西山 順博先生の胃瘻(PEG)ケアコラム第3回
第3回 PEG患者さんの難渋する下痢について
大分健生会病院は全国で唯一のPEGセンター http://www.oita-min.or.jp/peg.htm を設置されている病院であり、副院長の今里真先生を中心に多職種が協力しPEG患者さんのQOL向上に力を注がれています。
会は連休の真ん中であったのにもかかわらず多くの方に参加いただきました(図1・図2)。
図1
会は連休の真ん中であったのにもかかわらず多くの方に参加いただきました(図1・図2)。
図1
図2
メインイベントである昭和大学薬剤部准教授の倉田なおみ先生のお話は、薬剤簡易懸濁法の開発に至った経緯、最前線をお話しいただきました。 http://www10.showa-u.ac.jp/~biopharm/kurata/
改めてチーム医療の大切さ、患者中心の医療が必要であることが身にしみました。また、倉田先生は簡易懸濁法研究会 http://kendaku.umin.jp/ を設立されており、早速私も入会申し込みをさせていただきました。
私の講演は、増加していくPEG患者さんをいかに在宅で管理してける環境作りが必要であるかについてのアラカルトをお話させていただきました。
フロアーからの質問で多かったのは「PEG患者さんの下痢に対する対応」についてでした。そこで今回のコラムでは下痢についての対応についてお話したいと思います。
何事においても原因から考える対策が必要となります。PEG患者さんの下痢の原因には大きく6つあると考えます。
①下痢をしやすい薬剤の投与
②感染性腸炎(薬剤性腸炎)
③PEG導入前の絶食期間が長かった
④乳糖不耐症である
⑤栄養剤の組成(浸透圧が高い、蛋白質の構成の問題、脂質が多い)
⑥注入速度が速い です。
まずは①を除外し、②については便の培養、CDチェック(耐性菌の問題)を行う必要があります。
PEGカテーテル、イルリガートルが不衛生なことが原因で感染性腸炎を起こすこともあります(医原性です)。
また、どこの施設でもPEG造設時に数日間抗生剤を投与されます(肺炎にての入院でも投与されます)。免疫力の低下した患者さんは短期間の抗生剤投与にても腸管内の菌交代現象がおこり、偽膜性大腸炎をはじめとする抗生剤起因性腸炎により下痢が起こります。
③④が起こらないように我々の施設ではできるだけ腸管を使える方には腸管を使うようにしています。
栄養剤が難しいケースでもGFO(大塚製薬:グルタミン・ファイバー・オリゴ糖)を投与するようにしており、PEG造設前に経鼻胃管を挿入し経管栄養を開始します。
その際に乳糖不耐症であるかは判断できますが、過去に牛乳にて下痢をしたことがあったか否かを聞き取りは必須項目です。
乳糖不耐症の方はもともと乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性が弱く、乳糖(牛乳100mlには約5g含まれている)をグルコースとガラクトースに分解することができず、吸収されないまま大腸内に到達し浸透圧が上昇し、水分が大腸内に引き込まれ下痢になります。
乳糖不耐症の患者さんには乳糖の含まれない栄養剤を利用します。⑤栄養剤の組成については製剤により様々です。栄養剤の分類にも使われていますが、蛋白質の構成から、「成分栄養剤」⇒「消化態栄養剤」⇒「半消化態栄養剤」⇒「濃厚流動食」に分けられています。
消化管機能が衰えている方や慢性炎症性腸疾患の方は成分栄養剤を使用しますが、消化管機能に問題なければ濃厚流動食を用います。濃厚流動食に近いほうが下痢はしにくくなります。
栄養剤の浸透圧は、1mlあたり1kcalの製剤においても250~760mOsm/Lと様々です。腸管上皮細胞の浸透圧は300 mOsm/L前後であり、高浸透圧の栄養剤が短時間に腸管に入ると、水分が消化管から腸管内に移動し下痢になります。
本来は栄養剤を水で希釈することは衛生面からお勧めできませんが、浸透圧を下げるために希釈して開始することがあります。
徐々に腸管をならしていくことで希釈しなくても良くなります。また、聖書にはあまり書いていませんが、臨床では脂肪分の多い栄養剤は下痢になることが多いように思います。脂肪分の少ない栄養剤に変更することも有用です。
⑥については、胃切除術後のダンピング症候群と同じ機序ですが、腸ろう・切除胃に対するPEG・注入スピードが急速であると下痢になります。
また、我々のPEG造設位置の検討ではPEGが胃の前庭部(胃幽門側)に造設されているケースに下痢が多いように思われます(このような方の注入は左側臥位で行います)。
注入スピードについては、最初はゆっくりと注入し、徐々にスピードをUPしていけば下痢にならないようになることが多いです(絶食期間が長かった方は目標の栄養量の2割から開始し、3日ごとにUPしていくようにしています)。
⑤⑥で難渋するかたについては栄養剤の固形化の適応となります。全ての下痢に対して固形化ではなく、原因を検索し対処していくことが肝要です。
さて、九州にはPEGの勉強会やセミナーが充実しているようです。平成23年7月30日・31日には合宿形式の九州PEGサミットin阿蘇が開催されるとのことです。 http://www.peg.or.jp/news/information/kyushupeg/110730.pdf
関西も頑張らなければと感じながら帰路につきました。
改めてチーム医療の大切さ、患者中心の医療が必要であることが身にしみました。また、倉田先生は簡易懸濁法研究会 http://kendaku.umin.jp/ を設立されており、早速私も入会申し込みをさせていただきました。
私の講演は、増加していくPEG患者さんをいかに在宅で管理してける環境作りが必要であるかについてのアラカルトをお話させていただきました。
フロアーからの質問で多かったのは「PEG患者さんの下痢に対する対応」についてでした。そこで今回のコラムでは下痢についての対応についてお話したいと思います。
何事においても原因から考える対策が必要となります。PEG患者さんの下痢の原因には大きく6つあると考えます。
①下痢をしやすい薬剤の投与
②感染性腸炎(薬剤性腸炎)
③PEG導入前の絶食期間が長かった
④乳糖不耐症である
⑤栄養剤の組成(浸透圧が高い、蛋白質の構成の問題、脂質が多い)
⑥注入速度が速い です。
まずは①を除外し、②については便の培養、CDチェック(耐性菌の問題)を行う必要があります。
PEGカテーテル、イルリガートルが不衛生なことが原因で感染性腸炎を起こすこともあります(医原性です)。
また、どこの施設でもPEG造設時に数日間抗生剤を投与されます(肺炎にての入院でも投与されます)。免疫力の低下した患者さんは短期間の抗生剤投与にても腸管内の菌交代現象がおこり、偽膜性大腸炎をはじめとする抗生剤起因性腸炎により下痢が起こります。
③④が起こらないように我々の施設ではできるだけ腸管を使える方には腸管を使うようにしています。
栄養剤が難しいケースでもGFO(大塚製薬:グルタミン・ファイバー・オリゴ糖)を投与するようにしており、PEG造設前に経鼻胃管を挿入し経管栄養を開始します。
その際に乳糖不耐症であるかは判断できますが、過去に牛乳にて下痢をしたことがあったか否かを聞き取りは必須項目です。
乳糖不耐症の方はもともと乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性が弱く、乳糖(牛乳100mlには約5g含まれている)をグルコースとガラクトースに分解することができず、吸収されないまま大腸内に到達し浸透圧が上昇し、水分が大腸内に引き込まれ下痢になります。
乳糖不耐症の患者さんには乳糖の含まれない栄養剤を利用します。⑤栄養剤の組成については製剤により様々です。栄養剤の分類にも使われていますが、蛋白質の構成から、「成分栄養剤」⇒「消化態栄養剤」⇒「半消化態栄養剤」⇒「濃厚流動食」に分けられています。
消化管機能が衰えている方や慢性炎症性腸疾患の方は成分栄養剤を使用しますが、消化管機能に問題なければ濃厚流動食を用います。濃厚流動食に近いほうが下痢はしにくくなります。
栄養剤の浸透圧は、1mlあたり1kcalの製剤においても250~760mOsm/Lと様々です。腸管上皮細胞の浸透圧は300 mOsm/L前後であり、高浸透圧の栄養剤が短時間に腸管に入ると、水分が消化管から腸管内に移動し下痢になります。
本来は栄養剤を水で希釈することは衛生面からお勧めできませんが、浸透圧を下げるために希釈して開始することがあります。
徐々に腸管をならしていくことで希釈しなくても良くなります。また、聖書にはあまり書いていませんが、臨床では脂肪分の多い栄養剤は下痢になることが多いように思います。脂肪分の少ない栄養剤に変更することも有用です。
⑥については、胃切除術後のダンピング症候群と同じ機序ですが、腸ろう・切除胃に対するPEG・注入スピードが急速であると下痢になります。
また、我々のPEG造設位置の検討ではPEGが胃の前庭部(胃幽門側)に造設されているケースに下痢が多いように思われます(このような方の注入は左側臥位で行います)。
注入スピードについては、最初はゆっくりと注入し、徐々にスピードをUPしていけば下痢にならないようになることが多いです(絶食期間が長かった方は目標の栄養量の2割から開始し、3日ごとにUPしていくようにしています)。
⑤⑥で難渋するかたについては栄養剤の固形化の適応となります。全ての下痢に対して固形化ではなく、原因を検索し対処していくことが肝要です。
さて、九州にはPEGの勉強会やセミナーが充実しているようです。平成23年7月30日・31日には合宿形式の九州PEGサミットin阿蘇が開催されるとのことです。 http://www.peg.or.jp/news/information/kyushupeg/110730.pdf
関西も頑張らなければと感じながら帰路につきました。
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2015.08.07