあり、 調理法によっては食べにくいこともあるので豆腐や卵、 乳製品なども含め、 その人の食べやすいたんぱく質を薦めてみると良いですね。

 牛乳でも鉄分入りのものや、 アミノ酸やプロテイン含有を謳った栄養補助食品、 飲料はコンビニやドラッグストアなどでも手軽に購入できるものがあります。
 コラーゲンペプチド含有飲料は、 アミノ酸の補給になるのでおすすめです。 

 小食・偏食の原因を、 摂食嚥下機能、全身状態、 日中の活動量など、 個別にアセスメントしつつ、 特定の栄養補助食品に決めずに、 まずは本人の食べやすいもの、 好きなものから始めて食べる習慣をつけるのが良いと思います。

 サンプル品などが手に入ればいろいろ試してみて、 その中から食べやすいものを選んでもらう方法もあります。 栄養補助食品はドリンク、 ゼリー、 ムースなど食形態の種類も多いため、 本人の希望と主治医や管理栄養士のアドバイスにそって、 飽きないように提案してみてはいかがでしょうか。

局所管理について

訪問看護ステーションに勤務しています。病院により処方や衛生材料が違うことや、医師から外用薬や創傷被覆材の処方について相談を受け、判断に迷うことがあります。 何を基準に選択すればよいのでしょうか。
在宅や施設では、よく使用している外用薬や創傷被覆材などのケア用品があると思います。最近は多くの製品が出ていますが、まずは感染の危険性がある時期とそうでない時期、滲出液が多いか、少ないかで大まかにわけて考えてみましょう(図3)。
 例えば、感染や炎症を伴う時は一般的に皮膚欠損用創傷被覆材の使用は避けます。滲出液が多い時期は、抗菌作用のある外用薬を使用します。同じような時期でも滲出液が少ない、黒くて硬い壊死組織があるような時は組織をやわらかくする作用のあるものを使います。

排泄物による汚染を回避する工夫

在宅療養者さんの臀裂部のテープがよれやすく、 仙骨部の褥瘡部分に排泄物が進入し汚染の対応に悩んでいます。
排泄物による仙骨部の褥瘡汚染はできる限り避けたいものです。 ケア用品の特徴を知って、効果的に使いましょう。

①ストーマ用の皮膚保護材

 褥瘡部分に当てたガーゼの縁に貼り、その上からフィルム材を貼る方法です。ストーマ用の皮膚保護材が堤防の役割を果たし、 便が創部に侵入するのを防ぎます(図4)。

② 失禁用ポリエステル繊維綿や便失禁用のシート・パッド

 失禁用ポリエステル繊維綿は皮膚とおむつの間にはさむと尿や便の水分を透過しておむつに移行させるため、 排泄物の広がりを防いでくれます(図5)。

③速乾性皮膚被膜剤

 傷の周りの皮膚に使用すると、 薄い皮膜を作り、 その上からテープ類を貼ると皮膚に密着しやすくテープが剥がれにくくなります。 また、 剥がす時の角質層の剥離刺激を低減します。


参考:
一般社団法人 日本褥瘡学会(編):在宅褥瘡予防・治療ガイドブック 第 3版. 照林社, 2015年.
一般社団法人 日本褥瘡学会(編):在宅褥瘡テキストブック. 照林社, 2020年.
田中秀子(監) 紺家千津子 清藤友里絵 渡辺光子 内藤亜由美(執筆):創傷ケアワークブック スキンテア/ 褥瘡 /下肢潰瘍. 日本看護協会出版会, 2020年


日本褥瘡学会編集による 「在宅褥瘡テキストブック」は在宅ならではの褥瘡の治療、 予防、 ケアをわかりやすく解説しています。

今回の 「看護ケアQ&A」 で紹介した体圧分散のコツや、 栄養療法、 局所管理のほか、 在宅褥瘡医療にかかわる制度についても掲載されています。

看護師だけではなく多職種や介護者である家族にも共有しやすい内容で、 1冊あると在宅における褥瘡管理の一助となるはずです。 ぜひ参考にしてみてください。

サイズ:B5/ ページ:208ページ/発行元:照林社
発行日:2020.9.2/ 定価:2,300円+税
ISBN978‐4‐7965‐2496‐4

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