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医療現場の未来を変えるアイテムシリーズ

高齢者の低栄養予防と おいしい食事をサポートする 結晶性MCTの活用

投稿日:2021.10.18

近年、高齢者のサルコペニア、フレイルの要因となる低栄養の及ぼす影響が社会的課題となっていますが、その原因は加齢に伴う喫食量の減少です。また摂食嚥下機能が低下した方への食事は、加水による栄養密度の低下によりさらに低栄養を引き起こしやすく、少量高エネルギーおよび物性配慮の視点が欠かせません。今日ではMCTオイル(中鎖脂肪酸油)の活用が病院・施設で進んでいますが、このたび嚥下食に活用しやすい結晶性MCTが開発されました。そこで今回、摂食嚥下機能の低下した高齢者の食支援に力を入れている戸原玄先生に、結晶性MCTの持つ可能性についてお伺いしました。

今注目の結晶性油脂

 MCT(Medium ChainTriglyceride: 中鎖脂肪酸油) は消化 ・ 吸収に優れ、低蓄積性でエネルギーになりやすい特長があるため、医療現場では古くから腎臓病患者のエネルギー補給用途や濃厚流動食の配合成分として利用されてきました。また味にくせがなく、様々な食材に馴染むことから、最近では食が細くなった高齢者や嚥下調整食のエネルギーアップにも利用が進んでいます。店頭でも手軽に購入でき、個人的に家庭で使用している方もいらっしゃるのではと思います。
 一方、新開発の結晶性MCTは油脂成分100%を超微細なパウダー状に結晶化したものです。液体に混ぜるとその配合量によって保形性を生み、ペースト状に変化する特長があります。エネルギーアップの視点で見ると、MCTオイルの場合は、配合量が食材の10%を超えると油っぽさを感じやすく、口当たりにも影響が現われてきます。しかしパウダー状の結晶性MCTは、 混ぜる食品に対して30%以上加えても油っぽさをほとんど感ません (図1) 。
 例えば結晶性MCTを加えて作ったアイス風デザートは1gあたり約5㎉。市販のアイスの2倍以上のエネルギー量ですが、食感はアイスとほとんど変わりません。溶解する際の吸熱反応で冷涼感を感じる口あたりの良さは、低下しがちな食欲を増進させるきっかけにもなっているようです。

嚥下物性に関する評価

 結晶性MCTを食事に活用するにあたり、ゼラチンゼリーのように溶けた油脂成分が液体になり誤嚥を誘発するのではないかということが懸念されました。 そこで結晶性MCTの摂食嚥下障害患者への適用を検証するため、水分と油脂に着色して調整した試験食を用いて、嚥下内視鏡(VE) による評価試験が行われました(図2) 。
 アイス風デザートを試食され、美味しさと高エネルギーを満たす嚥下食の可能性に期待を寄せる戸原先生に、この試験結果の評価を伺いました。
 「本試験において、 当初懸念されていたような融解した油脂成分の咽頭流入は見られませんでした。試験食は水分と液体が完全に二層に分かれることなく、食塊としてまとまりを保持したまま咽頭に移送される傾向でした。 また、とろみに近い移送のため、 若干嚥下反射が遅い方でも嚥下反射機能が障害されていなければ誤嚥のリスクは低いと思われます。
 溶媒にとろみ状のジ ュ ースを用いたのは、結晶性MCTが粘性のある液体と混ざりやすく、さらさらの液体には混ざりにくいためです。 混ぜる溶媒にはある程度の粘性のついた液体を選ぶことになります。 油脂成分自体の粘性も維持されるため、 患者さんの嚥下機能に合った食形態であれば、結晶性MCTを使った美味しい食事やデザートによるエネルギーア ップを試してみる価値はあると思います」 。

食支援で大切にしたい食事の楽しさとエネルギー

 喫食量の低下した高齢者の食支援のポイントを、 戸原先生にまとめていただきました。

口当たりや食材の風味を変えない

 エネルギーの充足においしさや食べきった満足感が加わることは、 食支援には欠かせない側面だと考えます。

「食べているのに低栄養」 を見逃さない

 結晶性MCTを利用することで、 加水せずに飲み込みやすくエネルギーアップ可能な食事を提供できるのではないでしょうか。濃厚流動食も全量摂取を前提としたエネルギー組成なので、 口当たりが変わることで全量摂取できれば、 確実なエネルギー確保につながります。

食事で疲れさせない

 食事は体力を消耗するため、疲れて食べるのをやめてしまう方も少なくありません。高エネルギーでも少量であれば、 食事時間は短くてすみます。 食事介助時間も短縮できるので、介護者の負担軽減やマンパワー不足への貢献にもつながります。
あなたも食事から医療現場の未来を変えてみませんか?(編集部)

【現場から】

結晶性MCTの活用で広がる可能性

戸原先生が嚥下機能検査に出向いている新八千代病院の、栄養科科長大嶋晶子さんに結晶性MCT活用事例とその印象を伺いました。
 結晶性MCTは食材の30%量を混ぜても油っぽくならないので、使いやすいと思います。また、使用量によって物性の変化が得られ、使用する食品の幅が広がります。混ぜることで食材の味が薄まる特徴もあり、味の濃いものや癖のあるものに混ぜると食べやすくなるように感じます。患者さんに提供している少量高エネルギーの栄養補助食品(4㎉/ml濃いとろみ状) に混ぜてアイスのようにして試食してみたところ、 強い酸味だけでなく気になっていた付着性も緩和され、食べやすくなりました。
 患者さんにも好評で、 残されがちな栄養補助食品も見た目と口当たりが変わると全量摂ることができました。透析患者さんで、アイスしか食べず病院食は全く手を付けなかった方は、これをきっかけに病院食も食べてみようかな、という気持ちがでてきました。看護師の話では、一 定の栄養量が確保されているためか、血圧が安定してきたようです。
 摂食嚥下機能の低下で液体を誤嚥しやすい方や、食品にまとまりを必要とする方へ、とろみをつける代わりに例えばアイス風に見た目や食感に変化をもたせてみると、安全かつ食べ方のバリエーシ ョ ンが増え、食べる楽しみ、意欲につながると思います。
現在試作を重ねている大嶋さんのお勧めは、“まぜたらチーズケーキブルーベリーソース”。
「おいしくて高エネルギーなのでお勧めですが、そればかり食べて栄養バランスが偏らないように、モニタリングすることが大切です」。

記事中の結晶性MCTは日清オイリオグループ株式会社から販売されています。

エネクイック 200g×4袋/ケース(要冷凍) 
(お問い合わせ)TEL:03-3206-5452

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