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ナースプラクティショナーまでの道第10回

連載コラム「ナースプラクティショナーまでの道 ~看護師人生中間地点~」 第10回

投稿日:2012.07.20

第10回 看護師の役割 後編

 Kさんは妊娠を希望し、血糖値を改善するための努力をもう1回頑張ると宣言して初回面談は終わった。


しかし、2ヶ月後の診察日を待たずして、ある日、妊娠で緊急入院になったことの連絡が入った。


妊娠を許可できるほどではないが、この1ヶ月で随分改善していたデータが、Kさんの努力を表していた。


病室前の廊下でKさんは私の顔をみるなり、涙目で抱きついてきた。「まだ妊娠には危なかったことは聞いた。


不安、、、でも産むの!やっと私のおなかに来てくれた命だから。」その自己決定後、Kさんは妊娠成立時のハイリスクを少しでも取り戻すかのように、寝る間を惜しんで血糖管理をした。


「朝食の7時まで放置しておくと血糖値が上がる。5時はまだ高くないからここで速効型インスリンを打つと7時までもつと思うから2単位だけ打つわ。」と彼女は1日6回の食事療法に加え9回の血糖測定とインスリン投与で妊娠期を乗り切り、無事に出産日を迎え、元気な男児を産んだ。


出産直後に訪床すると、Kさんはぐったりしているどころか元気いっぱいに「中山さん、この子を抱いて!」と私に児を抱かせてくれた。


後で知ったのだが、私はご主人の次にKさんよりも早く抱かせてもらったそうだ。「中山さんに会っていなかったら、この子はこの世に存在しない子だった。私も母親になることはなく、家族をもつこともなかった。


この子の命はいろんな人のいろんな思いがこもっている。だから、丁寧に生きていってほしいという思いをこめた名前をつけるの」と聞いて、目頭が熱くなった。


妊娠中、Kさんがバーンアウトしないか、養生法は医学的に正しいか、児の発育は順調かなど、看護師として伴走させてもらった。


初回面談時の看護の視点の関わりが、Kさんご夫妻それぞれのご両親からKさんご夫妻、そして誕生した子へと「命のリレー」につながったのではないかと思っている。


 現在のKさんは、インスリンポンプを装着して、HbA1cは6.2〜6.5%で経過し、診察日には血糖値の評価とポンプの設定、カーボカウントの評価と次のプランニングも含めて私に報告するなど、セルフケアの達人となっている。


 1型糖尿病をもちながら、育児と仕事を両立し、患者会活動も院内外、それも中国・四国・東海と幅広く活動を広げている。 


 オレムの看護論では「セルフケアができているということは、病気をもちながらでも“健康”であるということ」と示されている。そう、私たち看護師の役割は、病気を持ちながらでも患者さんが健やかに生きていくための支援だ。


身体の管理だけでなく、患者さんが今までの時間を生きて(過去)、今存在し、そして未来を生きるという時間軸で捉え、患者さんをとりまく環境(人間関係、仕事、経済環境、趣味など)、そして人間としての発達段階もふまえ、患者さんの心も身体も、より健康が維持増進できるように全力を尽くす使命があると日々考えている。

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