1. ホーム
  2. コラム
  3. 経鼻栄養チューブ誤挿入事故対策を再考する
経鼻栄養チューブ誤挿入対策啓発座談会

経鼻栄養チューブ誤挿入事故対策を再考する

投稿日:2022.04.20


経鼻栄養チューブ挿入による最大のリスクは予期せぬ死亡事故です。栄養チューブを誤って気管や肺に留置し、さらに栄養剤を注入してしまうことで重大な事故につながるケースはいまだに発生しています。今回、経鼻栄養チューブ誤挿入における問題と対策について、(公社)東京都看護協会の山元恵子会長による司会の下、医療安全に関わる管理者4名の看護師にご参加いただき座談会を行いました。事前に医療安全・患者安全に関わる看護師を対象に実施した「経鼻栄養チューブの誤挿入事故対策に関する取り組み」についてのアンケート調査結果を踏まえ、急性期、慢性期、訪問看護などそれぞれの視点から経鼻栄養チューブをめぐる現状や取り組み、対策について話し合っていただきました。
日 時:2021年12月18日(土)14:00~16:00
場 所:東京都看護協会 理事室
司 会:(公社)東京都看護協会 山元 恵子 会長(右から2番目)
参加者:竹田綜合病院 須田 喜代美 氏(左から2番目)
      大船中央病院 鈴木 友美 氏(右)
      鶴川サナトリウム病院 浦島 寛明 氏(左)
      ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 岩本 大希 氏(オンライン参加,画面中央)
アンケート調査概要
■期 間:2021年11月
■目 的:
 ・経鼻栄養チューブの誤挿入事故に関する座談会を開催するにあたり、現状を把握するため、医療安全管理等の部門の看護師300名を対象に調査
 ・調査結果は調査主体者のプロモーション資材等に活用
■回 収:226名
■回答者属性
 病院種別:急性期病院53.7%、ケアミックス病院18.9%、回復期病院15.4%など
 役   職:医療安全管理者86.8%、看護師長45.5%など 
 施設規模:100~199床43. 6%、200~299床15. 6%など
■調査主体:ナースマガジン編集部、株式会社大塚製薬工場

経鼻栄養チューブの誤挿入の現状

重大な事故を引き起こす問題点とは

山元 恵子 東京都看護協会 会長
山元 恵子
東京都看護協会 会長
山元: 2018年9月に医療安全調査機構が胃管挿入の死亡事例分析として発表した提言第6号をご存じでしょうか。 今回のアンケートでは、 認知度は69%という結果になっていますが、 まだまだ十分に認識されているとはいえません (図1) 。

 そして、 いまだに事故防止となる画期的な対策がないまま、 看護師による医療事故が繰り返されています。 私は誤注入を防ぐ5つの観察ポイント 「まみむめも」 (図2)で栄養剤注入前の観察を提唱しています。
鈴木 友美 氏
鈴木: 当院では、 栄養チューブの先端が胃内から抜けていることに気づかず、 栄養剤を注入してしまい、SPO2の低下から発覚したケースがありました。 また、 患者さん自身が固定テープを剥がし、 後になって栄養チ ュ ーブの長さが調整されていることに気づくこともありました。
須田 喜代美 氏
須田: 当院では、 医師1名 看護師2名で気泡音を確認し、 その後、 別の画像検査で気管への誤挿入が発覚しました。 それ以降は、 pHチェッカー、CO2検出器、 エックス線 (以下X線) 撮影による複数の方法で確認をしています。 しかしX線撮影での確認はやはりスタッフや患者の負担が大きく、 ほかに方法がないかと思いながらもおこなっています。 また、 今までの経験と 「たぶん大丈夫」 という安易な思い込みから栄養剤注入を実施してしまうことがあるので、 定期的な勉強会をする必要性を感じました。
浦島 寛明 氏
浦島: 当院では、 提言第6号をきっかけに、 より正確な確認と安全のためにマニ ュアルを見直しました。 胃管先端の位置確認は必ずX線撮影をします。 しかし夜間は難しいので、 自己抜去時は気泡音で確認するしかありませんでした。 それに伴い放射線科はオンコール体制になりましたが、 やはり負担は大きいので、 気泡音以外での確認ができない場合のみ放射線科を呼ぶことになりました。 栄養を点滴に変えることが可能であれば医師の指示でおこなっています。
岩本 大希 氏
岩本: 在宅の場合、 家族は病院で受けた指導を忘れてしまうことがよくあります。経管栄養は毎日のことなので、 退院直後はできる限り訪問回数を増やして安全な注入のトレーニングをしています。 とくに家庭での役割が、 働く世代の父親である場合、 仕事の都合で家にいる時間が短く、練習頻度が少ないので、 あえて休日に訪問して指導することがあります。

経鼻栄養チューブ誤挿入の事故対策の取り組みと課題

提言第6号の実践状況と実際

山元: 医療事故の再発防止に向けた提言第6号で示されている、 「胃管挿入時の位置確認」 の実施が69・ 7%を占めています。 その方法の中で最も多い回答 (複数回答) は、 X線撮影で83. 2%という結果でしたが、 同様に 「気泡音の確認」 も82. 7%でした (図3) 。

 確実ではないとされている気泡音に関しては、 複数を合わせた方法での確認が必要です。 また、 マニ ュ アルの整備では、32.3%の病院では 「ない」 と答えています。このようなアンケート結果を踏まえた上で、 実際はいかがでしょうか?
浦島: 先端の留置確認は、 定期的なX線撮影をしています。 しかし、 自己抜去を繰り返している患者さんは、 X線による被曝量やコストの問題があります (図4) 。様々なリスクを考えると、 やはり胃ろうを考えますが、 最近はご家族が難色を示されることも多いと思います。 また、 移動可能なX線ポータブル撮影でも、 感染予防の点では、 使用後の消毒が大変なので、 容易ではありません。 X線に変わるような簡単で正確な確認方法があるといいですね。
鈴木: 当院はX線撮影がルーチンになっています。 気泡音の確認では、 必ず経験豊富な看護師とペアになりダブルチェックすることを徹底しています。 pH試験紙の確認は胃液が引けなかったり、 数値が測定困難な場合、 判断が難しいという点があります。 また、 チューブ挿入の長さが適正でない留置となっているケースがありますので、 医師と挿入の長さについて確認することが大切ですね。 気泡音の確認だけで過信して実施してしまうケースがありますので、 X線撮影は必須だと考えております。
岩本: やはり在宅ではステーションごとに準備する必要があり、 各個人でpHチェ ッカーを持参したり、 判断したりすることが難しい状況にあります。
須田: 新しい医療機器の開発が目覚ましい時代に、 経鼻栄養チューブの機能が変わっていないことに原因があると思います。 事故を防ぐための冊子を作りましたが、 実施やルールが守られていないのが現状です。

事故防止における今後の展望

経鼻栄養チューブ誤挿入対策のありかたについて

山元: 今回のアンケートでは、 栄養剤誤注入による死亡事故が3件との回答がありました (図5) 。 ほかにも重大な事故が含まれており、 見逃せない結果だと思います。 このことについて皆さんはどのような対策が必要だと思いますか?
鈴木: 今後ますます高齢化の中で経管栄養は必須になってくるからこそ、 オンライン研修やDVD視聴などに加え、 エビデンスに基づいたガイドラインなどで、看護師に限らず医師も含め、 組織全体に周知していく必要があると思います。
岩本: 将来的に労働人口の減少を考えると、 医療安全対策の専門資格制度を設けるだけでなく、 高い意識をもって業務にあたれる人を増やすことをベースに考えていく必要があるのではないでしょうか。 そのためにも、 より安全に、 よりオープンにするためのプロセスが望ましいと思いました。 とくに訪問看護は従業員5名程度の運営が多く、 時間も限られているので研修や認定となると非常に厳しいです。 手技や知識などの部分だけでもエビデンスを提示したガイドラインができると、 各施設で活用され、 広がりやすくなると思います。
浦島: 当院の場合、 栄養チューブの挿入は医師の指示の下、 すべて看護師でおこないます。 とくに新人は入職してすぐに現場に入るような状況です。 まだチェックリストも付けられないような段階にあるので、 皆が簡単に使用できるツールやチェ ックリストなどがあるといいですね。指導体制が整っているとあらかじめ準備ができるので、 看護師の安心、 安全につながると思いました。
須田: 確かに、 新人がいきなり本番で患者さんにおこなうのも、 問題のひとつだと思いました。 できれば事前にシミュレーターで教育できるといいですね。 しかし教育となると現場の負担が増えるので、 責任や指導という点でも人的な問題が出てきますね。
山元: そもそも栄養チューブが何十年も変わらないことも大きな問題です。 正しく挿入されたことが、 簡単にすぐ確認できるものがあればと、 常々思ってきました。 臨床でも事故防止に積極的に取り組み、 訴えていくこと。 そして安全に経管栄養の確認ができる看護師を増やし、 安全に実施できるよう、 それぞれのアイディアを活かしながら、 皆が確実に実施できるような行動マニ ュアルや他職種連携を作ることが大切です。
須田: 自分たちでやらなければならないことがたくさんあります。 新人でもベテランでも誰もが同じように安全に実施することが可能で、 高度な技術を必要としないデバイスができると良いなと思いました。 数十年も栄養チューブの形態、 機能は変わっていないので、 この現実を変えていかないといけないですね。 新たなデバイスが開発されることで、 患者さんやご家族はもちろん、 看護師の安心、 安全も守ることができます。 できること、 できないことは医療施設によって違いはありますが、できる対策について確実に実施していくことが重要だと思います。
岩本: 自分たちのスキルをより確実に実行するためのトレーニングは必要ですね。改めて医療の質を上げる取り組みであることを感じました。 さ っそく共有して活用できるマ ニ ュ アルを作 っ ていこうと思います。
山元: 経鼻栄養チューブ誤注入による事故が変わらず起きている現実を踏まえ、我々職能団体としても防止対策の活動を医療 ・ 介護 ・ 看護職に広げて、安全行動を定着させていかなければと痛感しました。本日はありがとうございました。

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。



他の方が見ているコラム