ニュートリション・ジャーナル NUTRITION JOURNAL第22回
ニュートリション・ジャーナル NUTRITION JOURNAL ” 理解なき支援が「溝」を生む” Vol.06_その1
投稿日:2020.09.06
在宅歯科医療の
新たな視点に「食支援」を
近年、「食べられない」居宅療養高齢者の増加に対し、国は地域包括ケアシステムの一環として、食べるために必要な口腔(および口腔機能)状態の管理・指導を在宅歯科医療に対して求めるようになった(理解なき支援が「溝」を生む06_2 参照)。
今回、医療法人社団若葉会湘南食サポート歯科の訪問歯科診療を取材させていただく機会を得た。初回訪問の2019年6月から現在までの経過を、担当した歯科医師、管理栄養士、そして介護者である息子さんに伺った。
改めて「食べられるロ」の条件を再考すると共に、歯科医師が食支援に関わる意義を探る。
今回、医療法人社団若葉会湘南食サポート歯科の訪問歯科診療を取材させていただく機会を得た。初回訪問の2019年6月から現在までの経過を、担当した歯科医師、管理栄養士、そして介護者である息子さんに伺った。
改めて「食べられるロ」の条件を再考すると共に、歯科医師が食支援に関わる意義を探る。
まずは栄養改善で、歯科治療に耐えられる体力を
「こんにちは―。ちょっと練習しますよ。はい、大丈夫ですね」
笑顔で挨拶をかわし、ベッド上の和田文江さん(95歳※取材当時)の口腔内にそっと歯科治療用具を当てるのは、歯科医師の三幣利克先生(医療法人社団若葉会湘南食サポート歯科)。
同居して介護にあたっている次男の進さんが、通院できない文江さんの下の歯の治療を希望し、ケアマネジャー経由で訪問歯科医療を依頼。主治医からの指示書に基づき初めて訪問したのは2019年6月。
笑顔で挨拶をかわし、ベッド上の和田文江さん(95歳※取材当時)の口腔内にそっと歯科治療用具を当てるのは、歯科医師の三幣利克先生(医療法人社団若葉会湘南食サポート歯科)。
同居して介護にあたっている次男の進さんが、通院できない文江さんの下の歯の治療を希望し、ケアマネジャー経由で訪問歯科医療を依頼。主治医からの指示書に基づき初めて訪問したのは2019年6月。
文江さんの口腔と全身状態を診察した三幣先生の第一声は「まず栄養状態を改善しましょう」だった。
当時の文江さんはベッドに寝たきりで、主な食事のメニューは主治医から処方された経口栄養補助食品、経腸栄養剤と好物の大福や饅頭。経腸栄養剤が栄養バランスに優れていることを進さんも知ってはいたものの、文江さんは必要量を全量摂取することはほとんどなかった。文江さんの要望に応じて好物を食べてもらっていた。
その結果、体はやせ細り、褥瘡が発生、訪問スタッフによる日々の丁寧なケアにも関わらず改善傾向はみられなかった。
三幣先生は初回訪問時をふり返り、「当時、食べられないなら胃痩もある、という提案をしたほど早急な栄養確保が必要な状態でした。歯を治すにしても、それに耐えうる体力が必要なため、喫緊の課題は栄養状態の改善だったのです」と振り返る。
その結果、体はやせ細り、褥瘡が発生、訪問スタッフによる日々の丁寧なケアにも関わらず改善傾向はみられなかった。
三幣先生は初回訪問時をふり返り、「当時、食べられないなら胃痩もある、という提案をしたほど早急な栄養確保が必要な状態でした。歯を治すにしても、それに耐えうる体力が必要なため、喫緊の課題は栄養状態の改善だったのです」と振り返る。
「食べられる口」へ
栄養からのアプローチ
歯があるだけでは食べられない
「食べ物を噛み切ったりすりつぶしたりする歯はとても便利なものですが、それを動かしているのは口の周りや喉の筋肉と筋力です。これらが健康的に維持され脳からの指令を受けて協調的に動かなければ、歯があっても食べることは難しいといえます。
逆に、歯がなくても口を動かす筋力(運動機能)が維持されていることで、歯ぐきでつぶして食事を楽しんでいる方も少なくありません。
文江さんもご自分の歯は1本しかありませんが、当院の管理栄養士による栄養指導と歯科衛生士による口腔ケァを並行して行っていくにつれて低栄養状態を脱し、歯ぐきで食事を召し上がっておられます」
と、歯がそろうだけでは食べられないことを強調する三幣先生。
逆に、歯がなくても口を動かす筋力(運動機能)が維持されていることで、歯ぐきでつぶして食事を楽しんでいる方も少なくありません。
文江さんもご自分の歯は1本しかありませんが、当院の管理栄養士による栄養指導と歯科衛生士による口腔ケァを並行して行っていくにつれて低栄養状態を脱し、歯ぐきで食事を召し上がっておられます」
と、歯がそろうだけでは食べられないことを強調する三幣先生。
歯科医療に栄養状態の把握は必須
「私たちが訪問している高齢者の方の多くは口腔内の状態が悪く、噛めない・食べられないという訴えが多く聞かれます。ここで歯科医療や栄養指導などの介入が行われず、食べやすさ優先の(咀囎しなくても食べられる)食事が提供され続けると、咀囑機能が低下して、さらに食べる力が低下するという悪循環をもたらします。
この悪循環は「食べられない」にとどまらず、唾液分泌量の減少や舌の可動域低下といった口腔内環境の悪化、それに伴う食べる力の低下や栄養不足、体力や免疫力の低下といった負のスパイラル(図1)につながっていきます。 このプロセスの中で、体中の筋肉量が減少し、食べるために必要な咀噌や嚥下の筋力も衰えてしまうことは、容易に想像できます。
人は、生きるために食事(栄養)を口から摂っていますから、良い栄養状態を保つことと食べられる口を整えることは、歯科医師として非常に重視するところです。
また、訪問診療を依頼される方は外来通院できない理由があるということです。
もちろん疾患や家庭環境による場合が多いとは思いますが、中には通院できない理由が低栄養による筋力低下で動けなくなっているケースもあるのではないか、というところにも意識が向きますね」と、低栄養のリスクに警鐘を鳴らす。
在宅歯科医療が必要な患者は、口腔内にトラブルをかかえているだけでなく低栄養の問題があるようだ。前述の負のスパイラルに陥っている可能性があるからだ。そのため、患者の低栄養状態が改善できないと、全身状態の低下と口腔トラブルという二重の苦痛を強いることになる。「食べる」という根源的なニーズを支えるために、歯科医療における栄養状態の把握は必須といってよいだろう。
また、訪問診療を依頼される方は外来通院できない理由があるということです。
もちろん疾患や家庭環境による場合が多いとは思いますが、中には通院できない理由が低栄養による筋力低下で動けなくなっているケースもあるのではないか、というところにも意識が向きますね」と、低栄養のリスクに警鐘を鳴らす。
在宅歯科医療が必要な患者は、口腔内にトラブルをかかえているだけでなく低栄養の問題があるようだ。前述の負のスパイラルに陥っている可能性があるからだ。そのため、患者の低栄養状態が改善できないと、全身状態の低下と口腔トラブルという二重の苦痛を強いることになる。「食べる」という根源的なニーズを支えるために、歯科医療における栄養状態の把握は必須といってよいだろう。
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ニュートリション・ジャーナル
理解なき支援が「溝」を生むVol.06
【在宅歯科医療の新たな視点に「食支援」を】
その1『まずは栄養改善で、歯科治療に耐えられる体力を』
その2『食事が眠っていた機能を呼び覚ます』『鷲澤尚宏先生に聞く』
その3『TOPICS』不健康寿命を生きる高齢者の「食べる力」と栄養状態の実態調査
ニュートリション・ジャーナル
理解なき支援が「溝」を生むVol.06
【在宅歯科医療の新たな視点に「食支援」を】
その1『まずは栄養改善で、歯科治療に耐えられる体力を』
その2『食事が眠っていた機能を呼び覚ます』『鷲澤尚宏先生に聞く』
その3『TOPICS』不健康寿命を生きる高齢者の「食べる力」と栄養状態の実態調査
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