医療現場の未来を変えるアイテムシリーズ
生体透過光による胃管先端位置確認法
投稿日:2022.04.20
経鼻胃管の留置は、医療現場では一般的な手技として医師・看護師による挿入が広く行われています。しかし、正しい留置位置の確認方法が確立しておらず、様々なリスクが指摘されてきました。経鼻胃管の誤挿入に伴う栄養剤の誤注入事故では、重篤な肺炎や、窒息などを引き金に死に至ることがあるので、繰り返される誤挿入事故を防ぐため、2018年9月には医療安全調査機構から医療事故の再発防止に向けた提言第6号が出されています。
本提言を受け、生体透過光(Biologically transparent light:以下BT光)を利用し、胃管挿入位置が体外から光によって確認できる方法についての研究論文を発表された、国際医療福祉大学麻酔科教授の正木英二先生に、その新しい方法についてお話を伺いました。
本提言を受け、生体透過光(Biologically transparent light:以下BT光)を利用し、胃管挿入位置が体外から光によって確認できる方法についての研究論文を発表された、国際医療福祉大学麻酔科教授の正木英二先生に、その新しい方法についてお話を伺いました。
従来の胃管留置位置確認法の問題点
経鼻胃管カテーテル挿入時の位置確認方法は、 「気泡音の聴取」 「胃液の吸引」 「エ ックス線 (以下X線) 撮影」 などがあり、 これらの複数の方法で確認する必要があるとされています。 しかし、 気泡音の聴取と胃液の吸引は確実な確認方法ではありません。 とくに気泡音に関しては胃内ではなく、 肺や食道に留置されている場合でもしばしば聞き取れることがあるため、 不確実な方法です。 最終的にはX線撮影での確認が最も有用な方法とされていますが、 確認までには時間を要し、 医療スタッフの人手も必要となるため、 容易に行うことができません。また、スタッフや周りの患者さんへの放射線曝露も大きな問題となります。
「経験や勘など独自の判断で誤挿入に気づかないケースが少なくありません。看護技術の 一 つとして、 日々行われているからこそ確実に、そして安全な確認方法を実施していきましょう。 そのためにもプロトコールを重視した手技をしっかり意識してほしいと思います」 と正木先生は慣れに対する警鐘を鳴らします。
「経験や勘など独自の判断で誤挿入に気づかないケースが少なくありません。看護技術の 一 つとして、 日々行われているからこそ確実に、そして安全な確認方法を実施していきましょう。 そのためにもプロトコールを重視した手技をしっかり意識してほしいと思います」 と正木先生は慣れに対する警鐘を鳴らします。
生体透過光を体外から観察
今回正木先生らが発表された新しい確認法は、BT光を応用した方法です。BT光は、生体の軟部組織を透過する波長の赤色光で、大腸内視鏡下経皮的S状結腸固定術の位置決定の際にも活用されており、このしくみを応用しています。
経鼻胃管内に光ファイバーを挿入、光源装置を接続し先端が光ったまま経鼻胃管を挿入します。胃内に正しく挿入されている場合、BT光を体外から視認することができます。
BT光を用いた確認方法の有用性評価試験が、全身麻酔下の患者102名に対して実施され、全例にX線による留置位置の追加確認が行われました。結果は、上腹部でBT光を検出することができた72名全例でX線でも胃内留置が確認できました。上腹部でBT光が検出できなかった30名のうち、X線により21名は胃内留置が、他の9名は気管、または食道に誤挿入されていることが確認されました。
このことは、光が検出できれば必ず経鼻胃管が胃内に確実に留置されていることを示しています(陽性的中率100%)。また、光を検出できなくても胃内留置されていることはありますが(感度77%)、X線検査で胃内に留置されていないと確認された場合には、BT光の検出もできませんでした(特異度100%)。
経鼻胃管内に光ファイバーを挿入、光源装置を接続し先端が光ったまま経鼻胃管を挿入します。胃内に正しく挿入されている場合、BT光を体外から視認することができます。
BT光を用いた確認方法の有用性評価試験が、全身麻酔下の患者102名に対して実施され、全例にX線による留置位置の追加確認が行われました。結果は、上腹部でBT光を検出することができた72名全例でX線でも胃内留置が確認できました。上腹部でBT光が検出できなかった30名のうち、X線により21名は胃内留置が、他の9名は気管、または食道に誤挿入されていることが確認されました。
このことは、光が検出できれば必ず経鼻胃管が胃内に確実に留置されていることを示しています(陽性的中率100%)。また、光を検出できなくても胃内留置されていることはありますが(感度77%)、X線検査で胃内に留置されていないと確認された場合には、BT光の検出もできませんでした(特異度100%)。
医療安全 ・ 患者安全の確立を
経鼻胃管を必要とする患者の多くは、嚥下障害、意思疎通困難、身体変形などで挿入そのものが困難であり、誤挿入リスクが高いとされています。だからこそ、不確実な気泡音での確認方法や経験に基づく判断をやめなければなりません。確実に胃内への挿入ができること、そして誤挿入に気づき栄養剤等の注入に進めないことが、誤挿入による医療事故防止の重要なポイントです。
「多忙を極める業務の中、医療者にとっては経鼻胃管の挿入は日常茶飯事の行為です。しかし患者さんにとっては 一 生に 一 度の 一 大事かもしれません。私たち医療者は、大切な家族をお預かりし、その命を守っています。もしご自身の母親や子どもだったら…という気持ちで日々の行為に向き合いたいものです。
今回の結果は全身麻酔下、仰臥位102名において言えることであり、他の体位での結果や皮下脂肪厚、胃液の影響なども検討していく必要があるでしょう。今後はこのBT光による確認法が安全な確認方法として定着していくよう、さらなる課題に取り組んでいきます」 と正木先生。
以前より、看護師の間でも「確実な胃管留置位置の確認法」は切望されていました。今回紹介したBT光による確認法が選択肢の 一 つとして確立されることを期待しましょう。
「多忙を極める業務の中、医療者にとっては経鼻胃管の挿入は日常茶飯事の行為です。しかし患者さんにとっては 一 生に 一 度の 一 大事かもしれません。私たち医療者は、大切な家族をお預かりし、その命を守っています。もしご自身の母親や子どもだったら…という気持ちで日々の行為に向き合いたいものです。
今回の結果は全身麻酔下、仰臥位102名において言えることであり、他の体位での結果や皮下脂肪厚、胃液の影響なども検討していく必要があるでしょう。今後はこのBT光による確認法が安全な確認方法として定着していくよう、さらなる課題に取り組んでいきます」 と正木先生。
以前より、看護師の間でも「確実な胃管留置位置の確認法」は切望されていました。今回紹介したBT光による確認法が選択肢の 一 つとして確立されることを期待しましょう。
臨床現場のニーズに応え さらなるデータの蓄積を
「医療事故の再発防止に向けた提言第6号」専門分析部 部会長
帝京大学 医学部 外科学講座
帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科
教授
帝京大学 医学部 外科学講座
帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科
教授
福島 亮治 先生
臨床現場のニーズは迅速・確実・安全な確認法
経鼻経管栄養患者はカテーテルが抜けてしまうと栄養が摂れませんから、 抜けた場合は迅速に確実に胃内に再挿入する必要があります。 しかし迅速に簡便にできる気泡音での位置確認は確実性に問題があります。 確実に判断できるX線での確認は、 その設備と放射線技師、 患者の移動が必要なため負担が大きく、 確実性と簡便性を両立させる確認法の確立がかねてより課題となっ ていました。
実際に挿入を行う看護師の不安を思うと、 今回紹介されたBT光法による確認法はとても心強く、 臨床現場にとって歓迎すべきことだと思います。 通常の経鼻胃管挿入と同じ手技で、 カテーテルの留置位置が体外から光で確認でき、 万が 一 、 光が検出できない時はX線で確認する、 という判断基準にもなるためです。
今後、 BT光法が定着してゆくためには、 使いやすさや確実性、 光が見えなかった場合の対応など、様々なシチ ュ エーションでのデータを蓄積してコンセンサスを獲得してゆく必要があるでしょう。
実際に挿入を行う看護師の不安を思うと、 今回紹介されたBT光法による確認法はとても心強く、 臨床現場にとって歓迎すべきことだと思います。 通常の経鼻胃管挿入と同じ手技で、 カテーテルの留置位置が体外から光で確認でき、 万が 一 、 光が検出できない時はX線で確認する、 という判断基準にもなるためです。
今後、 BT光法が定着してゆくためには、 使いやすさや確実性、 光が見えなかった場合の対応など、様々なシチ ュ エーションでのデータを蓄積してコンセンサスを獲得してゆく必要があるでしょう。
複数の確認法を組み合わせることが大事
経管栄養においては、トラブルに気づかずに栄養剤を投与することが重大な事故につながります。医療安全対策の面からは、気管などへの誤挿入だけでなくカテーテルの材質 ・太さ・挿入の仕方によっては穿孔の可能性もあることを忘れてはなりません。胃の近くでBT光が体外から検出できたとしても、カテーテルが胃を突き破って腹腔内に留置されていることもないとはいえません。そうなるとBT光でもX線でも正しい判別が難しいことを認識しておきましょう。
何事も100%確実はありえません。判断に迷うときは、細やかな観察を行い複数の確認法を組み合わせるなどして、より安全な医療を患者に提供していきたいですね。
何事も100%確実はありえません。判断に迷うときは、細やかな観察を行い複数の確認法を組み合わせるなどして、より安全な医療を患者に提供していきたいですね。
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